File68 惑星ルニールへの貨客輸送② 帝国貴族の両極端
なんとかできあがり。
年末はすこし送れるかもしれません
惑星ルニールまでの6日間は実に平穏だった。
アルフレッド氏の長話が出ることもなく、海賊に襲われることも、機械の不調も起こらなかった。
まあ、セバスチャン氏が俺の料理を気に入り、帝国に移住してギルテンス侯爵家で働かないかと熱心に勧誘されたのは、ノーカウントだ。
惑星ルニールの宇宙港は、オルランゲアのような多重ドーナツ型ではなく、巨大な球体型の建造物、いわゆる人工天体というやつだ。
直径は約120kmにも及び、じいちゃんの持ってる『グレートウォール』すら格納できるほどだ。
実はこの宇宙港、元は要塞で、本来は巨大な破壊砲が設置されていたが、現在は取り外されている。
この宇宙港の停泊地は、オルランゲアのように1台づつ隔離されておらず、とてつもなく広い空間の床に、ラインと番号が書いてあり、そこに船を直置きする。
なので、停泊させるにも出発するにも、それなりの腕が必要だ。
ちなみに操縦の腕に自信がなかったり、楽をしたかったり、大切な荷物を壊したくないときは、管制塔に申請すれば、牽引ビームで自動的に連れていってくれる。
そしてこの停泊地最大の特徴としては、隔壁が常に開けっ放しで、宇宙空間が見えるということだ。
しかし、停泊地内は宇宙服を着る必要はない。
その理由は『選別式透過フィールド』が、入り口部分に常に展開されているからだ。
わかりやすくいうと、物体は通すが空気は通さないというフィールドで、これがあるお陰で、隔壁の開け閉めや空気の注入などの時間が短縮され、迅速な出入りが可能になるわけだ。
要するに要塞の駐留艦隊の緊急発進のためのシステムだ。
ちなみにかなりのお値段らしい。
この宇宙港では、このタイプの停泊地が8ヵ所も設置されている。
その停泊地の1つ、北の1番のDライン・No.147に泊めるようにと指示があったので、そちらに向かい、選別式透過フィールドを抜け、自分の運転で停船位置に泊める。
「ふう。ここは本当に緊張するな」
「いやいや。お見事な腕前でございました」
ここは何度も来たことがあるが、停泊の度に緊張を強いられる。
その代わり出発の時には、牽引ビームで楽をする。
これは亡くなったじいさんのやり方なのだが、なぜかそのまま踏襲してしまっている。
たぶん、できなくなるまでやり続けるとは思うが。
「じゃあ、早速荷物を下ろしましょう」
エンジンを止め、管制塔にキャリードロイドを要請する。
そして船外に出てキャリードロイドを待っていると、そのドロイドと共に、俺よりは年下らしい、軍服を着た女の子が、プラットフォームに乗ってやってきた。
検査かなにかと思ったが、軍服のデザインが共和国防衛軍のものとは違うのがわかった。
するとアルフレッド氏が突然、
「お嬢様!」
と、声をだした。
「待ちわびたぞアルフレッド!」
御嬢様と呼ばれたその軍人少女は、プラットフォームから降りると、つかつかとこちらへ歩いて来た。
「えーと?どなたで?」
お嬢様の一言で大体は理解したが、一応アルフレッド氏に尋ねてみる。
「私の仕えるギルテンス侯爵家令嬢であり、栄えある銀河帝国軍少佐を勤めております、クロネーラ・エーリカ・ギルテンス様にございます」
やってきた軍人御嬢様は、白に近い金の髪をなびかせ、紫の瞳とその整った顔に興奮の表情を浮かべていた。
もしかしてこのお嬢様がカーマニアな上に博物館を建てたのか?
カーマニアはともかく、博物館を建設できるのか?
