File59 惑星オルランゲアでの休暇⑪ VIPルームに相応しい者・相応しく無い者
気分転換に散発でなんか書いてます
10/15 分かりづらい部分があり、ご指摘をいただいたので、加筆訂正をしたしました。
その為長くなってしまいました…
いよいよ明日、船がオーバーホールから戻ってくる。
やっぱり自宅で眠れるようになるのはありがたいもんだ。
あとはこの身体の不調さえ戻ってくれれば完璧なんだが…。
そうそう、昨日絡んできたラフィム人の女とその取り巻きは、昨日で終了だったらしく姿がない。
大抵やかましい男女のサークル連中も、今日は妙に静かだ。
しかし今日はそれ以外に変化があった。
責任者がゴルトーさんではなかったことだ。
その代わりにやってきたのは若い職員で、なんとなく不真面目そうで、へらへらとした雰囲気の男だった。
「あー今日はぁゴルトーさんに急な仕事が入ったんでぇ俺が担当っす。ま、シフト配るんでそのとおりよろ~♪」
こいつ本当に職員か?と、言いたくなるくらいだったが、下手な口出しをしてこないなら問題はないだろう。
ともあれシフト表を受け取り、また、おっちゃん達の話を聞きながら作業を始めた。
そんな感じで、午前中は実に順調に過ぎていった。
しかし、昼の休憩時間が終了した時、ちょっとしたトラブルが起きた。
ある箇所の担当者が、休憩時間が終了しても姿を現さなかったからだ。
「そろそろ作業開始だってのに、なんで帰ってこないんだよ!」
「あそこはたしか、早めにやっとかないとだめなんだよな」
その担当者は、あの男女のサークル連中の1人で、担当箇所は1階層の旅客用停泊地にある、VIP専用個室ラウンジの窓があるエリアだった。
ここは常に客の目に晒されるために、迅速な清掃が必要な場所だ。
さらにいえば、本日の責任者の男に連絡したのだが、返答もなければ現場にもいなかった。
なのでしかたなく、現場が長いおっちゃん達が対策を考えた。
「そうだ!嬢ちゃん。お前さんの担当は6層だったよな?」
「ええ、そうですが」
「向こうは少し汚れてても問題ないから、1層のほうを頼めないか?」
それは、シフトを変更するという、分かりやすい対処法だ。
「それは構いませんけど…」
「ああ、上には俺から言っとくよ」
あの職員が居ないのに、勝手にやってしまっていいのだろうかと思うが、現場に居ない上に連絡も取れないのだから仕方ない。
こうして俺は1層の清掃に向かう事になった。
1階層である旅客用停泊地は、宇宙港の玄関口であり顔だ。
コロニーや船のなかで育った奴なら別だが、惑星上で育った身としては、小学校の社会科見学の時に初めて見た宇宙港は、キラキラしていたように思ったものだ。
今となっては、あのキラキラは色んな人達の誇りある仕事のお陰で保たれていたのだということが良くわかる。
そんな1階層である旅客用停泊地にある、VIP専用個室ラウンジとは、旅客船の搭乗時間までの間、特別なパスを持った人間のみが使用を許可される、超豪華な待合室だ。
重厚かつシンプルでありながら最高級品のソファーセット・それに相応しい落ち着いた室内・トイレにシャワールーム・化粧室・仮眠用の寝室・部屋ごとに専属の総合世話係と男性給仕と女性給仕が付くという、待合室というよりは高級ホテルのような施設だ。
勿論入ったことはない。
全部パンフレットに書いてあったことの受け売りだ。
ようするに、副社長御嬢様や評議員閣下なんかが利用する場所ということだ。
それに、俺の作業場はその外側だから全く関係ない。
窓の七層構造式強化クォーツ樹脂を踏まないように、外側を綺麗にしていく。
この時はスーパースクレイパーΣ(シグマ)ではなく、窓拭き専用のディルソン社製『グレートクリーナーΛ(ラムダ)』という、窓拭き専用の、T字型の小型スクレイパーだ。
付いている機能はスーパースクレイパーΣ(シグマ)と同じだが、こちらは窓拭き用に出力が調整されている。
もちろん窓以外の部分も清掃しなければいけないので、『スーパースクレイパーΣ(シグマ)』もちゃんと持ってきている。
そっちの作業の時は、『グレートクリーナーΛ(ラムダ)』を宇宙服の腰の部分に引っ掛けておくこともできる。
ちなみに洗剤の入れ替えの時にわかったのだが、この業務用洗剤のメーカーがあのソンブレロ社謹製だったのには一抹の不安を覚えた。
これも一般には販売しておらず、宇宙港にある病院経由で手に入れているらしい。
とはいえ現状使用するしかないので、仕事をつづける。
そうして何枚かの窓を拭き終り、次の窓に向かった時、あのジザン・ヤウサルが、窓の向こうにいるのを見つけた。
はっきりいって、あいつがこんなところに入れる訳がない。
経済的な理由もあるが、なにより旅客船を利用する必要がない。
案の定、この部屋に入れるっぽい身なりの人物数名がその場にいた。
なんとなく嫌な感じがしたので、ヘルメットに搭載されているカメラを起動させた。
