File85 惑星キストリーデへの貨物輸送④ アンドロイドは愛する人の為に笑顔を見せれるか?
お待たせいたしました
翌日1日過ごしても、カミリアは殺戮マシーンにはならず、海賊にも襲われず、救難信号もなく、マシントラブルもなく、平穏に1日が過ぎていった。
このままなら、明日の夕方には惑星キストリーデに無事に到着するだろう。
こういってはなんだが、カミリアの事はともかく、これが日常のはずだ。
なのに、ここしばらくトラブルが多すぎだ。
一介の貨物輸送業者が経験しなくていいことだらけだ。
そんなことを考えながら、夕食後にコーヒーを飲んでいると、ぼんやり見ていたテレビからこんなニュースが聞こえてきた。
『…では次に、以前お伝えした実の娘を虐待した容疑で逮捕されたラジムー・ジョルセーメ容疑者の妻である、メノス・ジョルセーメ容疑者が、保護責任者遺棄罪で逮捕されました。メノス容疑者は取り調べに対し、「うちの教育方針だ」「虐待をしていたのは夫だけだ」と、供述しているとのことです。これに対し警察は…』
なんとも胸糞の悪くなるニュースだ。
そう思いながらふとカミリアを見ると、なぜか小刻みに震えていた。
「どうした?動作不良か?」
「いっいえっ!何でもありません…」
俺に声をかけられると、びくっと怯えるような反応を見せた。
「とりあえず客室に行って待機電源にしておけ」
「はい…」
カミリアは、俺に促されると、大人しく客室に入っていった。
カミリアを客室に押し込んだ後、俺は操縦室にはいり、録画の準備をしてから通信を入れた。
『はい。ジュゼール・レプリカント社・開発研究室です』
「こんばんは。また夜分にすみませんね」
相手は、発注の責任者、ジュゼール・レプリカント社・開発研究室・開発研究員のオービル・スジン氏だ。
初見の時と同じく、白衣を羽織り、寝不足と疲労がしっかりと溜まり、デスク回りにはテイクアウトの空き容器が散乱していた。
『運送屋の人じゃないですか。カミリアになにかあったんですか?』
ぼんやりした様子でなんの用か聞いてきたので、目を覚まさせる質問をしてやった。
「今回の荷物のアンドロイドのカミリア。あの娘、人間だろう?」
それを聞いた瞬間、スジン氏は目を見開き、真剣な表情になった。
『…解っちゃいましたか…。どうしてかうかがっていいですか?」
「最初の時からの態度と、少し前のニュースをみた様子かな」
『そうですか…』
てっきりはぐらかされると思っていたが、あっさりと認めてきた。
これは、場合によっては警察に連絡する必要がある。
スジン氏の人柄から考えるとあり得ないが、都市伝説の事件を実際に行ってる場合も無くはないからだ。
『事情を…聞いてもらえますか?』
「ああ」
どうやって聞き出そうと考えていたところに、向こうからそういってきた。
向こうが話したいというんだ、話してもらうことにしよう。
『彼女・カミリアの本名はアシュリエ・ジョルセーメ。年齢は16歳。あなたがニュースで見たであろう、ラジムー・ジョルセーメとメノス・ジョルセーメの娘さんです。
僕がたまたまあの娘の家の前を通りがかった時、父親のラジムーが、ガレージであの娘を何度も殴りつけていたんです。
俺は偉いんだぞとか、その顔がムカつくとかわめきながら。
慌てて警察呼びながら駆けつけて保護したんです』
その表情は、嘘や作り話には思えなかった。
そしてスジン氏は話を続ける。
『警察に聞いた話ですが、酷い家だったみたいですよ。
家自体は会社をいくつも経営する資産家。
でもそこは奥さんの実家で、父親は入婿で立場が弱く、嫌味や罵倒なんかは日常のことだったそうです。
その上、母親と祖父母が双子の弟ばかり可愛がり、アシュリエは放置されていたそうです。そのくせ、6歳になったころからは、家事までやらされていたらしいです。
父親はその状況を利用して、ムカつく奥さんににていたアシュリエを殴る蹴るしてストレスを発散していたらしいです』
「父親に同情したくはなるが、どのみち糞だな」
話を聞いて、思わずそう口走ってしまった。
『そのせいで身体はぼろぼろ。僕が保護した時には、全身痣だらけで骨はヒビだらけ、幾つもの内臓疾患、おまけに肺炎がこじれていたせいで、生命の危機だったんですが…』
「脳をアンドロイドに載せ換えて、完全に死んではいない状態にすることはできたと…」
多分ギリギリだったんじゃないかと、勝手にそう思ってしまった。
『はい。でもそれで戻ったとしても、母親・弟・祖父母からの扱いは変わらないし、アンドロイドの身体なら交換が効く分、今まで以上に酷使するでしょう。
なので、警察と相談した結果、保護プログラムを実行することにしたんです。そしたらジュゼール・レプリカントの社長が全面協力してくれまして、外見のまったく違うバイオ体を用意してくれることになったんです。
その載せ換え処置を、惑星キストリーデのうちの本社で行う予定だったんです。あ、もちろん彼女の意思は確認しましたよ』
それなら家族に返すのは絶対に無しだな。
警察だって許可はしないだろう。
「貨物扱いにしたのは、母親や家族に見つからないためか。まあ、母親は逮捕されたみたいだが。それで、載せ換えのあとはどうするんだ?」
『里親に預けられます。どんな人かは僕も知りません』
「教えてはくれないわけか」
『彼女の安全のためですね。それより彼女はよくやってますか?』
「ああ。家事は万能らしいからな。いつでもあんたのところに嫁にいけるさ」
『冗談を言わないでください!』
スジン氏は、からかわれたことに真っ赤になって反応していた。
俺だってあんたのミスでいらぬ緊張を強いられたんだ。
これぐらいの反撃はかまわないだろう。
翌朝。
重い話を聞いたせいか、カミリアの様子がどうにも気になってしまう。
もちろん彼女はそんなことを知るはずもなく、昨日と同じように働いていた。
しかし人間と解ると、初見で銃を向けてしまったのは申し訳なく思うが、形は違うが密航したようなものだから、対応としては問題はない。
とはいえ、罪悪感があるのは間違いない。
なので俺は、思いきってカミリアに声をかけた。
「カミリア。ちょっといいか?」
「なんでしょう?」
そう返事をしたカミリアの表情は、確かに人間のものだった。
ホーゼンのおっさんのとこのエプラも、人間のように表情が豊かだが、それはああ見えて20年は稼働しているその蓄積のたまものだろう。
「スジン氏から話を聞いたよ」
「はい…」
その名前と『話』が出たため、彼女の表情が暗くなる。
だが話の筋はそっちじゃない。
「そのー、初見で銃を突きつけたのはすまなかったな」
「気にしないでください。あの状況なら誰でもそうしますし、そうしないといけません。船長さんとしては当たり前の行動です」
「そういってくれるとありがたいよ」
「こちらも騙すような形になってしまって申し訳ありませんでした」
「タイマーが作動してなければ気がつかなかったさ」
虐待されていたにもかかわらず、これだけしっかりとした考えができるのは、本気で感心する。
「里親のところにいってからは、スジン氏には会いにいくつもりなのか?」
「すぐにはダメだそうです。関係を疑われるかもしれないそうなので。それでも、私はお兄さんにお礼がしたいと思ってるんです。必ず」
確かに、彼女を保護した人物の回りに、急に纏わりつく人間が現れたら、怪しまれるだろう。
本当なら、直ぐにでも会いに行きたいだろうが、そこを我慢しないといけないのは、なかなか大変だ。
「そうか…。まずは載せ換えが無事に終了することを祈っておくよ」
「はい。ありがとうございます」
その彼女の笑顔は、アンドロイドのものとは思えない、いい笑顔だった。
そしてそんな話をしてから数時間後。
船は無事に惑星キストリーデに到着した。
用語解説:バイオロイドの『交換』とは?
機械部品で構成されているアンドロイドは、部品を交換することで、機能の維持・長期間の稼働ができます。
基礎フレームの劣化がきたとしても、蓄積情報を新しい電子頭脳や生体脳に写し変え、新しい機体に乗せかえが可能です。
バイオロイドの場合は、細胞再生液を満たした専用のカプセルにはいり、細胞の交換を行う事で機能の維持・長期間の稼働を可能にします。
その際、記憶は一時的に電子頭脳に記録・保管され、再生後に新しい生体脳に写されます。
カミリアはショウンの相棒にはなりませんが、ショウンが相棒を持とうかな?という土台になります。
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