File37 カジノ専用コロニー『ロングショット』への貨客輸送④ 気持ち悪いとはこういうことだ
この話が終わった後どうしようか悩んでいます
…やっとこのキラキラなドレスを脱げる。
はずだったのに。
どうして俺はそのドレスのまま、ケビンの奴とリゾートホテルエリアにあるショッピングモールに来ているんだろう?
これはいくつかの要因が重なった結果だ。
まず、俺の服を、クリーニング担当のおばちゃんが、従業員のものだと勘違いし、勝手にクリーニングに回収してしまった。
返って来るには時間がかかる。
ならばと、ケビンが今回のお詫びに服を買わせてくれと提案してきた。
船に帰って着替えればいいだけなので断ったのだが、自分達の事情に巻き込んだのだからと、課長さんも加わって懇願され、押しきられてしまったのだ。
「こうやってぶらつくのって、中学以来だよな」
「大抵お前が暴走気味だったけどな」
中学時代には、くだらない話をしながら登下校をしていた。
休みの日、ティナ姉ちゃんの訓練が無い時には、おんなじようにぶらぶらと街中を歩いていたりしていた。
「お前が高校に行ってりゃ、色々と違った顔の俺も見えたかもな」
「相変わらず女の子を追いかけるお前がいるだけだろ」
「まあな♪」
高校にいかなかったのは俺自身の意思だった。
祖父は学校に行くことを進めてくれたが、両親が亡くなった焦りもあって、こっちを選んだ。
後悔はない。
それでも、行ってみても良かったかなと、ふと思うことはある。
そんなことを考えていると、ケビンが声をかけてきた。
「なあ、服買う前にメシ食わね?奢るぜ」
「いいぜ。どうせここだろ?」
「当たり」
たまたま、というより、この店・『フリントロックバーガー・ロングショット店』の前だから声をかけてきたのだろう。
中学時代はもちろん、貨物輸送業者の仕事を始めてからも、お世話になったファーストフード店だ。
店に入り、適当なバーガーセットを注文して席に着く。
「いやぁ、久しぶりだなお前と飯食うの」
「まあな」
「あ、入院してた時に見舞いには行ったんだぜ。ずっと意識不明だったけどな」
「心配かけたな」
「そうおもうならおっぱいくらい触らせてくれよ~」
「なあ…。お前の親戚に、髭面で貨物輸送業者やってる人が居たりしないか?」
この友人は学生時代からおかしかったが、貨物輸送業者になってから知り合った、ガルダイト・ホーゼンに行動や言動がよく似ていたのだ。
そのせいか、あのスケベ大王な髭ジジイを、そんなにうざいとは思わなかったのだ。
そんな他愛ない会話をしていると、俺の背後から不意に声がかかった。
「ん~誰かと思えばケビンじゃないか!」
「アルムオン…」
その声をきいた、そして姿をみているケビンは物凄く嫌そうな顔をした。
「知り合いか?」
「高校時代のクラスメイトだよ…」
テーブルにやってきたそいつは、確かに整った顔立ちをしていて、服装も金のかかった派手なものだった。
隣には、やはり派手な格好をした女を連れていた。
そいつは、明らかにケビンを見下しながら声をかけてきた。
「ケビン。なんで君がこんなところにいるんだい?」
「仕事だよ。接待だ。もう終わったけどな」
「だろうね。もちろん君は接待する側、だよね?」
「はいはい。そのとおりだよ」
明らかにマウントをとってくるアルムオンとかいうやつに対して、ケビンは流すように返答している。
それを、自分に対して劣等感を感じているとおもったのか、鼻息を荒くしながらさらにマウントをとってきた。
「僕は大きなプロジェクトを成功させた御褒美の休暇中だ。彼女と一緒にね」
アルムオンは、横にいた彼女を抱き寄せる。
「で、こっちの女がここで働いてる君の彼女かい?ま、君程度が捕まえられるのなんかドブスと相場が…」
アルムオンはニタニタしながら俺の顔を覗き込んでくる。
「何で今日はこうお前の関係者に間違われるんだ?」
「俺のせいじゃないよ!」
俺はこいつを無視して、ケビンに苦情を申し立てる。
すると、アルムオンがいきなり怒ったような声をあげた。
「なっ…なんでケビン風情がこんな美人と一緒にいるんだ!」
