File80 惑星ミンツトレニスでの休日③ 薬になったかどうかは本人次第
主人公の出番は少なめです
「ベン!」
気を失ってごろりと横たわったベンに、妹のメリッサが駆け寄る。
「麻酔銃だから大丈夫だ」
「それでも撃たなくてもいいじゃないですか!」
なんだかんだいっても、兄の心配はするらしい。
まあ確かにそうだが、これだけイラッとさせたこいつにも原因があるだろう。
とはいえ、家族をやられたんだから仕方ないが。
「悪かったよ。でもそれだけ腹が立っていたのもわかってほしいかな」
そう言い訳するが、向こうからすれば納得はしづらいだろう。
「いや。いい薬になったろう。あのままじゃあ実家を継ぐのは難しいだろうし、人間としてダメな行動も多かったしな」
そこに、ホーゼンのおっさんが援護をしてくれた。
そのなかで気になった言葉があったので、思わず聞いてみた。
「実家ってのは?」
「こいつらの親、つまり俺の義理の弟は、ホワイトガルムキャリアーの代表取締役社長なんだ」
「たしか惑星内配達の大手 だっけか?」
俺達、貨物輸送業者が惑星間の配達なら、ホワイトガルムキャリアーは惑星内配達業者。
宛先の自宅や会社に直接届けるのが主な仕事だ。
その社長令息というのは驚いたが、たしかにあれでは会社経営は難しいだろう。
そのうちに、気絶したベンが、クルーの手で船の医務室に運ばれていく。
どうやら失禁してはいないらしい。
「にしても、なんであいつはこうも俺に絡んでくるんだ?」
どうやら性格には難がありそうだが、ホーゼンのおっさんへの態度をみると、しっかり負けは認めるタイプにみえるわけだが。
そう思った俺の呟きに、メリッサが申し訳無さそうに口を開いた。
「そのう…多分なんですけど…自分が強いからって調子に乗って、負けたのを認められなかったからだと思います。あと、中学の時に好きだった女の子が、男の時のショウンさんみたいな感じの人に持ってかれちゃったのも原因かなって…」
「なんだそりゃ?」
シュメール人はどうしても中性的な外見になるため、特に男の時は侮られやすい。
が、テメエの恋敵ににてるからって絡まれたんじゃたまったもんじゃない。
「目ぇ覚ましたら詫びは入れさせるから、今回は俺に免じて勘弁してやってくれねえか?」
「私からもお願いします」
俺が憤慨しているのを悟ったホーゼンのおっさんとメリッサが頭を下げてきた。
「また噛みついてきたらぶん殴るけど、それでもいいか?」
こっちとしては、いきなり襲いかかってこなけりゃそれでいい。
「あれだけやられてまだそんなことするなら仕方ないです」
さっきは、家族が撃たれたことに怒っていたが、さすがにこれ以上絡んでくるなら、擁護はしないらしい。
視点変換 ◇ベン・サーズウッド◇
ちょっと時間はさかのぼる…
目を覚まして目に飛び込んできたのは、船の医務室の天井だった。
俺はどうなったんだ?
たしかあのひょろ野郎に殴りかかって…
「くそっ!あの野郎ブッ殺してやる!」
きっちりと反撃されたことを思い出した。
「やったら即警察に突き出すからね」
「わかってる!」
初めからいたのかどうかは知らないが、メリッサがいた。
言葉のあやだってわかってるだろうに、マジでムカつく妹だぜ。
「どうやってここに?」
「おじさんが連れて帰ってくれたの。感謝しなさいよ」
親父の義理の兄にあたるガルダイト・ホーゼンさんは、俺が認める数少ない強者だ。
そのおじさんに手間を掛けさせちまった…
「あのひょろ野郎…よくも俺に恥をかかせやがって!」
「あんたが勝手に喧嘩売って恥かいただけでしょ?それが嫌なら喧嘩を売らなければいいじゃない」
俺の怒りを、メリッサは一笑に付した。
「俺はマーシャルアーツの惑星チャンピオンだ!あんなのに負けるはずがねえ!」
そう、俺は出身惑星のマーシャルアーツトーナメントの覇者だ!
銀河最強なんて自惚れはしねえが、あのひょろ野郎よりは強いはずだ!
「惑星チャンピオンって…去年中学で取ったやつでしょ?高校に入っても負けてないのはしってるけど、ホーゼンのおじさんには負けてるじゃん」
「おじさんは実力者だからな」
そう、対峙した時には普段のスケベで豪快でおおらかな雰囲気は一切消え、圧倒的な闘気に飲み込まれそうになる。
だからこそ、俺はホーゼンのおじさんの下で働いているのだ。
「あの人もそうなんじゃないの?」
「んなわけがあるか!」
あんなひょろい奴が、俺より強いなんて認めねえ!
絶対にだ!
その翌日。
「よう!ライアットの嬢ちゃんじゃねえか!久しぶりだな!」
「お久しぶりですアレンさん」
なんかすげえ美人がやってきた!
なんだあの美人!?もしかして新人か?
だったら絶対にお近づきに…。いや、俺の彼女にしてみせる!
「ねえねえ。誰あの美人?」
妹も、彼女をみつけ、驚いていた。
「多分新入りだろ?なんか大荷物だし」
アレンのおっさんと話している謎の美人は、なぜか大荷物を持っていた。
その疑問に答えたのは、アレンさんの同僚で、古株のドイルさんだった。
「久しぶりに飯をつくりに来てくれたんだよ。昔、お前達同様に預けられててな。団長の奥さんの手伝いをよくやってたんだよ」
「へー。私達の先輩ってやつかー。本当に美人さんだなー♪」
「料理が上手いんだぜ、ライアットの嬢ちゃんは」
ライアットってことは昨日のひょろ野郎の関係者か?
夫婦ってことはないだろうから、兄妹か?
あんなひょろ野郎と一緒じゃあ、変な男に絡まれまくるだろうな。
「あんなひょろ野郎と兄妹なんてかわいそうに…」
「そのひょろ野郎に、2発で気絶させられたのはあんただけどね」
妹うっせ。
「でもあの人…どっかでみたことがある気がするんだよねー?」
妹のやつは、なぜか彼女を見つめたまま、うんうんと唸っていた。
ひょろ野郎の妹が作った飯は、はっきり言って最高だった!
美人で料理が上手くて、おばさんの手伝いもしてたって言うから、他の家事もこなせるんだろう。
マジで最高だな!
やっぱあのひょろ野郎から引き剥がしてやらねえとな!
俺は意を決して『彼女』に話しかけた。
そして、裏切られて、投げ飛ばされて、撃たれた。
目を覚ますと、また船の医務室の部屋の天井だった。
「おうベン。目が覚めたか」
起きたばかりの俺に話しかけてきたのは、ホーゼンのおじさんだった。
「俺…あいつに…」
殺された。
そう思ったが、どうやらちゃんと生きているらしい。
「ショウンのやつは、短針銃の弾丸は大抵麻酔弾にしているそうだ」
それで俺は死ななかったのか…。
でも、あの時向けられた殺気は本物だった。
俺なんか話にならない位の。
「ちっとは思い知ったか?ショウンの奴は温厚なほうだし、お前が俺の関係者だからこの程度で済ましてくれたんだ。
荒っぽい奴なら即座に病院送り。
もっとヤバイ奴ならマジで殺される場合だってあるんだ。
誰彼なくマウントを取ろうとするのは止めるんだな。
それは自分が一番弱いってことの一番の証明だ」
ホーゼンのおじさんは、激怒した様子もなく、淡々と語った。
その全てが紛れもない事実だからだ。
「ともかく、ショウンの奴には今からでも詫びにいってこい」
「私も一緒に謝ってあげるからさ」
「…わかった」
俺はあいつに負けた。
あいつは俺より強い。
悔しいが認めざるを得ない。
でも女の時のあの美人度合いはずるいぜ…
視点終了
麻酔銃だから撃ってもいいわけはありませんよね…
まあ、それぐらい腹が立っていたんです!
ベンが叩かれまくったので、ほんのり救済予定
馬鹿ですが、吐き気のする悪党ではありませんので…
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