File06 惑星ビーテンツへの貨客輸送③ 美しき強奪者
長くなってしまったので分けることにしました。
5/20 ですが、ちょっと切りが良くなかったので、加筆修正しました
6/6 サブタイトルを改編しました
俺が扉を開けると、そこにいたのは、じいちゃんでも保安係でもなく、3人の美女だった。
そして俺は、その3人の美女を知っていた。
「あ!姉ちゃん達乗ってたのか?」
「姉ちゃん?」
俺の言葉に、チャーリーが疑問を投げ掛けてきた。
「じいちゃんの孫なんだ。俺のガキのころからの知り合いだ」
「てことはあれか!『ドラッケンの三姉妹』か!」
チャーリーは思わず声を上げた。
『ドラッケンの三姉妹』とは?
ドラッケングループの元・総帥、クロイド・ドラッケンの孫娘で、
長女サラフィニア・ドラッケンは、グループ傘下の企業を幾つも経営し、その予知能力のような先見の明。不正行為を見逃さない勘と洞察力から『魔眼の女帝』などと呼ばれている。
次女マイルヤーナ・ドラッケンは、グループが所有する交通網の全てを掌握している。
そしてその宇宙船の操縦・運用・戦闘指揮において、比類なき実力を発揮する。
三女ティナロッサ・ドラッケンは、銀河共和国中の格闘技大会を総なめした格闘家であり、CQC(近距離格闘)CQB(近距離戦闘)においても超一流の腕前を誇っている。
そのこともあって、傘下の警備組織の全てを取り仕切っている。
以上、この3人のことを指す言葉だ。
そしてじいちゃん同様に、いや、下手をすればじいちゃん以上にお近づきになりたいと思っている連中は多いだろう。
その姉ちゃんたちは、何故か一言も喋らずに船のなかを見回し始めた。
祖父バルクスの一周忌の時には、船のなかを見てなかったからだろうと思い、
「姉ちゃん達が乗ってるなんて聞いて無かったよ。久し振り…」
俺がそう話しかけた瞬間、3人は物凄いスピードでキッチンに突撃していった。
その行動に、俺もチャーリーもティラナも呆気にとられてしまった。
しかし、俺はすぐに気付いた。
3人が何をしにきたか。
だが、時はすでに遅く、
「果実酒発見!梅酒に杏酒に桃酒もあるわ!」
「やったー!レーズンサンドクッキーだ!あ!チョコケーキも!」
「ソーセージがあったぜ!あと、鮪の赤身の賽の目漬けがあった!」
キッチンにある冷蔵庫と食料庫は荒らされていた。
「なあ。どうなってんだこりゃ?」
チャーリーは、3人の行動に完全に困惑し、俺に視線をむけた。
「ドラコニアル人が、通常のヒューマン種よりよく食べるし、かなりのグルメなのはしってるよな?」
「まあな。だとしても、ドラッケングループの経営者一族が食い物に困ってはいないよな?」
ではなぜ彼女達はこのような事をしているのか?
それは、理由はよくわからないが、俺の作る料理が、ドラッケン一家やその周囲の人達の好みに合致したと言うのが原因だ。
ドラコニアル人は、その強靭で長寿な身体を維持するために、大量の食料を必要とする。
その上彼らは食へのこだわりが強く、ドラコニアル人の社会のなかでは、腕の良い料理人は尊敬の対象になる。
同時に、通常のヒューマン種であっても、ドラコニアル人に認められた料理人は一流の料理人と認められた事にもなる。
「理由はわからないけど、俺の素人料理がたまたま気に入ったんだろ。俺をガキのころから知ってるのも含めてな」
「それはありえません。ドラコニアル人は食事に関しては一切の妥協をしません。例え身内であろうとです」
レーズンサンドクッキーを、保存用の箱ごと確保したマイルヤーナ・ドラッケン=マヤ姉ちゃんが話に入ってきた。
「むひろ身うひだからこほきひしくふるのがドラコニアル人でふよ」(むしろ身内だからこそ厳しくするのがドラコニアル人ですよ)
「食べながら喋るなよマヤ姉ちゃん」
レーズンサンドクッキーを食べながらだが。
「らってひはひふりのショウンお手へいのおはひなんらもん」(だって久し振りのショウンお手製のお菓子なんだもん)
