File79 惑星ミンツトレニスでの休日② 慣れ親しんだ古巣の人達
お待たせ致しました
翌日。
例の休暇以来の『月のもの』が来た。
どうやら身体の生理機能はきちんと働いているようだ。
ホーゼンのおっさんのところに行くことに、一抹の不安が無いわけではないが、約束だし『ホーゼン・トラックス』の人達にも会いたいから、必要な食材の買い出しに行くことにした。
買い出しも終わり、昼食も終わった昼過ぎ、食材の入ったボックスをホバーカートにのせ、『ホーゼン・トラックス』の旗艦『フォウテン』の停泊地に向かった。
停泊地の扉を開けると、巨大な船体がすぐに目に入り、そのまわりでクルー達が忙しそうに働いていた。
その中に、ホーゼンのおっさんを見つけて声をかけた。
「こんちわー飯作りにきたぜ」
「お、どうしたんだ?女の姿で来るとは」
「月のものだよ」
「そうかそうか」
ホーゼンのおっさんは、にこにこと笑いながら尻を触ろうとしたので、ピシャリとはたき落とす。
「少しぐらいいいじゃねえか」
おっさんがわざとらしく手を擦っている後ろから、
「なにが少しぐらいですか?」
ホーゼンのおっさんのいうかみさん=奥さんであり、『ホーゼン・トラックス』の現・専務であるセイリーナ・ホーゼンが、笑顔で声をかけてきた。
セイリーナさんは、ドワーフみたいなホーゼンのおっさんとは対照的で、細身でスタイルもよく美人で、とても俺より年上の息子がいるとは思えない、いわゆる美魔女だ。
全身儀体にしたわけでもなく、特殊な再生手術をしたわけでもないのに、この外見ははっきり言って奇跡だ。
ちなみに現在専務になっているのは、現在別行動をしている息子のマットレイさんに副社長の座を譲ったかららしい。
そのセイリーナさんの一言に、ホーゼンのおっさんはビクッと身体を硬直させた。
セイリーナさんは、あえてホーゼンのおっさんを無視して俺に抱きついてきた。
「久しぶりねショウンちゃん。入院したって聞いたけどもう大丈夫なの?」
「はい。ご心配おかけしました」
セイリーナさんは、俺の身体をぱんぱんとやりながら心配をしてくれる。
その行動はたしかにおばさんっぽい感じだ。
「今日は久しぶりにご飯を作ってくれるんでしょう?期待しちゃうわね♪私も手伝うからよろしくね♪」
「じゃあさっそく始めてもらおうじゃねえか!キッチンの場所は知ってるよな?」
ホーゼンのおっさんは、さっきのことを流すように声をかけてきたが、
「その前に、さっきのお話をしましょうか?」
「は…はい…」
しっかりと捕まえられた。
前々から不思議に思っていた事がいくつかある。
これだけ美人の奥さんと、どうして結婚できたのか?
これだけ美人の奥さんがいるのに、なんでこうセクハラをするのか?だ。
考えていても仕方がないので、夫婦喧嘩?を尻目に、目の前にある中型貨物船『フォウテン』の船内に足を踏み入れた。
そこで最初に出くわしたのは、
「よう!ライアットの嬢ちゃんじゃねえか!久しぶりだな!」
「お久しぶりですアレンさん」
機関長のアレンさんだった。
今現在、それなりに機械類のチェックやメンテナンスができるのは、子供の頃からじいちゃんの船に乗せてもらって覚えたのと、この人に基礎を叩きこんでもらったおかげだ。
「なんだ。ついにうちに入るのか?」
「挨拶のついでに調理のお手伝いにきただけですよ」
アレンさんは、糸のような細い目でにやにや笑いながらからかってくる。
「すると久しぶりにより上手いメシが食えるわけだな」
「聞かれても知りませんよ…」
アレンさんは、感慨深い表情をするが、もし今の会話がセイリーナさんの耳に入れば、アレンさんは暫く質素すぎる食事しか食べられなくなるだろう。
船内が広いのもあり、幸いあの兄妹に会うことなく、他にも何人か知り合いに声をかけられつつも、キッチンにたどり着いた。
半年間、自分の居場所として確立した場所の1つだったこともあって、調味料や道具の場所までしっかりと覚えていた。
そしてこのキッチンに、
「ライアットさん?!」
見た目は10歳ぐらいの女の子の姿をしている女性型バイオロイドのエプラがいた。
「久しぶりだなエプラ」
「お久しぶりですライアットさん!またここで働くんですか?」
「挨拶のついでに調理のお手伝いにきただけだよ」
そういいながら、思わずエプラの頭をなでてしまう。
ちょうどお世話になっていた頃に、元の持ち主に酷い扱いをされていて、それをたまたまみかけたセイリーナさんが持ち主をぶっ飛ばして保護してきたのだ。
それからは、『ホーゼン・トラックス』のメンバーから可愛がられ、セイリーナさんの助手という地位を手に入れた。
「ところでセイリーナさんは一緒じゃないんですか?」
「ホーゼンのおっさんを説教中」
「いつものですかー」
日常の光景なため、もはやあわてる様子はない。
多分暫くは帰ってこないだろうから、料理を始めることにした。
エプラと、1時間ほどして帰ってきたセイリーナさんに手伝ってもらった結果。
五目炒飯
油淋鶏
エビチリ
卵と木耳のスープ
杏仁豆腐
というリーシオ料理のメニューができあがった。
品数は少ないが、何しろ量が多いため、とにかく時間がかかった。
出来るだけクセのないメニューを選んだつもりだが、2人に試食をしてもらったところ、
「リーひオひょうひはやっふぁり香ひが素ふぁらしひでふよひぇ!」(リーシオ料理はやっぱり香りが素晴らしいですよね!)