そのアルムオンの言葉に、隣にいた彼女が文句を言う。
「ちょっと!こんな子より私の方が数倍上でしょ!?」
するといきなり、
「うるさい!ひっこんでろ!」
と、彼女を乱暴につきとばした。
彼女は転んだりはしなかったが、アルムオンを睨みつけ、
「なによ!じゃあ勝手にすれば?」
怒ってでていってしまった。
こいつの行動に呆然としていると、いきなり人の横に座り、背もたれに腕をかけ、脚をくんだ。
「ごめんよ。さっきの女はちょっとした暇潰しさ、君をまたせちゃったのは謝るよ。じゃ、この後どこにいこうか?」
「は?頭おかしいのかお前」
いきなり馴れ馴れし過ぎる台詞をはいてくるこいつに、俺は本気で困惑した。
その俺に向かって、こいつは平然と話しかけてくる。
「んん~照れ屋さんだなぁ♪僕が君を迎えにこなかったからって、ケビンみたいな奴と一緒に行動するだなんて…。それが恥ずかしくて、自分が僕に相応しくないなんて思わなくていいんだよ?僕は偉大で寛大な存在だから、そんなことは気にしない。むしろ待たせてしまったことを申し訳なく思ってるんだ…」
自分に心酔しきったこいつの言動に、俺は本気で鳥肌が立ち、思わずケビンに声をかけた。
「ケビン。こいつ、さっきの奴より数倍気持ち悪いんだが」
するとケビンはゆっくりとため息をつき、遠い眼をしながらつぶやいた。
「高校時代にこいつがいたから、さっきの奴の相手ができたんだよ」
「苦労したんだな…」
疲れきったケビンの表情から、高校時代の苦労と苦痛がにじみ出ていた。
すると、アルムオンが不機嫌そうに口を開き、
「ケビン。僕の恋人が魅力的だからって、勝手に声をかけないで欲しいな。彼女は僕のものなんだから。だいたいなんで君が僕の恋人と一緒にいるんだ?まあいい。僕は偉大で寛大な存在だから許してやるよ。君みたいなヘタレなら、彼女に手を出すことなんかできるはずないからね。さ、こんなやつは放っておいて、食事に行こう。さっきの低グレード女が休憩したいというので入ったが、こんな安物の店は僕にも君にも相応しくない。さっさと出ようじゃないか」
そういって立ち上がり、俺に手を伸ばしてきた。
ちなみに、回りの客はドン引き、店員達は怒りの表情でこいつを睨んでいた。
「おい!いい加減にしろ!」
ケビンが我慢の限界とばかりに、立ち上がってそいつの肩をつかむ。
「なんだケビン。僕に嫉妬か?まあ仕方ないよな。顔も家柄も財産も恋人も最高グレードのこの僕に嫉妬しない方がおかしいからな」
ケビンや周りの人間の視線など気にも留めず、平然とケビンに嫌味をぶつけてきた。
俺はゆっくりと立ち上がると、そいつの前に立ち、
「俺がいつてめえの恋人なんかになったんだよ!」
その股間に膝蹴りを叩き込んでやった。
「うぎゃあっ!」
そいつはぷるぷる震えながら力なく床に倒れた。
しかし気絶には至らなかったらしく、こちらを睨み付けてきた。
ちっ…威力が甘かったか。
「よっ…よくも…よくも恋人の僕にっ…こんなことをしてくれたなっ!」
アルムオンは怒りの表情を浮かべてこちらを睨み付けるが、股間を押さえて震えながらでは、間抜けでしかない。
「誰が恋人だ!お前みたいなカスお呼びじゃねえ!とっとと失せろ!」
俺の言葉に、アルムオンはさらに怒りをあらわにし、痛みをこらえながら怒鳴りつけてきた。
「僕は偉大なんだぞ!その偉大な僕を拒絶するのか?!ケビンみたいな底辺のヘドロにへばり付かれる方がいいと言うつもりなのかっ?!」
「当たり前だ!お前とケビンなら、ケビンの方が100倍マシだ!」
俺はケビンの腕を取り、身体を寄せる。
それを見たアルムオンは、驚愕の表情を浮かべたまま動かなくなった。
「いこうぜケビン。ヘドロに張り付かれたくない」
「おっおう…」
俺は、アルムオンに見せつけるようにしながら、ケビンを引っ張って店を出ていった。
書いていて楽しくなる悪役と、
本気で不愉快になる悪役があるんですが…
こいつは後者でした。
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