マイルヤーナ・ドラッケンは、紅い鱗に黒い瞳。黒い髪をポニーテールにした、見た目は女子大生くらいの美人だ。
想像して欲しい。
うら若き女子大生が、クッキーの入った箱を小脇にがっちりとホールドし、ボリボリとレーズンサンドクッキーをかじっている姿を。
マスコミや雑誌に載っている彼女しかしらない人から見れば、百年の恋も冷めようと言うものだ。
しかし、冷めていない男がいた。
「はじめまして、ミス・マイルヤーナ。私はチャーリー・レックと申します。仲買人や商売人をやらせてもらっているものです」
丁寧なお辞儀をし、キリッという表情をし、マヤ姉ちゃんにスマイルをむけていた。
「…んぐっ!初めまして。マイルヤーナ・ドラッケンと申します」
どうやら、今初めて同乗者に気がついたらしく、慌て呑み込んで挨拶を返していた。
チャーリーはチャンスとばかり、マヤ姉ちゃんのご機嫌取りをしつつ、ビジネスの話を始めようとしていた。
「なんだ、組んで仕事するようになったのか?」
そこに、キッチンから作り置き食材と保存食の入った保存容器を抱えた、ティナロッサ・ドラッケン=ティナ姉ちゃんが顔をだしてきた。
「お客だよ。今運んでいる荷物の依頼主だ」
「そっちのアンドロイドは?」
ティナ姉ちゃんは、自家製のソーセージを噛りながら、ティラナに視線をむけた。
「初めまして。私はチャーリー様の秘書をしております、アンドロイドのティラナと申します」
「なんか名前似てるな」
丁寧に挨拶をするティラナを、ソーセージを頬張りながら凝視していた。
ティナ姉ちゃんは、鱗はじいちゃんと同じ黒、長い髪は面倒くさいと言う理由で、ショートカットにしていて、大概はミニスカートか尻尾用の穴を空けたズボンが多い。
分かりやすくいえば、体育会系の女子高生といった外見だ。
そして、話をしている俺達の目の前を、いつの間に持ち込んだのか、ホバー式の台車で果実酒の入ったビンを大量に持ち出そうとしているのが、3姉妹の長女サラフィニア・ドラッケンである。
「サラ姉ちゃん。勝手に持ち出そうとするな」
「いいじゃない!こんなにいっぱいあるんだから!」
蒼い鱗に、ウェーブのかかったロングヘアー。姉妹1のプロポーションの持ち主で、様々な酒のソムリエの資格を持つ大酒飲みである。
もともとドラコニアル人は酒好きではあるのだが、サラ姉ちゃんは輪をかけて大好きだ。
「ご自慢の酒蔵になら、贈答品やら献上品やらの高級品が唸るほどあるだろ!」
「だってこれ美味しいんだもん!」
果実酒のビンを守るように抱き付いて駄々をこねる姿は、『魔眼の女帝』の二つ名も台無しだ。
まあ、そういう姿を見られても構わないと思われるほどに受け入れられているのは、祖父も両親も他界した天涯孤独の身としては有難いことではある。
そして後の2人も、台車を持ち出して、菓子や作り置き食材や保存食をごっそり持ち出そうとしている。
これはもう諦めるしかない。
この3人が、気に入った料理を手放すことはまずないからだ。
そこに、新たに人影が入ってきた。
「いいかげんにせんか!」
「「「お爺様!/じいちゃん!」」」
護衛を数人引き連れてやってきたじいちゃんは、姉ちゃん達に一喝したあとに、深いため息をついた。
「まったく…相手がショウンで、赤ん坊同然の時から知っているからというて、気の抜きすぎ。失礼と迷惑のかけすぎじゃ」
じいちゃんに説教されて少しはしゅんとするが、確保した食品は絶対手放さないのはさすがだ。
「すまんの。材料費は全額弁償するでな」
「たのむよ。流石にキツイ」
じいちゃんも、姉ちゃん達が手放さないのは理解しているので、賠償は基本対応だ。
その理由としては、じいちゃんも俺の料理を気に入っているからだ。
だが姉ちゃん達と違って、強奪をしていかない。
それがありがたい。
というかそれが普通の行動だ。
なので俺は、その差を分からせるために、寝室に向かい、備え付けてある小さな冷蔵庫から、業務用の大型タッパーをとりだした。
戻ってくると、
「初めまして!私は、仲介人のチャーリー・レックと申します!ドラッケングループ総帥、クロイド・ドラッケン氏にお目にかかれて光栄です!」
じいちゃんの手をとり、嬉しそうに挨拶をしていた。
ちなみに、本人達は残っているが、食材や調味料を除いた、作り置きと菓子類と果実酒は全部、姉ちゃん達が自分の乗ってる船へ、じいちゃんの護衛の人達に運ばせてしまっていた。
「じいちゃん。ちょっといい?」
じいちゃんとの邂逅を邪魔されたことに、チャーリーが睨み付けてくる。
「そう睨むなよ。ティラナ。ちょっとこれ持ってて」
「はい。わかりましたけど…」
俺はチャーリーに笑いかけ、ティラナにタッパーを渡す。
困惑するティラナを余所に、俺はじいちゃんに視線をむける。
「じいちゃん。これ、チャーリーに頼まれてたんだけど、チャーリーが譲ってくれるってさ」
「ん?なんじゃ?」
じいちゃんが覗き込んできたところで、俺はタッパーの蓋をあける。
「おお!これは有難い♪いやあ、すまんのお♪」
そういってじいちゃんは、にこにこしながらチャーリーの手を取って礼をいう。
どういうことかすぐに理解したチャーリーは、
「いえいえ。是非ともお近づきの印に!」
すぐさま話を合わせてきた。
ちなみにそのタッパーの中身は『煮卵』だ。
半熟の茹で卵をつくり、特製の醤油ダレに最低一晩つけておく。
これは、超空間跳躍に入ったその日に仕込んだもので、3日はつけてある。
その時はキッチンの冷蔵庫がいっぱいだったので、寝室に備え付けてある小さな冷蔵庫にいれておいたのだ。
ドラコニアル人は種族として酒好きだが、卵も好物だ。
その中でも、ドラッケン一家やその周囲の人達の好みにあったのが、特製の醤油ダレに浸けた煮卵だったわけだ。
そしてもちろん。
それに気がつかない姉ちゃん達ではない。
「ショウン!お前、隠してたな!」
「お客さんのものなんだから当たり前じゃないか」
ティナ姉ちゃんが襟首を掴んでくるが、抵抗はしない。
「お爺様!私にも分けてくださいね!ね?」
マヤ姉ちゃんは早くもじいちゃんにおねだりし、
「ショウンちゃん!私にも作ってほしいなぁ?」
「材料がないから無理」
「え~?!」
サラ姉ちゃんは、すぐ俺に作製を依頼してくる。
この辺り姉妹の性格の差がでているのが面白い。
じいちゃんは、ティラナから『煮卵』を受けとると、
「ではこれはゆっくりと楽しませてもらおうかの。ショウン。あとお客人も一緒に、こっちの船で食事を一緒にどうじゃな?」
しっかり抱えて、嬉しそうに自分の船に帰っていく。
俺もチャーリーも断る理由はないので、ついていくことにする。
ティラナは残ろうとしたが、チャーリーが腰に手を回して強引に同行させた。
チャーリーいわく、
「秘書は同行するのが当たり前」
だそうだ。
まあ、銀河標準時も昼過ぎだし、しっかりお呼ばれすることにしよう。
用語解説
ドラコニアル人:人間と、東洋のドラゴンが合わさったような種族。
ほぼ人間と変わらないが、
耳はエラのような皮膜の器官。
太い爬虫類の尻尾があり、首から始まり、背中一面から尻尾の付根、肩から腕の外側、脚の外側から脚の裏を除いた膝下全体にかけて鱗がある。
それ以外は見た目は人間とあまり変わらない。
身体能力はヒューマンの倍以上あり、寿命は平均1000歳にも達する。
その上、卓越した技術力や戦闘力を有し、宇宙全域の知的生命体のなかでも上位に位置づけられている。
ドラコニアル人は、その強靭で長寿な身体を維持するために、大量の食料を必要とする。
その上彼らは食へのこだわりが強く、ドラコニアル人の社会のなかでは、腕の良い料理人は尊敬の対象になる。
同時に、通常のヒューマン種であっても、ドラコニアル人に認められた料理人は一流の料理人と認められた事にもなる。
種族的に酒と卵が好物。
三姉妹は、ショウンが産まれた時から現在の外見です。
ちなみにティラナはお気に入りです。
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