その俺の疑問を察したのか、アルフレッド氏が説明をしてくれた。
「博物館を建設したのは先代の侯爵閣下、お嬢様の祖父です。今でも御健勝で、これを心待ちにしておられます」
そして軍人御嬢様は、俺には見向きもせずに、コンテナにつかつかと近寄っていった。
「アルフレッド!例のものはこの中か?」
「はい。こちらに」
「おおー!まさしくロールスターファントムMkーⅦ(7)!ピッカピカだな!」
アルフレッド氏がコンテナを開けると、軍人御嬢様は、きらきらした表情を浮かべ、エア・カーを眺めていた。
「これでレストアとは信じられん!タイムマシンで過去に戻って購入したのではないだろうな?」
「御嬢様。タイムマシンは開発されておりませんぞ」
「実に素晴らしいな!是非ともハンドルを握ってみたい!」
「私は試乗をさせてもらいましたぞ♪」
「なにっ?狡いぞアルフレッド!」
「探しだした者の特権でございます♪」
2人は、エア・カーを取り巻きながら、実に楽しそうにおしゃべりをつづけている。
俺の存在は完全に意識の外だ。
しかしこのままだと、明日の朝になっても終わりそうにないので、申し訳ないが邪魔をさせてもらった。
「あのー。受け取りをしていただいてよろしいですかね?これをしていただかないと、お渡し出来ないんですよ」
俺がそう声をかけると、2人ともが『はっ!』という顔になり、そそくさと身だしなみを整えた。
「んっんんっ!失礼した。では受け取りにサインをしよう。ご苦労だった。おっと、挨拶がおくれたな。私は銀河帝国軍主力艦隊・第五部隊所属軽巡洋艦『ゴルトフォックス』艦長・クロネーラ・エーリカ・ギルテンス少佐だ」
思い切り取り繕った感満載だが、なんとなく可愛らしいなと思ってしまった。
ともかく、軍人御嬢様に受け取りにサインを貰い、これで依頼は終了だ。
いままでは、偉そうなだけのイメージだった帝国貴族だが、彼女のような貴族がいるのだと解っただけでも、収穫があったと思えた。
カーマニアの2人から解放され、惑星ルニールの貨物配達受付に報酬を貰いにいったところ、ハズレの受付嬢にあたってしまった。
「あいーっす。なにー?」
挨拶はいいかげんで、髪は茶色く長くてぼさぼさ、藪睨みの目そのものは仕方ないが、眼の下の隈は凄いし、うっすら酒臭い。
しかし、この受付嬢以外はみんな接客中だ。
俺はため息をつき、
「依頼が終了したんでな。報酬を貰いに来た」
と、要件を切り出した。
「あー、じゃあチェックよろー」
ハズレ嬢はのろのろとコンソールに手をやり、処理を始めた。
俺が腕輪型端末を検査機にかざして、依頼が終了したのを確認すると、
「確認…っと、おー!50万クレジットも貰ってるじゃん!半分ちょうだいよ♪」
と、初対面の人間にいきなり金をたかってきた。
多分借金女王とは気が合い、借入金ではなく御小遣いなのが、アルニーよりタチが悪い。
「やるわけないだろ」
「ちぇっ!ケチ!」
口を尖らせ、勝手に全額を情報で寄越してきた。
多分、現金を扱わせてもらえないのだろう。
もしミィミスがここにいたら、泣いてもやめないオールナイト膝詰め説教をくらうな、こいつは。
「ねーねー。ちょぴっとでいいからちょうだいよー」
そして帰ろうとする俺に、まだ金をねだってきやがる。
いいかげん殴ってやろうかと思ったそのとき、
『緊急警報、緊急警報。現在当宇宙港に帝国貴族の海賊艦隊が接近中です。警察官・警備員・戦闘可能者は防衛準備を。非戦闘員は即時脱出を。繰り返します…』
緊急警報が宇宙港全体に響きわたった。
数分前に、ルニール宇宙港にとどいた通信。
「惑星ルニール宇宙港にいるもの達に告げる!
私は栄えある銀河帝国皇帝より子爵位を賜るイルシッツ・ビンダルト・ゴモテアである!
貴様達は、我々銀河帝国配下の下民であるにも関わらず、我々栄光ある銀河帝国貴族に対し、奉仕・納税・献上の義務を長年に渡って怠ってきた!
よって、今より惑星ルニール宇宙港の、施設・資金・人材の全てを献上せよ!
もちろん停泊している全ての船舶・人材も例外ではない!
逆らったものは即死罪だ!
そして今すぐ私の歓待の準備を整えろ!
わかったな下民共!」
用語説明
人工天体:読んで字のごとく、人工物で製作された、コロニーよりも巨大な建築物のこと。
ぶっちゃけ『ス◯ー・ウォーズ』にでてくる『デ◯・スター』や『銀◯英雄伝説』にでてくる『イゼル◯ーン要塞』を考えていただけると分かりやすいです。
選別式透過フィールド:わかりやすくいうと、物体は通すが空気は通さないというフィールド。
隔壁の開け閉めや空気の注入などの時間が短縮され、迅速な出入りが可能になる、緊急発進のためのシステムである。
ちなみにかなりのお値段らしい。
このハズレ受付嬢にモデルはいませんよ?
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