File199 惑星オルランゲアへの貨客輸送・惑星ルーニル・惑星ビーテンツ経由③ 人格者にも悪癖はある
「前回といい今回といい、我々帝国の愚か者共が又もや愚かな事をしてしまった。本当に申し訳ない」
軍人御嬢様は俺やセローデク商会一行に深々と頭を下げた。
帝国だと、貴族が平民に謝罪するなんてのは余程の事だと聞く。
それを考えると、この軍人御嬢様は相当に人格者ということになるのだろう。
「いえ。そちらがあと一瞬遅かったら殺されてしまっていたかもしれませんでしたから、感謝の言葉もありませんよ」
「生きた心地がしなかったよな~」
「本当にありがとうございました」
「さっきはマジで凄かったよね!」
セローデク商会一行も俺の言葉に追従し、彼女に感謝の言葉を述べていた。
そこで俺の腕輪型端末に、船から経由のオープン回線で通信が入った。
なんだろうと出てみると、
『こちらは銀河共和国防衛軍です。被害者の方は全員ご無事ですか?』
なんと救出されたのが3回目になる、ラインハルト・シュタインベルガー准将だった。
「全員無事です。助かりましたよ准将殿」
『あ!ライアットさんでしたか。こういうのもなんですが、よくお会いしますね』
「軍の人と頻繁に会うこと自体、どうかとは思うんですがね」
向こうもこちらを覚えてくれたらしく、軽く挨拶をしてくれた。
しかし軍人に世話になるという事は、それだけ海賊に出くわしているという事だから、あまり嬉しい事ではない。
出くわさないのが一番なんだからな。
そしてそこに第三者が割り込んできた。
『シュタインベルガー准将。要救助者は無事だろうか?』
『はい。確認しています。全員無事のようです』
割り込んできたのは、銀河帝国軍主力艦隊司令官であり、今回の国賊討伐艦隊の司令官でもある、シーモア・マルティス・ギルテンス少将閣下だった。
「被害者の船に侵入していた連中は全員捕まえましたよ兄上」
そして俺の腕輪型端末での会話に、軍人御嬢様が横から割り込んでくる。
すると少将閣下の目が鋭くなり、
『ギルテンス少佐。公私の区別をつけろと言ったはずだ』
と、部下である妹をたしなめた。
すると軍人御嬢様は姿勢を正して敬礼し、
「救出部隊は突入を実行し、要救助者の船舶に侵入していた海賊の一味を全員捕縛に成功。要救助者及び部隊に死者・負傷者は無しです」
部下として上司に報告をする。
『そうか。よくやってくれた。それで要救助者は……ん? 貴殿はショウン・ライアットじゃないか』
そして責任者として、被害者に声をかけようとした少将閣下が俺に気がつくと、
『前回同様に迷惑をかけたな。しかも今回は直接だ。同じ帝国貴族として恥ずかしい限りだ。申し訳ない』
妹同様に頭を下げてきた。
『現在両国の制圧部隊が海賊船内部を制圧中。制圧後は、乗員は海賊船内部にて監禁。船は武装解除してから、惑星ビーテンツまで曳航する。制圧まではもう少し時間がかかるだろう。できればその間にシュタインベルガー准将と今後の動向を相談しておきたいのだが……』
そして現在の状況を説明し始めた時、俺はなんとなく嫌な予感がした。
『キャプテン・ライアット。出来れば場所を提供してもらいたい。そういえばそろそろ昼食時だったな…』
少将閣下は、冷徹そうな顔をしながら、物凄く白々しいセリフを言ってくれた。
「…では、前回同様に首謀者は引き渡して欲しいと」
「ああ。皇帝陛下の主導で恒星への投下という見せしめにする必要があるのでね」
結局のところ、命の恩人・貨物の恩人でもあるため断り切れず、会談の場所と昼食を提供することになってしまった。
勿論、依頼主である課長さんことリチャード・ハイマスさんに許可はもらった。
しかしながら、部下が命がけで突入してるのに暢気なものだと思ったが、両軍の突入部隊は優秀らしく、会談前に制圧は完了したらしい。
ちなみにセローデク商会一行に出す予定だった昼食のメニューは、パン・ド・カンパーニュ、自己流コブサラダ、シーフードフライ(鱈・鯵・海老・牡蠣・帆立・烏賊)、ウスターソース・自家製タルタルソース・自家製チーズソース、コーンポタージュだ。
昼食を簡単に量が増やせるメニューにしておいて助かったというかなんというか。
少将閣下お気に入りのコブサラダがあったのもよかった。
まあなかったとしても文句は……言わないよな?
そして当然、彼らの立場を考えると護衛も付いてくる訳だが、
「いやあ、こっそり出ていこうとする閣下についてきたら、なかなかに旨いものが食えるとは思えませんでしたな」
帝国側から護衛?として一緒にやってきたのは、恰幅の良いガッシリとした体格に、口周りに髭を蓄えた中年の男性で、エイブラムス・シュミット・カールソン大佐というらしい。
どうやら少将閣下は、以前に軍人御嬢様と一緒に俺の船に来ていた時と同様に1人でくるつもりだったらしいが、今回はこのおじさんに見つかり、口止めも兼ねて仕方なく一緒にやってきたらしい。
ちなみに少将閣下と大佐殿は『フライにはビールがないと』と、職務中であろうに堂々とビールを要求してきた。
シュタインベルガー准将とその護衛の方はビールを要求しなかったが、ちょっとうらやましそうにはしていたので出そうとすると、『任務中ですので』と断った。
まあそのあたりはお国柄の違いというやつだろう。
そのシュタインベルガー准将も例に漏れず、
「料理がお得意なのは以前に拝見しましたが、これならレストランを開けば繁盛は間違いないですよ!」
と、大半の人がいってくるセリフを言ってくれた。
「これはどんなことをしてでもスカウトして、うちの艦に乗せるべきでしょうか?」
なんだか物騒な事をいってるのは、俺と同じシュメール人でシュタインベルガー准将の秘書兼護衛のマリア・ハルエス少尉だ。
俺とは違って基本性別は女性で、長い黒髪をポニーテールにした、どちらかというと格好いい人物で、ウィルティア・ルナーシュ評議員を乗せていた時の事件で、出迎えに出てきた人だ。
その彼女は、俺の自己流コブサラダを何回もおかわりしている。
「このタルタルソースとチーズのソースを、うちの艦か屋敷で食べられたら言うことなしなのになあ……あむっ♪」
そしてなぜかクロネーラ・エーリカ・ギルテンス少佐も居た。
アジフライにタルタル、エビフライにチーズのソースをこれでもかと絡めて頬張り、口の周りにソースをつけながら幸せそうにしていた。
そして俺は、お礼を言うべくシュタインベルガー准将に声をかけた。
「そういえば准将殿。以前にこの船の情報をいただき、ありがとうございました」
「いえ。別に便宜を図ったわけでもありませんからね」
この船が手に入ったのは、シュタインベルガー准将に、軍の型落ちの情報を貰ったからだ。
そのお陰で惑星デューモアからの避難引っ越しに参加でき、そこでアディルに出会わせてくれたのだから、感謝してもしきれないぐらいだ。
「そういえば、前の船より広くて豪華になってるわね」
ルニールの時の軍人御嬢様は、食べた後に客室で寝るというルーティンをしていたのを覚えている。
ちなみに一言も話していないが、セローデク商会一行はこの5人と同じテーブルについていたりする。
食事の開始前に、セローデク商会一行は、少将閣下と准将殿、そして軍人御嬢様に、命と貨物を助けてもらった感謝の意を伝えた。
すると少将閣下から『本来のこの船の客は貴殿方なのだから、是非とも一緒に』という提案があり、本来なら会談が終わるまで客室にこもっておく案がお蔵入りになってしまった。
民間人を同席させているからには、機密的な話はしていないのだろう。
会談の間、彼らは黙々と食事をし、少しでも早く終了するのを心待ちにしていた。
長くなりそうので切りました。
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