File08 惑星オルランゲアへの貨物輸送① 天使共の呪い?
お待たせしました。
ちょっと長め
惑星ビーテンツでの、宇宙港閉鎖からの評議員補佐官死亡事件から3日。
宇宙港はいつものような日常の風景に戻っていた。
その宇宙港のマーケットで、不足品を買い足ししながら、船のメンテナンスも考えて、拠点のオルランゲアに帰る事を考えていた。
都合よくオルランゲア行きの仕事があればいいが、なければ空でもいいだろう。
買い足ししたものを船に積み込むと、貨物配達受付にむかった。
だがそこには、厄介な連中がいた。
気がついていないフリをして、カウンターに向かおうとしたが、運悪く見つかってしまった。
「久し振りだなショウン・ライアット。私の船に料理長として乗ってくれる気にはなったかな?」
ドラッケンの姉ちゃん達みたいなことをぬかしてくるこいつは、貨物輸送業者のウィオラ・ザバル。
俺やトニーのような小規模ではなく、複数の船を所有して仕事を請け負う『船団』を組織している中規模の貨物輸送業者集団のトップで、チーム名は『天使の宅配便』だ。
「なってない。何度も断ってるのにしつこいぞ」
俺はうんざりしながら、キッパリと断る。
するとやっぱり、一番厄介なのが噛み付いてきた。
「貴様!ザバル団長がお声掛けして下さったというのに、その不敬な態度はなんだ!」
こいつは、リリーナ・フレマックスといい、とにかく俺に噛み付いてくる天使の宅配便の副団長だ。
「じゃあお前は、俺がこの場で泣いて喜んで、チームに入った方がいいってのか?」
「貴様みたいなカタツムリが我々の仲間になるなど反吐がでるわ!」
「じゃあ俺が断ってるのは願ったり叶ったりじゃないか」
「ザバル団長のお誘いを断るなど、無礼千万!万死に値する!」
「毎度毎度面倒くせえなあもう!」
こいつが噛み付いてくる理由は簡単だ。
団長のザバルが、自分以外の人間に話しかけるのが気にくわないのだ。
仲間内に話しかけるのは許容しているらしいが、外部、特に男に話しかけるのが許せないらしい。
ちなみに、こいつらの天使の宅配便は全員が女で、ザバルのハーレムメンバーだ。
そう、以前トニーの話にでてきたレズ集団とは、こいつらのことだ。
「やめないかリリーナ!今のお前の発言は、全てのシュメール人に対する差別用語だ」
ザバルは厳しい表情をしながら、フレマックスを叱責する。
「もっ申し訳ありませんでした!」
「謝るのは私にではないだろう?」
ザバルに叱責されたフレマックスは、お前のせいで団長に怒られたじゃないか。何でお前になんかに頭を下げて謝罪しないといけないんだと睨み付けながらも、
「申し訳ありませんでした…」
と、しっかりと頭を下げてくる。
さすがによくしつけてある。
「すまないな。しっかりと言い聞かせておくので許してもらえないだろうか?」
「なれてるから気にしなくていい」
このように、ザバル本人は、同性愛者であることを公表していたとしても、
船乗りとしての実力。
船団のトップとしての統率能力。
度量の広さ。
好感のもてる人柄。
おまけにモデル顔負けのスタイルと美貌をもっていることもあり、好ましい人物なのは間違いない。
その部下達も、レズではあるものの、それなりにしっかりした連中ばかり。
なのだが…
一部はこのフレマックスのように、信奉者。いや、狂信者みたいなやつがいるのが問題なのだ。
特にこのリリーナ・フレマックスは、ことある毎に俺に噛み付いてくる。
なので、キッパリ無視して早々に仕事の話をして切り上げることにした。
「そっちはどこ行きなんだ?」
「今からオルランゲアだ」
「とられたか…」
期待はしていなかったが、いざ取られたとなるとなんとなく悔しい。
「なにかあるのかな?」
「いや、メンテのために戻ろうかと思ってな。ついではないかなと」
「まだいくつかはあったはずだ。急ぐといい」
「そうか。ありがとうよ」
「なあに。うちに来る気になったらいつでも連絡をくれ」
そういって離れていくザバルの横では、フレマックスがこちらを向いて思い切り睨み付け、舌を出していた。
天使の宅配便と離れると、ようやく貨物配達受付にたどりつけた。
「いらっしゃいませ、惑星ビーテンツ銀河貨物輸送業者組合へようこそ!」
「惑星オルランゲア行きの依頼はまだ残ってるかな?」
「少々お待ちください」
カウンターにいたのはビステルト人・キーゼル種の女の子だった。
ビステルト人というのは、ヒューマンの外見に動物の特徴がくっついた感じの種族だ。
分かりやすくいうと、大昔のヒューマン発祥の星の昔話に出てきた獣人というやつだ。
そのなかで、キーゼル種というのは猫科の特徴がでている連中の事を指す。
探している間も猫耳がピクピクと動いて、思わず撫でたくなる。
そのうちに、彼女が一覧を出してきた。
「現在、惑星オルランゲア行きの依頼はこれだけです」
一覧には惑星オルランゲア行きの仕事が5つほど並んでいたが、そのうち3つは俺の船では運べないもので、運べるものの1つは既に受領されていた。
その運べないものの1つを受けていたのは、天使の宅配便だった。
「宝石の輸送?」
「はい。こちらは、惑星オルランゲアにある美術館で、来週に開催される『銀河大宝石展』に展示される宝石類の輸送依頼です」
なんとなく呟いたことに、彼女は律儀に答えてくれた。
そして残っていた依頼は、同じくオルランゲアにある美術館で開催される、『銀河市民芸術祭』に出品する応募作品の輸送だけだった。
「じゃあこれを受けるよ」
「かしこまりました。では、腕輪型端末を検査機にお願いしますね」
言われたとおり、腕輪型端末を検査機にかざす。
「これで受注完了いたしました。では、明日の朝午前9時までに、こちらのカウンターにいらしてください」
「わかった。よろしく頼む」
そうして依頼を受注し、船に帰ろうと振り向いた時、随分と場違いな雰囲気の女性が怪しいくらいキョロキョロしていたのを見つけてしまった。
だが実はこれは良くある光景。
貨物配達受付という名称から、『送りたい荷物の受け付け』と間違える人が多いからだ。
荷物の配達を頼む時は、『配達依頼受付』の方にいかないといけない。
もちろん係員もなれたもので、その場違いな雰囲気の女性をささっと連れていってしまった。
「あ、それから」
「ん?なにか?」
帰ろうとした俺を、猫耳の子が呼び止めてきた。
「最近この辺りの宙域で、海賊が出ているみたいなんです。連絡のついていない人が多数いるうえに、船の破片があちこちでたくさん見つかっています。なので、気をつけてくださいね」
「ああ、ありがとう。気を付けるよ」
お礼をいうと、こんどこそ船に帰った。
視点変換 ◇リリーナ・フレマックス◇
腹が立つ。
ものすごく腹が立つ。
どうしてあんなカタツムリがザバル団長に気に入られるのだ!
たしかに最初の出会いは、
私達の船が小惑星地帯で座礁し、長距離用の通信も壊れて立ち往生していた時に助けてくれた。
食糧も空になっていた私達に、備蓄を放出して、美味しすぎる料理を振る舞ってくれた。
救助の船が来るまではと、配達先に連絡してその場に留まってくれた。
そしてその見た目は、ザバル団長も見とれたほどの美しい美女だった。
なのにっ!なんでっ!
次の日の朝に男になっているんだっ!
ザバル団長や他のメンバーは、最初に自分がシュメール人だと説明したと言っているが、私は聞いていないっ!
決して、美貌にみとれて聞いていなかったなどということはないっ!
ないったらないっ!
つまり、私はあいつに騙されたのだ!
ザバル団長にあいつを仲間に引き入れましょうと熱弁したのも、作ってくれたデザートのティラミスが美味しくて、3つもおかわりしてしまったのも、全部あいつに騙されたせいなのだ!
シュメール人であったとしても、普段から女でいるなら問題ない。
だがあいつは普段から男だという。
ならあいつは男だ。
汚らわしい男だ!
なのにどうして!
ザバル団長はあいつを仲間に引き込もうとするんだ?!
確かにあいつの作ったチキンのクリームスープは美味しかった。
ザバル団長はすごく気に入っていた。
仲間の子達の何人かはは眼がハートになっていた。
でもあいつは男だ!
男なんだぁー!
視点返還 ◇ショウン・ライアット◇
翌日からは実に順調だった。
予定時間の15分前にカウンター前に行き、
問題なく荷物を積み込み、
各部チェックにも異常もなく、
手続きをしてくれた管制塔管制官は、初日に泣きながら説明をしてくれた彼女だった。
あの時と違い、実に爽やかな笑顔で答えてくれた。
超空間に入ってもトラブルが起こることなく、惑星オルランゲアまでの4日間の半分が過ぎていった。
だがその順調な航海も、3日目の朝に、突然終わりを告げた。
朝食を食べ終わり、コックピットに座ると同時に、船内灯が赤い光になり、けたたましい音が鳴り響いた。
「照準固定警報?!」
俺は急いで操縦桿を握り、回避行動をとった。
ビームの衝撃で船体が振動し、コックピットのフロントガラスからは、通りすぎていくビームの軌跡が確認できた。
「くそっ!どこの馬鹿だ!」
通常、超空間での戦闘は、戦時下での何らかの作戦を除いては、海賊でもやらない。
いくら超空間がそれなりに安定しているとはいえ、何が起こるかわからないからだ。
それを、襲ってきた奴は平然とぶっぱなしやがった。
向こうはさらに発砲。
それを何とかかわしながら、GCPOに通報する。
が、通信が妨害されているらしく、雑音が聞こえるだけだった。
それならばと超空間からの脱出の準備をする。
通常空間に出れば、妨害は超空間で遮断され、通信ができるはずだ。
もちろん追って来るだろうから、一瞬ではあるだろうが。
その時、相手から通信が来た。
どうやら、自分達とだけは会話が出来るように調整したらしい。
誰かは知らないが、やり取りを録画しておくことにするべく、録画装置を起動させ、通信を受けた。
そして、モニターに現れたのは、銀河共和国国立・防衛軍養成学校の制服を着た、ふてぶてしい顔をしたガキだった。
すぐに相手の船体登録証明と登録ナンバーを確認する。
そしてそれは間違いなく、防衛軍養成学校の航海練習艦だった。
『前方の輸送船に告げる。今すぐ停船し検閲を受けろ。さもなくば撃ち落とす』
「ふざけるなよ卵どもが!お前らに検閲をする権限はないだろうが!!」
そう、養成学校の学生が運航する航海練習艦には、正規の軍艦のように、検問や検閲をする権限はもってないのだ。
『俺にはあるんだよ!いいからさっさと止まれ!』
「検閲の手順もルールも知らない馬鹿に従うつもりはないね」
相手と会話をしながらも、超空間からの脱出準備、GCPOへのSOS信号の発信準備を整えていく。
『お前…俺の親父が誰だか分かってるのか?』
「しらねえな」
『俺の親父はなぁ…銀河共和国防衛軍東部方面司令官アルバンセ・ムスタグ。俺はその息子のデルノフ・ムスタグだ!』
なるほどというかやっぱりというか、このガキは、自分の父親が軍の偉いさんだから、このぐらいはもみ消してくれるだろうと確信し、こんなことをしているのだろう。
だが、昨日の猫耳の子から聞いた話だと、揉み消せるレベルは確実に越えているだろう。
もしかすると、別に本物の海賊がいるのかも知れない。
「ひょっとして最近船の残骸が多いってのはお前らの仕業か?」
『大人しく積み荷を寄越せばいいのに、俺に逆らった馬鹿には当然の報いだ!最低限の燃料だけ残して解放した後は、射的の的にしてやったぜ!』
艦長席に座っているガキ以外の笑い声も聞こえてきた。
どうやらこいつらが海賊で間違いないようだ。
用語説明
ビステルト人
ヒューマンの外見に動物の特徴がくっついた感じの種族で、分かりやすくいうと、獣人である。
キーゼル種とは猫の獣人の総称。
船体登録証明
この船を所有し、公宙域を航行しますという登録をしました。という証明書。
分かりやすく言うと、車のナンバープレート
登録ナンバー
私及び所有する宇宙船は、これこれの組織に所属しています。という照合番号のこと。
分かりやすく言うと、社員証や学生証
ショウンの登録ナンバーは、正しくは
銀河貨物輸送業者組合・組合員登録番号という。
例
船体登録証明書 登録者 :ショウン・ライアット
登録船体:貨客船ホワイトカーゴ
登録番号:D-47-37
登録ナンバー
銀河貨物輸送業者組合・組合員登録番号SEC201103
登録者 ショウン・ライアット
登録船体 貨客船ホワイトカーゴ
船体登録証明 D-47-37
新しい宇宙人は猫耳です!
他にも、犬・狸・狐など色々です!
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