File90 惑星オルランゲアでの休日③ 救いの主は意外なところにいた
お待たせいたしました
「そうねえ。考えておくわ」
デニスの訴えに、ナターシャさんは眼を伏せ、真剣な様子で返事を返してきた。
それを見たデニスは、少し不安そうな表情をしたあと、コーヒーを一気に飲み干し、
「そういえば婆ちゃん。いつまでこっちにいるつもりなの?俺、あんまり休めないんだけど」
ナターシャさんに話を切り出した。
たしかに、自営業の俺と違い、デニスは勤め人なので、休みが自由にはならない。
もしこれでナターシャさんがごねるようなら、そのあたりを理由に追い返すつもりなのかもしれない。
しかし、返ってきた言葉は、意外すぎるものだった。
「大丈夫よ。今日の午後7時の便でもどるわ」
それを聞いて、俺もデニスも驚いた。
御高齢なのだから、一泊ぐらいはしていくだろうと思っていたからだ。
「え?!日帰りは大変なんじゃないの?今からでもホテルを探して、明日の朝イチとかにした方がいいんじゃない?」
「ホテルがだめなら私の船を使ってもらっても」
俺とデニスは、慌て提案をする。
いくら早く帰って欲しいとはいえ、お年寄りに無理をさせるわけにはいかない。
しかし、ナターシャさんは鼻息を荒くしながらそれを断ってきた。
「だめよ!明日の夜には六角形の庭でアローズ・エイセルのコンサートがあるんだもの!
午後7時の便なら、明日の朝にはヴォルダルに到着できるでしょう?
そこでファンクラブの人達と待ち合わせをしてるの!」
アローズ・エイセルは有名なロックシンガーで、そのファン層は、いわゆるやんちゃな人達が大半を占めるはずだ。
だが、ナターシャさんの表情は、物凄くキラキラしていた。
「若いんだなお前の婆ちゃん…」
「たしかファンクラブの名誉会員だとか何とか…はあ…」
もちろんデニスはその事を知っていて、軽くため息をつき、
「だったら、それが終わってから来ても良かったじゃないか。その方が余裕もできるんだから」
無理目なスケジュールを組んだナターシャさんをたしなめる。
「どうしても貴方の彼女を直接見たかったのよ。でもそれだけの価値はあったわ。こんなにいいお嬢さんだったなんて」
ナターシャさんは、デニスに対し申し訳なさそうにしながらも、俺を見つめてにっこりと笑いかける。
シュメール人としては、男女どちらの褒め言葉もありがたいものではあるが、基本性別が男なため、なんとなく複雑だ。
「さて。船の搭乗開始まではたっぷり時間があるから、それまでは買い物に付き合ってもらおうかしらね」
それからは、軌道エレベーターで惑星上に降り、家族や友達へのお土産購入の荷物持ちとして、ナターシャさんのお供をすることになった。
それから何軒も梯子し、様々な物を購入している間に、搭乗開始の時間が近づいてきたので、乗り遅れないようにと、余裕をもって宇宙港に戻ってきた。
荷物はかなりの量になったが、宇宙港内なら貨物運搬用のドロイドがいるので楽でいい。
それらの荷物を搭乗受付に預け、搭乗ゲート前のベンチにナターシャさんが腰を下ろす。
「ちょっと買いすぎちゃったかしらね」
「受付の人が驚いてたからね」
家族に友達にと色々と買い漁り、かなりの量になった荷物は受付の人にちょっと引かれていた。
「色々美味しそうだったし、素敵なものもあったんだもの」
ナターシャさんは実に楽しそうに笑い、そしてすぐに真剣な表情になった。
「ところでデニス。貴方とライアットさん、恋人じゃないでしょう?」
それを聞かされた俺とデニスは、思わず固まってしまった。
「最初はわからなかったけど、船の自室を見せてもらった時になんとなくね」
やっぱり付け焼き刃では騙されなかったらしい。
「騙していたことは謝る。でも俺が見合いをしたくないのは本当なんだ!頼むから諦めてくれよ婆ちゃん!」
デニスは、意を決して自分の気持ちを正直にぶつけた。
すると、ナターシャさんはゆっくりと口を開いた。
「実はね、こちらにくる前に、うちのひと(夫・デニス祖父)と息子(デニス父)と嫁(デニス母)と娘(デニス父の姉=伯母)と孫娘(デニス父の姉の娘。従姉)にこってりとお説教されたのよ。いい加減にしろって。
それに、私がデニスに紹介した娘達の本性も、孫娘にみせてもらったわ。
私の眼力も落ちぶれたわね。相手の本性も見抜けず、孫の苦しみも分からないなんて…。ごめんなさいねデニス。私が愚かだったわ」
どうやら、家族全員に説教されたことで、ようやく諦めがつき、孫にひどいことをしてしまったことを後悔しているらしい。
デニスの手を取り、悲痛な表情をしていた。
「ライアットさん。貴女にも迷惑をかけたわね。ショッピングにまで付き合ってくれて、本当にありがとう」
「いえ、ちょうど休みをとるつもりでしたから…」
ナターシャさんは丁寧に頭をさげ、自身の我が儘で振り回してしまったことを謝ってきた。
「そうだわ。せっかくだから男性の方の姿を見せてもらえないかしら?デニスの友人なのは間違いないのでしょう?ぜひ拝見しておきたいわ」
そして、俺の男の方の姿がみたいとお願いをしてきた。
別に拒否する理由はないので男の姿になると、
「あら!やっぱりシュメール人は美形が多いのね!あ、デニス。写真をお願いね!」
さっきまでの悲痛な表情はどこへやら。
にこにこしながら俺の腕を取って、デニスに持たせた自分の汎用端末に視線をむけていた。
ともあれ、デニスの祖母のナターシャさんは、惑星ヴォルダル行きの船に乗るため、搭乗ゲートの向こうに消えていった。
「悪かったな。色々振り回しちまって」
「まあ良かったじゃないか。今後見合いをもってこられることは無くなったんだから」
「そうだな…」
ナターシャさんを見送るデニスの顔は、心の底からの安堵の表情だった。
「それにしても若いばあちゃんだったな」
「見合いが絡まなきゃ、良い婆ちゃんだよ」
両親と祖父母がいない俺にとっては、ほんのりだが婆ちゃん孝行が出来たような気がした。
それからとりあえずメシでもと考えていた時、
「先輩!お久しぶりです!」
見知らぬ女の子が、デニスに声をかけてきた。
「リーナじゃんか!どうしてここにいるんだよ?」
「今年大学卒業予定なんですけど、就職先はここの整備作業員を希望してるんです。それで1度見学しておこうかとおもいまして」
「おーそうなのか。じゃあ合格できたらまた俺の後輩になるわけか」
「はい!」
どうやらデニスもその子を知っているらしく、楽しそうに話をはじめた。
しかしすぐに俺がいるのを思い出し、
「悪いなショウン。この子はリーナ・プレカ・ナルマル。俺の高校時代の部活の後輩なんだ」
彼女を紹介してきた。
「初めまして。リーナ・プレカ・ナルマルといいます」
「ショウン・ライアットといいます。デニスとはオルランゲア宇宙港に来てからの付き合いになるかな」
ナルマル嬢は、長めの前髪に厚めの眼鏡をかけた、はっきりいって地味としか表現出来なかった。
が、スタイルは良いし、眼鏡の下は案外美人なのかもしれない。
それに、礼儀もきちんと出来ている。
デニスの表情を見る限り、こういう地味で真面目そうな娘が好みなんだろう。
「ところでリーナ。見学に来たってことは今ついたのか?」
「はい。2~3日滞在する予定なんです」
「あー。じゃあもう1日休みとるかぁ?」
2人の様子を見る限り、ナターシャさんが、アローズ・エイセルのコンサートが終わってから来ていれば、俺にニセ恋人の話は来なかったかもな。
とりあえず、積もる話が長くなりそうなのでコーヒーでも買うことにしよう。
知り合いにいるジャニーズファンのおばちゃんをモデルにしました。
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします




