File43 惑星ランレイへの貨物輸送⑤ 呼ばれた者・呼ばれない者
ちょっと長めです
ランキングに乗っていられるのは皆様のお陰です。
ありがとうございます。
お呼ばれがきまり、会計を済ましてマーケットからでると、なぜか道行く人たちが通路の端に寄っていた。
「なんだこりゃ?」
「原因はあれだね」
ジャンの、ひいては全員の疑問に、ライティスさんが視線を移動させて答える。
その視線の方向には、黒服集団に囲まれた、顔の大部分を覆うような髭、いわゆるフルフェイスと呼ばれる髭を蓄えた中年の男がいた。
「誰だ?」
「評議員のディウェンザー・オーシェクだね。視察にでもきてたんだろう」
つまり、評議員殿が通るからということで、黒服が市民に端に寄るように指示したのだろう。
そのオーシェク評議員が俺たちの前を通りすぎる時に、なぜかこちらに視線が向いた。
「…なんかあの人、気持ち悪いです」
アルセリアがジャンの後ろに隠れながらそう呟いた。
一向の最後尾にいた、イケメンではあるが気の弱そうな男が、すみませんと頭を下げながら移動していった。
秘書か補佐官かはわからないが、苦労していそうだ。
3人と別れて船にもどると、なぜかビジネスマン風のおっさんが停泊地にいて、こっちを睨み付けてきた。
そして開口一番、
「遅い!どこに行ってたんだ!」
と、あのクソ補佐官みたいな台詞を吐いてきた。
ちなみにあのクソ補佐官は、懲戒処分をくらい、現在は裁判のため拘留中らしい。
というか、客も荷物も乗せるつもりがないのに、何でこのおっさんはここにいるんだ?
「悪いがなんの話だ?」
「すぐ船をだせ!金はお前の相棒に払ってあるんだ!さっさと出せ!」
わけがわからなかった。
気でも狂ってるのかと思ったが、そういう感じはしない、契約の不履行に憤っている感じだ。
だが知らないものは知らない。
「なにいってるんだ?俺は1人で仕事をしているから相棒なんかいないし、こんな磁気嵐が酷い時に、こんな小型の船で出港するはずがないだろう」
相棒をもった覚えもなければ、こんな磁気嵐が酷い時に出港するつもりもない。
当然の返答だ。
「そんな!私は金を払ったんだぞ!お前の相棒に!いいからさっさと私を乗せて船をだせ!」
そういうとおっさんは、備え付けられているタラップを勝手に登り、船の扉をガンガン叩きはじめた。
前言撤回。やっぱり狂っていて話にならない。
俺はおっさんの襟首をつかんで、タラップから引き摺り下ろすと、短針銃を抜き、尻餅をつくおっさんの額に突きつけた。
「いい加減にしろよ!俺に相棒はいないし、この磁気嵐の中、船を飛ばすつもりもない!これ以上喚き散らすなら不法侵入と恐喝で警察を呼ぶぞ!」
「ひいっ!わかった!わかった!でも話を聞いてくれ!」
銃を突きつけられると、さすがにわめき散らすのを止め、多少は冷静になったようなので、短針銃をホルスターにしまった。
「たしかに私は、あんたの相棒だって奴に、「自分達の船は磁気嵐でも飛べる。前金を払うなら乗せてやる」と言われて、金を払った。そしてここを教えて貰ったんだ!」
おっさんの話を聞き、俺はある事例を思い出した。
「そりゃ詐欺だな。あんたみたいな急いでる人に、船乗りを装って近づいて、乗せてやるって言って金だけ奪って逃げるタイプの悪質な奴だ」
「そんな!大事な会合に遅刻するわけにはいかないからと、かなりの額を払ったのに!」
昔からある典型的な詐欺の手口だ。
現在だと、俺のような貨客船でも受付での手続きが必要だが、じいちゃん(クロイド・ドラッケン)が若い頃(700年以上前)は船長の胸先三寸な感じがあったため、乗組員を装ったこういう詐欺が横行していたらしい。
そして今でも、磁気嵐や様々な理由で足止めを食らった急ぐ人達を狙って、この手の詐欺が行われている。
その話を聞くと、おっさんはため息をつき、ゆっくりと立ち上がり、
「迷惑をかけて申し訳なかった。どうしても明日の朝までに会社に戻らないと行けなかったので、焦ってしまって…」
さっきとはうって変わり、随分と疲れた顔で、丁寧に謝罪をしてきた。
「とりあえず、警察に行って、そいつの事は報告した方がいい。それに、ランレイで磁気嵐にあったっていえば、対処はしてくれるさ」
惑星ランレイの磁気嵐は有名で、遅刻・遅延の理由がランレイで磁気嵐に遭遇したといえば、どんな企業や学校でも、それなりの救済策をとってくれる。
はずだ。
「はい…そうします…。本当に申し訳ありませんでした…」
おっさんは、重いオーラを引き摺りながら、宇宙港内にある警察署のある方に向かっていった。
おっさんを追い払ってからは、朝食前から準備をしていたタンシチューの仕込みを本格的に開始する。
水・キューブコンソメ・中濃ソース・ウスターソース・ケチャップ・赤ワインなんかを混ぜておき、小麦粉をから炒りしたあと、みじん切りにした玉ねぎをバターで炒める。
その炒めたたまねぎに、いった小麦粉と、最初につくったやつを少しずつ加えながら混ぜていく。
そこに赤ワインを加えて、弱火で焦げ付かないように混ぜていき、とろみがついたら火を止める。
これでベースになるデミグラスソースの完成だ。
それからは、野菜を切り、タン(牛の舌)を茹でたり皮を剥いたりしたのを、朝食前から仕込んでおいたブイヨン(肉と香味野菜からとる出汁)とデミグラスソースを寸胴鍋に入れ、アクを取りながら最低3時間以上は煮込む必要がある。
その煮込みの最中に、ギルド用の専用回線で通信があった。
その相手は、買い物帰りに見た評議員の大名行列の最後尾で、謝りながら歩いていた、イケメンではあるが気の弱そうな男だった。
『どうも初めまして。私、ディウェンザー・オーシェク評議員の補佐官を勤めております、ファグレス・コニサーズと申します。実はオーシェク評議員が貴方とお話がしたいとおっしゃってまして…』
はっきりいって、胡散臭い以外の何ものでもなかった。
評議員が、見ず知らずの人間と話がしたいなどと、怪しい以外の何ものでもない。
それにあのオーシェク評議員は、あまりいい噂を聞かない。
「悪いが断る。今は船を離れられないんでな」
シチューの鍋の世話や、さっきのおっさんみたいなのがまたくる可能性を考えると、船を離れたくない。
『…了解しました。適当に誤魔化しておきますね』
てっきり食い下がってきて、権力でも振りかざすかと思ったが、あっさりと引いた。
どうやらこういう事が頻繁にあるらしいのか、その補佐官は物凄く疲れた顔をしていたので、
「あんたも大変だな…」
『ありがとうございます…』
思わず労ってしまった。
評議員からの、ろくでもなさそうなお誘いを蹴った後、ドラコニアル人のアルセリアがいるので、タンシチューだけでは足りないだろうと、色々とサイドメニューを作成しているうちに、ライティスさん達がやってきた。
「こんばんは。お呼ばれにきたよ」
「こんばんは!お邪魔します!」
「ちっ…俺を無視して勝手に決めやがってよぉ…」
ライティスさんはいつもどおり、アルセリアは興奮気味、ジャンの奴は不機嫌そうだった。
「ライティスさん、アルセリア、いらっしゃい。ジャン、お前は帰っていいぞ」
「ふざけんな!俺だけ仲間外れにする気か?!」
「来たくない奴を、無理に参加させたくないだけだ」
「だったら最初からこねえよ!」
追い返そうとしたのは親切のつもりだったんだが、問題なかったらしい。
3人を船内にいれると、適当に座ってもらう。
そうしてキッチンに向かい、最後の仕上げをしてから料理をだす。
まず用意したのは、歯ごたえを残した感じに仕上げたタンシチューと、1㎝ほどのサイコロ状にカットしたジャガイモをつかったポテトサラダだ。
「では本日のメインのタンシチューだ。付け合わせはポテトサラダな。で、アルセリアはこれだけじゃあ足りないだろうから」
俺はキッチンにもどると、40㎝ほどある楕円形の皿に、山盛りにしたバターライスの左側にハッシュドビーフ。右側にチキンカツ。その真ん中にはペンネのクリームソース和えという、変則トルコライスを仕上げ、さらに直径30㎝・高さ5㎝の、固めに作った切り分けられるチョコレートプディングを、ワゴンに乗せて出してやった。
「変則トルコライスとチョコレートプディングだ」
それをみたアルセリアは眼をキラキラさせ、
「美味しそうですっ!」
ライティスさんはそのボリュームに圧倒され、
「腕あげたんだね…」
ジャンの奴は料理のチョイスを鼻で笑い、
「はっ!なんだよそのお子様ランチは!大人の食うもんじゃねえな!ま、ガキのお前ならピッタリだな!」
と、言ってきたので、
「じゃあお前の分はいらないな」
なので、ジャンの分の普通サイズの変則トルコライスを下げることにした。
「え?」
その一言に、ジャンは表情が固まった。
「そうだね。いらないなら出さなくていいよ」
「私はしっかりいただきます!」
そこに、ライティスさんとアルセリアが追い討ちをかけた。
「おいまて。何も…」
「大人の食う物じゃないんだろう?」
「お子様ランチなんですよね?」
さらに反論しようとするジャンに、俺とアルセリアがさらに追撃する。
ここで素直に、『食べたい』とか『前言撤回』とか言えば、食べてもらって構わなかったのだが、
「おっおう!そうだ!大人の俺はタンシチューだけで十分だ!」
本当は食べたいくせに、意地を張ったこいつが悪い。
用語説明特別編
トルコライス:長崎県、主に長崎市を中心としたご当地グルメ。一皿に多種のおかずが盛りつけられた洋風料料理。
一つの皿に複数の料理をのせることからお子様ランチにたとえられ、「大人版お子様ランチ」、「大人のお子様ランチ」などと形容されることがある。
1950年代に誕生したとされるが、名前の由来も含めて確かなことは分からない。
スタンダードなトルコライスをいただいたことがあるのですが、めちゃくちゃ美味しかったです!
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