これは、破損箇所などをみつけた場合の記録・中継用のものだ。
中から見えないように位置取り、しっかりと録画をはじめた。
音声が記録出来ないのが残念だが、映像があるだけでもいいだろう。
すると、身なりのよい男の1人が、銀色のでかいトランクをテーブルに乗せ、開けた。
その中身は、いくつもの注射液のアンプルがスポンジにうまっていて、そのどれもが妖しい色をしていた。
それがなにかは判別が付かないが、一応お伺いをたてておくか。
あり得ないとはおもうが、ヤバイものでない場合だってあるからだ。
俺はゆっくりとその窓から離れ、十分な距離を保ったあと、管制塔にお伺いを立てた。
本来なら管理部の責任者に連絡するべきなんだろうが、いないのだから仕方ない。
「管制塔ちょっといいか?」
『おや、ショウンじゃないか。清掃の回線からなんて、転職したのかい?』
呼び出しに答えてくれたのは、筋肉美女管制官として有名なサマンサ・リエナビッチだった。
管制官なら、俺のことは耳にはいっているだろうにイヤミなことを言う。
「短期のバイトだよ。それよりこいつをみてくれ」
さっき撮影した映像を管制塔に送る。
『ん?ジザンの糞野郎じゃないか。なんかの取り引きかい?』
サマンサの声のトーンが下がる。
ジザンの奴は管制官達からも嫌われている。
その理由としては、出港時・入港時に指示に従わないことがあげられる。
通常、出港時・入港時には、管制塔に許可を貰ってから実行するのだが、ジザンはそれを一切しない。
入港時は空いている停泊地に勝手に停泊させ、出港時にも勝手に出ていく。
それにより、ニアミスや接触もあったりするのだが、
「管制塔から許可は出た」
とだけ言い捨て、さっさと逃げていく。
俺もニアミスを何度か食らったことがあり、被害者達何人かと一緒に文句を言いに行くと、
「避けられない奴が悪い。というか、俺が通るんだからお前らが道を開けるのが普通だろうが」
と、言い放ち、
「まあ、女どもが俺に身体を差し出すなら別だがな」
という、頭のおかしすぎる発言と同時に、一番近くにいたウィオラ・ザバルの胸を鷲掴みした。
その瞬間、リリーナ・フレマックスの鉄拳が飛び、マウントからの連続顔面殴打が開始された。
リリーナには色々迷惑をかけられているが、こんな奴のために彼女が殺人犯になるのも寝覚めが悪いので、その場の全員で取り押さえるのに苦労したのは、忘れられない記憶だ。
そういう頭のおかしすぎる奴なだけに、最悪の事態を想定した方がいい。
「確信はないがヤバイ気がする。GCPOにチェックを頼みたい。あと組合にも連絡を」
『わかった。これであいつの尻尾が掴めるといいんだがね』
それはサマンサも同じだったらしく、直ぐに手配をしてくれた。
そして怪しまれないように清掃を再開し、10分ほどしたころに、サマンサから連絡がきた。
『GCPOから返答がきたわ。詳しい話が聞きたいっていうから繋ぐわよ』
『久し振りだなショウン』
「リュオウ警部!?」
この宇宙服は、音声のみの通信だ。
なのに、その声を聞いただけで相手の顔を思い出し、思わず声をあげた。
『悪いが挨拶は後だ。結論から言うと黒。おそらくあれは最新の麻薬だ。名前は聞かない方がいい。やつらはまだ部屋にいるか?』
『部屋からの退出チェックはまだです』
警部殿の問いに、横にいるらしい人物が返答する。
『よし、準備しろ。ショウン。お前はもどってこい』
「わかった」
警部殿の指示に従い、ハッチのある方に向かうことにした。
そこに、同じ宇宙服を着た人影が現れた。
まあ間違いなく、担当の男女のグループの1人だろう。
いまになってご出勤とは大したもんだ。
だがある意味タイミングがよかったともいえる。
ヤバイことに巻き込まれなくて済んだんだからな。
「お前ここの担当の奴だよな。ここはもうやらなくていい。だから早いとこ中に…」
ところがそいつは、俺に近づいて来ると同時に、隠し持っていたデブリ解体用の電磁振動ナイフで斬りかかってきたのだった。
用語説明
ソンブレロ社:歴史と信頼のある製薬会社。
一般に販売することの無い、様々な内服薬・外薬・注射薬・医療品などを販売している。一流企業。
その業務内容によって、部門が別れており、
製薬・研究のドラッグ部門
洗剤・消臭剤・衛生用品などのクリーン部門
化粧品・スキンケア用品などのコスメティック部門
医療用品・注射器や包帯・消毒薬など全般のメディカル部門
の4部門が存在する。
決して都市ひとつ犠牲にしてでも自分達の利益を優先するような会社ではありません!(笑)
なお、『Σ(シグマ)』『Λ(ラムダ)』の表現はわざとなので気にしないで下さい
ご指摘があり、窓ガラスの材質を変更しました。
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします




