File225 惑星ドルブレンドンの衛星ロッセルへの貨客輸送① 食品メーカーの社員さんは、みんなその食品に詳しいように見えてしまう
名前が一緒のキャラクターがいたため、そのことを会話の中で思い出す描写を入れました
ジザンを昏倒させたすぐ後、朝に来た刑事さんが、部下の人と警官隊を引き連れてなだれ込んできた。
こうしてジザンは、麻薬取締法違反、窃盗、4名の殺人の罪で逮捕された。
が、他にも余罪がまだまだあるらしいので、きちんと裁かれるまでは時間がかかるだろう。
それから、現場にいた全員が一応の事情聴取も受けた。
同じ貨物輸送業者組合の同じ支部に所属し、知り合いでもあったことから突っ込んだ話も聞かれたりしたが、ジザンとは色々な事で揉めた記憶しかなく、一緒に行動することもなかったので、ジザンに協力したり、ましてや共犯者であったりすることはなく、早々に開放された。
アディルやアルセリアにいたっては、初対面だから余計に関係はなかった。
そして、勘違いで人質になってしまったアルセリアには、おわびとしてクラシックプリン(小分け)のプレーン・チョコ・ストロベリー・抹茶・キャラメルの5種類を渡しておいた。
プリンの入った袋を見ながら、
「こういう謝罪があるなら、何回か人質になるのも有りですね」
と、呑気な発言をした彼女に、
「馬鹿いってんじゃねえ!」
と、ジャンの奴が本気の鉄拳でアルセリアの頭を叩き、説教モードに入ったのは珍しい光景だった。
ちなみに彼女が人質になってしまった原因は、前日の買い物で一緒なのをジザンに見られていた事で、新しい乗組員だと勘違いされたからだ。
とはいえ、俺の船に近寄らなければ捕まらなかったはずだが、たまたま彼女が昨日の食事会の時に、人の船の冷蔵庫を勝手に覗いて見つけていたプリン(お詫びに渡したやつ)をねだりに俺の船にやって来たところを捕まったらしい。
こうして色々トラブルがあったものの、流星群は正午には無事に通り過ぎ、目的の惑星マオガタへと予定の17時に出発する事が出来た。
その惑星マオガタまでは、2日と22時間かかるわけだが、お客が乗っていないうえに、なんの外的トラブルも起こらず、その間に新しい料理やデザートのレシピなんかにも挑戦したりと、実に平和だった。
惑星マオガタに到着したのは午前5時だったのもあって、貨物を降ろし終わると6時を過ぎていたので、フードコートのサンライトイエローリップルで朝食を取ることにした。
店に着いて、いつものメニューを頼もうとしたとき、いつものメニューが無くなっているのに気がついた。
どういう事か店員に尋ねたところ、
「実は今月から試験的に、朝5時から朝11時までは、朝食メニューを提供することになったんです」
とのことだった。
なので、俺はサンドイッチのセットを頼み、アディルはエッグベネディクトのセットを注文した。
流石にプロが手をかけたものだけに、素晴らしく美味しかった。
もしこの店がこのサービスを本格的に開始したら、朝食の時の定番はこれになりそうな感じだ。
朝食が終了したところで、生鮮食料品店か開店するまでは時間があったので、さきに仕事を受けておくことにした。
貨物の重量や移動の日程が良いものをと一覧を眺めていると、不意に受付嬢が話しかけてきた。
「ライアット様。少しよろしいでしょうか?」
「なんですか?」
「実は、そちら様の船が貨客船とのことなので、お引き受けいただきたい案件がございまして」
「条件によります」
「依頼者はトーマス・ウェーデン様。株式会社エイッジミートの企画部の方です。貨物の中身は真空パック商品や缶詰や乾物などの自社製品及び依頼者本人。貨物の総重量は420t。目的地は惑星ドルブレンドンの衛星ロッセル。期限は今日から3日後の4月8日の午前8時までだそうです。報酬は貨物輸送料金にチャーター料金含め手取りで70万クレジットになります」
