File05 惑星ビーテンツへの貨客輸送② 港の封鎖で思わぬ出会い
また、小出しです
5/17 修正しました
6/1 修正しました
6/6 サブタイトルを改編しました
超空間に突入してからは、非常に穏やかな時間が続いていた。
到着まで3日かかるのと、気心の知れた仲であるため、自動航行装置に運転を任せ、操縦室から離れて過ごす時間が増えた。
なので、ティラナにも手伝ってもらって、備蓄のためのお茶菓子や、作りおき食材や保存食なんかを作っておくことにした。
料理は趣味でもあるし、長時間の航海の退屈をまぎらわす手段でもある。
チャーリーは汎用端末を使って、買付やら、株取引やらを熱心に行っていた。
しかし、検問の時のショックが大きかったのか、俺に女になってくれと土下座をしてきた。
ティラナからのお願いもあったので、仕方なくなってやることにした。
ただし。超空間にいるあいだだけという約束だが。
ありがたいことに、超空間にいるあいだは何事もなく、惑星ビーテンツに近づいていた。
「そろそろビーテンツに到着するぞ」
乗客2人に、男の姿で報告する。
「おいおい。まだ超空間なのに男になるなよ。せっかく両手に花だったのによ」
「すぐに退出開始するから誤差みたいなもんだよ」
そういうと、直ぐに操縦席に座り、超空間からの退出を開始する。
空間の歪曲が収まり、通常の空間に戻っていく。
「なんだあ?」
その時俺の視界に飛び込んで来たのは、宇宙港から一定の距離を保ったまま、まったく進もうとしていない、船の大群だった。
大型・中型・小型。
貨物に旅客に個人所有にGCPOの巡視船まで。
あらゆる船がひしめいていた。
「おいおいおいおい。どうなってんだこりゃ?」
「事故でもあったのでしょうか?」
俺も他の連中同様、船を止めてメインエンジンを切り、姿勢制御のためのバーニアを自動にしておく。
周りの船は、かなり待たされているのか、外観の掃除をしたり、大掛かりな整備をしたりしていた。
「まずは管制塔に聞いてみるか」
管制塔に通信をいれると、管制官の女の子が疲れた様子でモニターに現れた。
『こちらは惑星ビーテンツ宇宙港の管制塔です。お伺いしたいことは理解しております。現在ビーテンツ宇宙港は完全閉鎖されております。同時に惑星への直接アプローチも禁止されております。完全閉鎖が解除になるまで、現在の座標での待機をお願いいたします。解除時間は、予定では明後日になっていますが、現在未定です』
どうやら何度も何度もこれを繰り返しているらしく、目の光が消えていた。
「一体何があったんだ?大規模な事故かなんかか?」
チャーリーは、のめり込むようにしながら、モニターの向こうの女の子を問い詰める。
『事故だったらどんなによかったか…』
女の子は深いため息をつき、
『現在の完全閉鎖は、銀河共和国評議員補佐官のアプリス・ユーレンド氏の命令によるものです。
理由は、御自身の惑星ビーテンツ視察時の安全のためだそうです。
そのため、皆様の宇宙港内への停泊禁止・惑星への直接アプローチ禁止・宇宙港内の完全撤去を命令されました。
評議会の正式な要請書もあり、拒否ができませんでした。
現在、宇宙港内に居るのは、管制塔内の私たち管制官と、補佐官殿の護衛以外誰一人居ません。
命令は3日前。
私達はここから出ることは許されず、食事は水と携帯食だけ。
トイレはあっても、お風呂もシャワーもありません。
身体が気持ち悪いです。臭いが物凄く気になります。
通常業務中の突然の命令で着替えもありません。
管制塔から出ることもできないので着替えも買いに行けません。
長椅子での仮眠しかとってませんので身体が痛いです。
その上船乗りの人達に怒鳴られっぱなしで辛いです…』
「わ、わかった!事情さえ解ればいい」
女の子はだんだん口調が暗くなり、涙をながし始めたので、チャーリーは追求を止めた。
管制塔との通信をおえると、3人で盛大にため息をつき、
「さすがにあの様子を見ると、追求するのは可哀想だな」
「女性としては拷問に近いですよ」
「自分の船に、キッチンとランドリーとシャワーとベッドを設置しておいたのを、今日ほど英断だと思ったことはない」
通信に答えてくれた女の子に同情していた。
「とにかく、数日は動けないんだからのんびりしようぜ」
俺はこの機会に、色々と点検をすることにした。
そして俺が操縦室を離れようとしたとき、通信音がなった。
見たことのない船名だった。
「こちらは貨客船『ホワイトカーゴ』そちらは何者だ?」
『こちらは貨物船『コキノグレモス』じゃ。久しぶりじゃなショウン!』
モニターに現れたのは、白く長い髭を蓄えた老人。
しかし、耳のところには、ヒレのような器官があり、その手の甲には、艶やかな黒い鱗があった。
「クロイドのじいちゃん!どうしたんだよこんなところで?」
モニターに現れた人物に、俺は思わず歓喜の声をあげてしまった。
『はっはっはっ!お前さんと同じで足止めを食らったに決まっとろうが』
「ああそうか。にしても久しぶりだ。じいさんの一周忌以来だ」
『あれからもう2年か、早いのお』
クロイドのじいちゃんは、自慢の髭を撫で付けながら目を細めていた。
クロイド・ドラッケン。
俺の祖父、バルクス・ライアットの友人であり、師匠でもあった、ドラコニアル人だ。
ドラコニアル人は、人間と蜥蜴が融合したような姿をしており、耳の位置にあるヒレのような器官。
爬虫類の尻尾。
首から始まり、背中一面から尻尾の付根、肩から腕の外側、脚の外側から脚の裏を除いた膝下全体にかけて鱗がある。
それ以外は見た目は人間と変わらない。
身体能力はヒューマンの倍以上あり、寿命は平均1000歳にも達する。
その上、卓越した技術力や戦闘力を有し、宇宙全域の知的生命体のなかでも上位に位置づけられている種族だ。
なかでもこのクロイド・ドラッケンは、ドラコニアル人のなかでもかなりの有力者で、銀河共和国は勿論、銀河帝国や星域連邦にも名の知れた実業家であり元軍人だ。
俺の祖父が友人でなければ、会うことすら出来ない雲の上の存在だ。
今は、というか下手をすれば俺の祖父が産まれる前から、総合企業のドラッケングループを息子夫婦に任せて、貨物輸送業者をやっているらしい。
「ところでじいちゃん、グレートウォールはどうしたんだよ?あれだったら一発でわかったのに」
グレートウォールというのは、ドラッケングループ自慢の超弩級戦闘輸送艦で、銀河共和国防衛軍の艦隊と互角以上にやりあえるバケモノだ。
『あれはいまメンテナンス中でのぉ。『コキノグレモス』はもう少し小さいやつじゃ』
じいちゃんは、笑いながら髭を撫で付ける。
『どうせ動けぬし、積もる話もある。こっちにこぬか?』
「今は客を乗せてるから、許可をもらったらで」
俺はいったんマイクを切り、チャーリーとティラナに向き直る。
「ということなんだが、どうだ?」
話を聞いていた2人に許可を求めてみる。
「お前…とんでもないのと知り合いだったんだな…」
チャーリーは驚愕の表情を浮かべながら、副操縦席の椅子に座り込む。
「正確には俺の祖父の友人だな。それでガキのころから知ってるんだよ。それで話は聞いていたと思うんだが…」
「いくに決まってんだろ!あのドラッケングループ総帥、クロイド・ドラッケンに会えるんだぞ!」
「わかったわかった!ティラナはどうだ?」
チャーリーの剣幕に押されながらも、ティラナにも尋ねた。
「私はチャーリー様がいいなら異論はありません」
2人から許可はでたので、コキノグレモスの位置を確認し、マーカーをつける。
「じゃあ、今からそっちに行くから、連結通路をたのむよ」
『わかった。準備をしておく』
エンジンを始動し、ゆっくりと船を動かし始めた。
マーカーを頼りに、じいちゃんのいるコキノグレモスに近づいていく。
グレートウォールよりは小さいといっていたが、俺達の目の前に現れたのは、グレートウォールと変わらないデカさの、超弩級戦闘輸送艦だった。
「じいちゃん!どこがグレートウォールより小さいんだよ!」
『20mほど小さいじゃろう?』
俺が覚えている限り、グレートウォールは1625mだったはずだ。
じいちゃんの話から考えると、コキノグレモスは1605mということになる。
「そういうのは小さいって言わないんだよ…」
じいちゃんは、大雑把なのか細かいのかよくわからないことがある。
そのうちに、コキノグレモスの進入ハッチに接近していた。
すると、モニターにはじいちゃんではなく、通信士の男性のドラコニアル人が映っていた。
『ホワイトカーゴ。こちらからガイドビームを射出する」
「了解。コキノグレモス側からのガイドビームを確認。自動航行装置にて接舷開始」
自動航行装置のスイッチを入れると、ゆっくりと近づいていき、停止する。
「接舷完了。停止する」
『ホワイトカーゴの停止を確認。連結通路を展開する』
しばらくすると、ガチャンという連結通路が接触した音が聞こえた。
『通路を設置して、空気を注入した。ドアを開けてくれ』
「了解」
連結を確認すると、エンジンを停止し、操縦室をでる。
「いよいよ、銀河に名だたる経済界の首領との御対面だ。このチャンスは絶対無駄にしねえぞ」
チャーリーは身だしなみをしきりにチェックし、
「顔と名前を覚えてもらうだけでいいんですから、失礼な事だけは気をつけてくださいね?」
ティラナは、襟を直したり裾を直したりと、完全に世話焼き女房だ。
気持ちはわからなくはない。
俺にとっては、ガキのころから知ってる豪快なじいちゃんだが、他の人にとっては、銀河共和国はおろか銀河帝国や星域連邦にまで名前が知られている大実業家であり、コロニーをいくつも経営する大財閥の創始者であり、元・総帥だ。
繋がりを持ちたがっている連中は星の数ほどいる。
だから俺は、じいちゃんとはあまり連絡をとらないようにしているし、自慢するようなこともしてはいない。
「俺がクロイド・ドラッケンと知り合いだってのは言わないでくれよ」
なので、チャーリーに釘を刺しておく。
「わかってるよ。変なのに絡まれたくないからだろ?じゃあ俺が頑張ってアポ取ったってことでいいよな?」
ちゃっかりしているが、言いふらされるよりはましだ。
「じゃあ開けるぜ」
俺が扉を開けると、そこにいたのは、じいちゃんでも保安係でもなく、3人の美女だった。
新種族を出してみました。
お分かりだとは思いますが、
グレートウォールは万里の長城
コキノグレモスは赤壁です。
ドラコニアル人は、名前は西洋。文化は東洋な感じにしています。
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