バイオロイドのため、普通に食事ができるエプラは、行儀は悪いが、油淋鶏をもぐもぐしながら幸せそうにコメントしてくる。
「出来ればこのままずっとうちにいて欲しいわ。私より上手なうえに、手際もいいんだから。やっぱりあの時、ライアットさんに返すんじゃなかったかしら…」
セイリーナさんの方は、フルーツポンチタイプの杏仁豆腐をがっちりホールドしながら不穏な発言を呟き始めてしまった。
どうやら問題はなさそうだ。
そうして開始された夕食は、もともとの人数が多い上に、みんなよく食べるので、まさに戦場だった。
あの兄妹の他にも見慣れない顔もあり、俺がいた頃より、多少は女性も増えていた。
しかしどうやら、全員が満足はしてくれたようだ。
その嵐のような夕食が終わり、後片付けも終了させ、さあ帰ろうとしたときに、何故かベンに道を塞がれた。
「なにか?」
ため息混じりで返事をしてやると、ベンは嬉々として話し始めた。
「なあ!あんなひょろ兄貴ほっといてうちにこいよ!そうすりゃ俺達はあんたの飯が食えるし、あんたはあの稼ぎの悪そうなひょろ兄貴の世話なんかしなくてよくなる!よしっ!決まりだな♪」
そして何故か、俺が『ホーゼン・トラックス』で世話になる事を決定したような物言いをしてくる。
なんだろう。昼間のアレで頭の中身にバグでも発生したのだろうか?
だとしたらちょっと可哀想なことをしたな。
「ちょっとベン!なに勝手なこといってるのよ!」
「別におかしいことは言ってないぜ?あんなひょろ兄貴より、俺の方が絶対いいだろ!」
「そのお兄さんに2発で気絶させられたんでしょうが!」
「あれはちょっと油断しただけだ!」
ちがった。
どうやらこいつの通常運転だったらしい。
それともう1つ。どうやらこの兄妹は、俺がシュメール人だと言うことを知らないらしく、自分たちと同じ男女の兄妹だと思っているらしい。
誰も教えなかったのか聞かなかったのか…。
なるほど、それならこいつの行動も納得だ。
俺はため息を吐きながらベンを睨み付け、
「また気絶させられたいのか?」
出来るだけドスをかましてみたが、女の姿だといまいち迫力にかける。
「え?」
俺の言葉に、ベンの奴はキョトンとするが、
「ショウンはシュメール人だぞ?」
というホーゼンのおっさんの言葉に、ベンの表情が戻ってきた。
おっさん、やっぱり俺のこと話してなかったんだな。
すると当然、
「騙しやがったな!」
ベンは怒りを露にする。
「たまたま『月のもの』が来ただけだ」
こういう、告白してきてシュメール人だとわかると、『騙しやがって!』と逆ギレする輩は昔からいた。
実に理不尽だ。
そしてそういう奴に限って暴力に訴えてくる。
「うるせえ!カタツムリがぁ!」
ベンは渾身の力を込めて右ストレートを放ってきた。
俺はその腕をとると同時に足払いを仕掛け、そのまま背負い投げで相手の胴体を地面にたたきつける。
そして直ぐに少し距離を取りながら、短針銃の銃口を相手の顔にむけ、顔の真横に一発撃ち込んでやる。
「いい加減にしろよクソガキ。ホーゼンのおっさんの知り合いだからといってこれ以上は容赦する気はない。覚悟はできてるよな?」
そしてベンが固まったのを確認すると、銃口を眉間につきつける。
「おいっ…やめろっ…悪かった!謝るから!」
どうやら銃口を向けられた事はなかったらしく、簡単にあわて始めた。
「安心しろ。一瞬だ」
「よせっ!止めろ!止めてくれ!」
怯えながら謝罪をしてくるが、止めてやるつもりはない。
「嘘だろ?!冗談だよな?ごめっ」
なにか言おうとしたようだが、無視して引き金をひいた。
「暫く寝てろ」
俺は麻酔銃の銃口にフッと息を吹きかけた。
用語説明:アンドロイドのエネルギー補給について
機械式は、エネルギーが切れると動かなくなり、エネルギー源の交換・充電することにより再起動します。
生体式は、他の有機体を 摂取する必要があります。つまりは食事が必要です。
人間同様に空腹状態でもは動けますが、長時間この状態がつづくと機能停止=死亡してしまいます。
混合式は、両方のいいとこ取りをしたり、どちらか片方の方法を使用しています。
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします




