File57 惑星オルランゲアでの休暇⑨ 優しい宇宙は独りぼっちを泳ぎに誘う
早速フラグの回収です♪
オルランゲア宇宙港。
惑星上に移動するための軌道エレベーターを中心にした、ドーナツ形のスタンフォード・トーラスを6つ重ねたような形をしている、一番基本的な宇宙港だ。
1つのドーナツの全長は30㎞。
リング部分は直径800m。
遠心重力を発生させないために無回転。
リング同士。さらには、軌道エレベーターにぶつからないように軸で結ばれ、人や物資の移動に使用される。
それがあるために、車輪のようにもみえる。
ドーナツは、一番下の部分を1階層とし、上に上がると数字が増えていく。
俺が担当する清掃箇所は、2階層の生活施設区画にある小さなセンサーが密集したエリアだ。
小さなセンサーといっても、直径が50㎝・高さが50㎝の円筒で、センサー同士の間は5mも離れている。
それが、100㎡(平方メートル)ほどの広さの場所にズラリとならんでいる。
まるで墓標のようにもみえるが、大型デブリの接近や、宇宙港近辺の探査もしてくれる大事なセンサーだ。
ちなみにこれは、船の出入りがない、運行管理区画と生活施設区画のドーナツに1㎞ごとに設置されている。
『じゃあ、お前さんはここの担当だ。通信のチャンネルは、どこのにしておいてもいいから、常にオープンにしておくようにな。じゃあ頑張ってくれ』
ベテランのおっちゃんが、プラットフォームに乗ったまま軽い指示をしてから、自分の持ち場に向かった。
そのプラットフォームが見えなくなると、辺りは俺1人になる。
サボっててもばれなさそうだが、チェックをされれば一発でバレるだろう。
なので、真面目に仕事を始める。
清掃用の道具はデッキブラシ1本。
といってもただのデッキブラシではない。
銀色で胴体部分の一部が膨らんでいる形が特徴の、ディルソン社製『スーパースクレイパーΣ(シグマ)』という、最新のデッキブラシだ。
宇宙空間や重力空間での、船体・建物の清掃に適した循環洗浄デッキブラシで、胴体内に洗浄液を搭載し、先端部はブラシの前方部からは洗浄液を噴射、ブラシの後方部はその洗浄液と汚れを吸引するようになっている。
洗浄液は胴体内の膨らんだ部分で汚れを濾過、再度洗浄に使用される。
軽くて取り回しもしやすいので、俺のような貨物輸送業者なら、一つくらい船にのせておきたいやつだ。
ともかく、範囲の隅っこから掃除をはじめる。
船やコロニーの外壁には宇宙空間を漂う砂や水滴がどうしてもへばりつく。
これを放置すると、見た目が汚くなるし、場合によっては故障の原因になったりもする。
それを綺麗にするのが外壁清掃という仕事だ。
しかしこの『スーパースクレイパーΣ(シグマ)』は本当によく汚れが落ちる。
購入は本気で考えておこう。
開きっぱなしのチャンネルからは、ベテランのおっちゃん達の四方山話が流れてくる。
おそらくチャンネルをかえれば、おばちゃん達だったり、仲の良い男女の集団だったりの会話が聞こえてくるのだろう。
俺は、その音声を微かに聞こえるぐらいの音量にして、作業を続けていた。
掃除を開始して2時間。
担当箇所の4分の3くらいは綺麗になった。
俺は掃除の手を止め、ふと宇宙空間を見つめる。
毎度毎度船の中から見つめている光景だ。
吸い込まれそうになることなどあるはずがない。
その視線の先には、たまたまC-251ガス地帯が目にはいった。
昔の人は、この宇宙空間に漂う、重力的にまとまりをもった宇宙塵や星間ガスのことを、惑星上にある雲に見立てて『星雲』と呼んだらしい。
ロマンチックというかなんというか。
あっちはリーシオだっけ?
いやランレイの方向だっけ?
まあ、仕事が関係ないならいつでもいけるか…
あそこぐらい…簡単だ…
『あっはははははははは!バッカじゃねえのかお前!』
いきなりおっちゃん達の笑い声が聞こえた。
微かに聞こえるぐらいの音量にしておいたのに、普通に聞こえるということは、かなりの大声だったということだ。
その瞬間、俺は自分の状態に気がついた。
外壁から脚を離し、ゆっくりと離れ始めていたからだ。
「うわっ!」
慌てバーニアを起動し、外壁に戻った。
宇宙空間なんか毎日見ている。
じいちゃんがいるときに船外活動は何度もやったし、ティナ姉ちゃんとの訓練で宇宙空間での戦闘訓練もやった。
だからそんなことはあり得ないとおもった。
甘かった。
船や宇宙港の外壁が無いだけでこんなことになるとはおもわなかった。
そういえば昔にじいちゃんが言っていた『宇宙に見惚れて、不意に泳ぎたくなることがある』と。
ガキの頃はどういう事かわからなかった。
よく解ったよじいちゃん…。
これがそうなんだな。
責任者のゴルトーさんも注意するようにいっていたのに…
調子に乗ってやらかすなんて、俺はまだまだ半人前。
今の俺の体調不良も関係しているのかもしれないが、恥ずかし過ぎだ。
とりあえず、会話がちゃんと聞こえるぐらいまで音量を上げた。
『新入りの嬢ちゃん、どうかしたか?いままで静かだったのに』
すると、俺が声を上げた事に気がついた、おっちゃんの1人が声をかけてきた。
「いえ…なんでも…」
『…溺れたな?』
なんとかごまかそうとしたが、見破られてしまったらしい。
『こええよな。俺も経験がある。独りぼっちだと良くあることだ』
おっちゃんは、ミスをした俺をバカにする事なく、慰めてくれた。
『だ・か・ら!ひとつの作業場に2人は配置しろってんだよな!』
『上が許可しないんだとよ。ゴルトーさんが何度陳情してもハネられるらしい』
『その連中は、1回ここに放置してやりゃあいいんだ』
すると、話をしていた別のおっちゃん達が、俺への励ましというよりは、上への愚痴が始まった。
『だからせめてもの対策に、チャンネルを常にオープンにして、下らない話をして、宇宙に意識が向かないようにしてるんだ。まあ、それでも溺れちまう奴はいるんだがな…』
その時のおっちゃん声は、何故か寂しそうに聞こえた。
しかし次の瞬間には、
『ところで嬢ちゃん。俺達おっさんの会話に興味があるのか?てっきり他にいってるものとばかり思ってたんだが』
明らかに、にやにやという表情をしてそうな口調で、俺に話しかけてきた。
「作業に夢中になってて、聞いているようで聞いていなかったというか…」
間違いなくからかいにきているのは理解できる。
音量を小さくせずに、おっちゃん達の話をしっかり聞いていれば、宇宙に溺れることはなかったのだからと考えると、からかわれるのを受け入れざるを得ない。
『なんだ。ロガの奴の寝タバコでパンツに穴あけて火傷した話なんか傑作だったのによ!』
『なんだと?トラルドの、自分の寝っ屁に驚いて、ベッドから落ちて後頭部ぶつけた話の方が間抜けだろうが!』
『だったらマシウの無重力状態の船で、トイレを破壊した大惨事の話のほうがスゴイだろうが!』
おっちゃん達は声を上げて言い合いを始めるが、ものすごく楽しそうだっだ。
たしかにこんな話をしていたなら、宇宙に溺れることはないだろう。
それにしてもそんな話を聞き逃していたのは、実に残念だ。
今回、主人公は15~6歳から仕事をしているけど、年齢的には大学生くらいだから、まだまだ未熟な部分があるんだよ。というのと、
後々にパートナーを迎えるための布石でもあります。
それから、
『Σ(シグマ)』
こうしてあるのはわざとなので気にしないで下さい
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