File83 惑星キストリーデへの貨物輸送② 徹夜はいい仕事の敵であり、絶対に味方にはならない
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『本当に申し訳ありませんでした!』
画面の向こうで、科学者っぽい白衣をきた青年が平謝りをしている。
『輸送用のカプセルのセットや、部品の積み込みを徹夜開けのぼーっとした状態でしていたので、タイマーが入っていたとは思わなくて…』
この青年は、今回の依頼者である、ジュゼール・レプリカント社の開発研究員をしているオービル・スジン氏。
彼が積み込みの作業をし、タイマーを間違って入れてしまった張本人だ。
連絡を入れた時も、何らかの作業中だったらしく、疲れた顔で現れた。
「そちらで新しく開発した虐殺アンドロイドでも寄越してきたのかと、思いましたよ」
はっきりいって相当緊張したのは事実だし、アンドロイドの暴走は、何年かに1回ほどだが無くはないので、これぐらいの反撃は良いだろう。
「私はそんなことはしませんよ!」
『昔そういう事件があったんだよ』
アンドロイドは不機嫌そうに抗議するが、スジン氏が例の都市伝説を事実みたいに説明した。
やっぱりあの手の話は色んなところに広がっているようだ。
「ともかく、この子は停止状態にさせてもらっていいかな?」
積み荷に勝手に動き回られるのは困るので、出荷時の状態に戻して貰いたい。
そう訴えるが、
『すみません。実はその…彼女をそのまま起動状態にしておいてもらえませんか?目的地に着くまでは船の掃除や身の回りの世話なんかをさせてかまいません!実働のデータが取りたいんです!お願いします!代金は倍額をお支払いしますから!』
逆にお願いをしてきやがった。
まあ、我が儘な客というのは山ほどいるわけだが、荷物を乗客にしてくれという我が儘は初めてだ。
アンドロイドは、申し訳無さそうな、それでいてお願いするような表情を向けてくる。
発見した時の、いやに怯えるような様子を見るに、気の強い性格設定ではないようだ。
「はあ…そのかわり、アンドロイドがなにかしでかした場合は、全額弁償してもらいますからね」
『わかりました!ありがとうございます!』
「ありがとうございます!」
俺が許可を出すと、依頼者と荷物は嬉しそうに、頭を下げてお礼を言ってきた。
それから少し研究員とアンドロイドで話をしたあと、
『じゃあね。しっかりやるんだよ』
「はい。頑張ります!」
人間くさいやり取りをして通信を終了した。
「さて、さっさと寝るか。君、えーとカミリアだっけ?君も休んでくれ。もう歩き回らないでくれよ」
「はい。すみませんでした」
銀河標準時では深夜の時間帯なんだからさっさと寝たい。
アンドロイド、カミリアという愛称らしい。を客室につれていき、
「ここをつかってくれ。カプセルの方がいいなら貨物室に降りてもいいからな」
と、指示しておいた。
「はい。ありがとうございます!」
その俺の指示に、アンドロイド=カミリアは、嬉しそうに返事をし、客室に入っていった。
翌朝。
「おはようございます船長」
「ああ…おはよう…」
何故かカミリアがモーニングコールをしに来た。
客がいるときはわりと早起きのつもりだったが、アンドロイドにはかなわない。
向こうは寝る必要がないからな。
そうして身支度を整え、ラウンジに降りると、コーヒーの香りが漂ってきた。
「厨房と食材をお借りして、朝食をご用意させていただきました」
みると、テーブルにきちんとした朝食が用意されていた。
「一応荷物…乗客なんだからしなくてもいいからね?」
「すみません!そう言う風にプログラムされておりますので…」
メイドとして製作された彼女にとっては、必ずするべき行動なのだろう。
まあ、目くじらを立てるようなことではない。
それにしても、自分の船で他人が作った食事を食べるのは久しぶりだ。
子供のころ、初めて船に乗せてもらった時の食事は、カッチカチのパンに、料理の出来ないじいちゃんが作った、炭寸前のチリコンカルネだったのをよく覚えている。
思えば、自分で料理をしようと思ったのは、あれがきっかけだったのかもしれない。
それからは、色々な刺激の連続だった。
船体のチェックをしているうちに洗い物と洗濯物が終わってたり。
通信があって、操縦室に詰めているあいだに全ての掃除が終わっていたり。
一緒に厨房で料理をし、昼食を作る時間が短くなったりした。
じいちゃんが亡くなってから、荷物だけを運ぶときに誰かがいるというのは初めてだった。
厳密にいえば彼女?も、乗客といえなくはない。
しかし、どうにもそういう気にならない。
アンドロイドだからなのか?
それともなにか違う要素があるのか?
もしかすると、前に宇宙に吸い込まれそうになったことが原因で、『誰かいた方がいい』と考えるようになっているのだろうか?
そんなことを考えているうちに、あっというまに夕食の時間になった。
この夕食は、カミリアが全部調理したものだ。
ちなみにメニューは、
コーヒーにバターロール
マカロニサラダ
サーモンの香草ソテー
根野菜のスープ
というものだった。
アンドロイドであるカミリアに食事の必要はないため、まさにメイドのように、俺の斜め後ろに待機している。
ちなみにカミリアは、身長は俺より低く、スタイルはかなりいい感じに作られている。
すると不意に彼女が、
「あの、船長。私の作ったスープはお口にあいませんでしたか?」
と、不安そうに訪ねてきた。
どうやら色々考えていて、スプーンが止まっていたらしい。
「いや、旨いよ。船で他人の作った食事を食べるのが久しぶりで、なんかちょっと新鮮でね」
なのであわてて食べるのを再開する。
「そうですか。よかったです」
俺の返答に、カミリアはほっとした表情を浮かべる。
それにしても、この子はいやに人間くさい感じがする。
もちろんそれだけ優秀な電子頭脳を搭載しているだけなのだろうが、嫌な話にはこんなのもあったのを思いだした。
家出した中高生・孤児・育児放棄された子供なんかを誘拐し、自分がアンドロイドの生体脳だと思い込むように洗脳させられた後、アンドロイドに載せられて販売される。
そうした『特別な生体脳』は反応が実に人間のようで、高値で売れるというものと。
事故にあって意識の無い子供や女性の脳を摘出し、愛玩用人造人間に載せ、加虐趣味の連中に売り飛ばすという、前のと似ているようでより悪質で後味の悪い話だ。
まあこの話は貨物輸送業者だけに流れている話じゃないが、カミリアを見ているとどうしても思い出してしまう。
まあ、あのオービル・スジン氏の様子をみるかぎり、そうではないとはおもうが。
それより一番の懸念は、カミリアがいきなり殺戮アンドロイドにならないかということだが、起動前に勝手に起動したわけでもなく、本人の性格?も、大人しい感じなので大丈夫だろう。
そう信じたい。
夕食が終わると、カミリアはいそいそと後片付けを始めた。
それも何となく嬉しそうに。
その様子は、とても殺戮アンドロイドとは縁遠いものだった。
用語説明
チリコンカルネ:日本ではチリビーンズとかチリコンカンといわれているメキシコ料理です。
ついに『狩り』を始めてしまいました…
投稿が遅れたらすみません…
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