エイッジミートといえば、共和国内で有名な食肉メーカーだ。
生肉はもちろん、ハム・ソーセージ・ベーコンなどの加工食品や、スパムやコンビーフなどの缶詰、ジャーキーやドライソーセージなどの乾物、レトルトパウチのハンバーグやミートボールと、肉の食品の全てに手を出していると言っていい食肉メーカーで、同じ食肉メーカーのブラストハム株式会社とはライバル関係であると同時に、食肉の安定供給と安全な品質管理を推進する同志でもあるらしい。
俺も普段から色々な商品をかっているし、自家製のソーセージやベーコン、叉焼やローストビーフを作る時の塊肉は、品質も良いので大抵はエイッジミートの系列店で買うようにしてる。
依頼内容としては、重量も期限も報酬も文句はないので、今日の11時に積み込み及び乗船を開始で良いならと返答したところ、先方が了解したので喜んで引き受けることにした。
惑星マオガタから、次の目的地である惑星ドルブレンドンの衛星ロッセルまでは、超空間跳躍を使用し、時速1光年で航行して1日と8時間程で到着する、近場の星だ。
惑星ドルブレンドンは3の衛星をもつ巨大なガス惑星である。
そのうちの3つの衛星、サーデ・ルビンタス・ロッセルは、衛星に分類されながらも、惑星であるオルランゲアとほぼ同じ大きさだったりする。
その衛星のうちの一つであるサーデは、岩石と溶岩の大海で出来ている上に、硫化水素の大気のため、政府の許可をえた観光船と調査船以外は侵入禁止になっている。
宇宙空間からは、赤い溶岩の大海と黒い岩石の大地のせいで、赤と黒のコントラストが美しく輝いている。
ルビンタスは、全体が毒性植物と毒性菌類に覆われており、大気中に毒性胞子も浮遊しているため、研究目的以外では侵入禁止になっている。
しかしこの毒性植物の成分は、精製方法や使用目的によっては、病気の治療や新薬の材料につながるため、大いに期待もされている。
そして、海と適度な緑があり、生き物の生息が可能な衛星がロッセルである。
気候もよく、入植当時から自然環境に配慮した開発をしているため、大気や水質や土壌などの汚染はなく、快適な環境を保っている。
ちなみにロッセルに入植する前は、惑星ドルブレンドンを男神、3つの衛星、サーデ・ルビンタス・ロッセルを女神と比喩していたらしい。
生鮮食料品店での買い出しも終わらせ、積み込み開始の時間がくると、依頼人が時間通りにやってきた。
「始めまして。株式会社エイッジミート企画部のトーマス・ウェーデンと申します」
ウェーデン氏は名刺を取り出してこちらに差し出してきた。
「はじめまして。私が責任者のショウン・ライアット。こっちが乗組員でバイオロイドのアディルです」
俺は名刺を受け取り、アディルは丁寧にお辞儀をする。
依頼人のウェーデン氏はビステルト人・エバリー(イノシシ)種の人で、きちっとスーツを着込んだ恰幅のよい男性だった。
とはいえ中年ではなく若い方のようで、幅が広いのは種族的な特徴らしい。
サラリーマンであるためか爽やかな印象もあり、同じトーマスという名前の、どこかの変態執事とは天地の差だ。
「実はエイッジミートの食肉はよく買ってるんですよ」
「それはありがとうございます! 営業部の連中が喜びますよ!」
そんな話をしているうちに貨物の積み込みが終了し、いざ乗船というタイミングで、マオガタの貨物輸送業者組合から、俺とウェーデン氏の両方に連絡があった。
その内容は、
「お客様を1人便乗していただけないでしょうか?」
というものであった。
惑星のネタ探しに、それ系統の動画を見るんですが、
意外と使えないものが多い……
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