File197 惑星オルランゲアへの貨客輸送・惑星ルーニル・惑星ビーテンツ経由① 不測の事態
お客であるケビン達が乗り込んだのは、銀河標準時で正午すこし手前だったこともあったので、超空間を出て自動操縦に切り替えると、すぐに昼食の準備に入った。
朝のうちに仕込みは完了しているので、あとは仕上げをすれば完成だ。
そんな昼食メニューは、マルゲリータ・チーズ入りポークカツレツ・生野菜のサラダ・コーンスープの4つだ。
「簡単なもので申し訳ありませんが……」
「いやいや!十分凄いですよこれ!」
「随分手際がいいんですね」
「いやあ、実に美味しそうですな」
「すみません。炭酸貰えますか?ピザには欠かせないんで」
「その~酒があれば……」
全員が色々と感想やら要望やらを言ってくるので、希望の物を出すようにしたわけだが、
「お前本当無駄に料理がうまいよな。流石中学生で料理上手ママと言われてただけはあるよな」
ケビンだけはサラダだけにしてやった。
まあ後から食わせてはやったが。
昼食が終了すると、正直退屈な時間になる。
そのために暇潰しのアイテムは色々と取り揃えてはいる。
ケビンとロガーさんとクリエスさんは、アディルを巻き込んでのゲーム大会を始めていた。
ジャン・ゴーズルさんはランニングマシンで走り、パンチングボールを叩きまくり、腹筋・腕立て伏せなどのトレーニングをやっていた。
今後はベンチプレスなんかも設置した方がいいのか?
サメラ・ブレビアさんは、キッチンに果実酒があったのをみつけると、代金は払うからと全ての果実酒をテーブルに並べて試飲した後、葡萄とマスカットと苺の瓶を並べて、板状端末でサイト巡りをしているようだ。
課長さんことリチャード・ハイマスさんは汎用端末で読書を楽しんでいた。
普段は時間がないためまとまって読書ができるのはありがたいらしい。
それからは何のトラブルも起こらず、第一の寄港地である惑星ルーニルには朝5時に到着し、燃料補給と点検に1時間ほど休憩し、第二の寄港地である惑星ビーテンツに向かった。
朝食が終わると、ますます持って暇をもて余す事になる。
俺とアディルにとっては家だからそんなことはないが、お客であるケビン達はかなり退屈だろう。
長期クルージングする豪華客船に、様々な施設やイベントが用意されているのは納得な理由だ。
とは言え自分も時間があるのは間違いないので、時間のかかる料理を作ってみることにした。
時間のかかる料理であるビーフシチューの仕込みがそれなりに進んだ時に、何者かから通信が入った。
コンロの火を止めてから、操縦室に入って通信をうけると、画面には金髪碧眼で20代後半ぐらいの女が現れ、
『すぐに船を停止させなさい!女伯爵であるこのルエルニア・レーリエッツに、積み荷を献上するという名誉を、下民であるお前達に与えてあげるわ!』
明らかに意味不明の戯言を吐き出した。
おそらくこの女が帝国貴族の海賊で、共和国の船に擬態して潜入していたのだろう。
しかし、共和国防衛軍と帝国の派遣艦隊が共同で検問をしている中で、どうやって抜け出して来たのだろう?
もしかして軍か評議員に手引きした奴がいるのか?
だとしたらめちゃくちゃゆゆしき事態ってやつだ!
そして女はさらに続けた。
『献上品は宝飾品やブランドの服飾品がいいわね。服とか靴とかバッグとかコートとか。まあ超高級な洋服生地でもいいけど。後はまあ、私に相応しい高級食材なら許してあげてもいいわ』
略奪をする事が前提なのだから、襲う船の積み荷ぐらい確認するものなんじゃないのか普通は?
なんでこの女は注文するみたいになってるんだ?
「この船は惑星ビーテンツ行きで、積み荷は惑星フオホサの民芸品や特産の食品だ。そっちが希望している物は一切積み込んでないぞ!」
『そんな解りやすい嘘で献上を逃れられると思っていの?まあちょっとだけ時間をあげるわ。良く考えなさい』
目当ての物がなければ、ワンチャン見逃してくれるかもと思ったが、そう上手くはいかなかった。
ちなみにこの会話は、船内はもちろんGCPOにも通報して聞いてもらっている。
後は救援が来るまで時間稼ぎをするだけだが、こちらが圧倒的に不利なのは間違いない。
俺はマイクを切って、課長のハイマスさんに操縦室に来てもらい、今後の相談をした。
「このままだと撃ち落とされます。GCPOには連絡してあるので時間稼ぎするためには停船するしかないんですが…」
「しかたありません。少しでも生き残る方に賭けましょう」
課長のハイマスさんに許可をもらったので、マイクのスイッチを入れる。
「今から30秒後に超空間からの脱出を実行する」
『観念したみたいね。逃げたら撃ち落とすわよ』
「了解した」
そうして超空間から脱出すると、その場に停止した。
相手がこちらに接触する前に、全員をラウンジに集めて改めて説明をする。
「まず必要なのは、決してその場を動かない事。向こうが質問するまで絶対にしゃべらない事だ。余計なおしゃべりは、何が相手の逆鱗に触れるか解らないからな。それだけでも生存率は高い」
それだけ説明したところで、相手からの連絡通路の指示がきた。
「最悪お客さん達だけでも返してもらえるように、交渉はしてみますが、駄目だった時には申し訳ない」
そう言ったと同時に、帝国の物らしい戦闘服を着て、アサルトライフルを持った連中が雪崩れ込んできた。
その中で唯一、執事服を着たリーダーらしい老人が口を開いた。
「私は銀河帝国貴族レーリエッツ伯爵家家宰のトーマス・アルハンデルと申します。この度は迅速な停船という英断に感謝を。こちらとしても無駄な死人がでるのは後始末が面倒で御座いますので」
この執事のじいさん、柔和な顔でとんでもなく恐ろしいことを口走ってくれる。
「船長はあなた様でお間違いありませんな?」
「ああ、そうだが」
そして迷うことなく俺に顔を向けると、
「積み荷の一覧表をお渡しいただきたい」
積み荷の一覧表を要求してきた。
これは予想していたので、すぐに渡した。
ここでもたもたするのは、相手をイラつかせる原因になるからだ。
「迅速な仕事は信用の第1歩ですからな。良いことです」
どうやらこの対応は正解だったらしい。
そうして執事は積み荷の一覧表をみると、
「本当に惑星フオホサの民芸品と地元特産の食品だけのようですね」
執事はちょっと驚いた様子でこっちを見てきた。
「我々セローデク商会が協賛している物産展に商品を搬入する商品の輸送中ですので…」
自分達の商品の話だと理解した課長さんが、俺に代わって説明する。
「なるほど。先ほどの話は嘘ではなかったのですな」
課長さんの話を聞き、執事は困ったような表情を浮かべる。
「うーむ。だとするとどうお嬢様に伝えたものか。我が家のお嬢様は解りやすいアイテムを好まれておりましてね。個人的にそういったものは……」
「この船にあると思いますかね?」
「ございませんでしょうな」
どうやらお嬢様の我が儘には、この執事の爺さんにも頭を悩ませているらしい。
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