File02 惑星ソアクルへの乗客輸送② タチの悪いカスは面倒くさい
本日2回目の投稿です。
主人公以外の視点が多いです。
6/6 サブタイトルを改編しました
視点変換 ◇ロベリア・レナル◇
今日は本当についてない。
出発30分前にいきなりストライキだなんて、スターフライト社の社員は一体何を考えているのでしょうか?
おまけにチケット代の払い戻しもしないなんて!
そのストライキもいつ終わるかわからないから、ビジネスで来ている人間にとっては最悪だわ!
私と社長はどうしても明日までに惑星ソアクルに到着しなければならない。
だからこの貨客船がチャーターできたのは幸いでした。
パイロットも柄の悪い人物でなかったのもポイントです。
まあ、彼がシュメール人だったのと、『月のもの』で女性になった姿には驚きました。
あれは種族的な差でしょうか?
それとも食べ物でしょうか?
案外このコーヒーとサンドイッチとクッキーにヒミツが…あるわけはありませんよね。
それにしても、美人で巨乳で料理上手って、嫌がらせですか?自慢ですか?恋人の居ない私への宣戦布告ですか?
彼が年中無休で女の子だったら間違いなく敵です。
にしてもこのクッキー美味しいですね。
どこのメーカーのか聞いておかないと。
視点返還 ◇ショウン・ライアット◇
昼飯も終わり、お客の食器の片付けも終わって、航海は順調にすすんでいた。
女性客がクッキーのメーカーを聞いてきたので、自家製だと答えたら何故か激怒された。
男性客がなだめてくれ、こっちには責任がないから気にしないでくれと言われたが、激怒された理由はまったく不明だ。
そんなこともありつつ、航海は道程の半分に達していた。
超空間からの退出だ。
マイクのスイッチを入れると、お客に報告する。
『お客さん。まもなく超空間から退出します。万が一を考えて座っといてくださいね』
俺は操縦桿を握り、自動航行をカットする。
「超空間からの退出開始。秒読み。5・4・3・2・1!」
その瞬間、歪んだような空間から、通常の宇宙空間に代わり、視界には、惑星ソアクルが浮かんでいた。
「超空間退出完了。通常航行に移行する」
惑星が近いので、そのまま操縦してソアクルの宇宙港に向かうのが通例だ。
そして、事故が多いのがこういう時で、道程の半分と言ったのは、油断をしないようにということだ。
そして惑星ソアクルの宇宙港にたどり着いた。
宇宙港とは、正確には宇宙船停泊用港湾型コロニーと言う。
もちろん船で惑星上に降りることもできるが、大気圏で燃料を食うので、余程の理由がない限り宇宙港を利用するのが普通だ。
そして通信機のスイッチをいれ、
「管制塔。こちら登録ナンバーSEC201103。貨客船『ホワイトカーゴ』。入港許可を求む」
ソアクルの管制塔に通信をいれる。
が、返答がない。
「繰り返す。管制塔。こちら登録ナンバーSEC201103。貨客船『ホワイトカーゴ』。入港許可を求む」
すると、モニターの全面に靴の底が写し出された。
このソアクルの管制塔で、こんなマネをするやつを、俺は一人しか知らない。
視点変換 ◇フッティ・オルグド・ポールダル◇
俺はフッティ・オルグド・ポールダル。
惑星ソアクルの管制塔で管制官をやっている。
俺の横で制御卓に足を乗せているのは、同僚のテバル・ウィグルス。
とにかく女好きで、仕事にムラがありすぎる。
まさに今、ムラのある仕事の最中だ。
「こちら管制塔。もろもろの事情で後3時間は入港・停泊はできない。その場で待機せよ」
こいつは、自分より女にモテそうな奴を見ると、とにかく嫌がらせをする。
さっき通信してきたホワイトカーゴの持ち主・貨物輸送業者のショウン・ライアットは、確かにモテそうな外見をしている。
そのためこいつの標的になってしまったわけだ。
『なにかしら止められる原因はみあたらないが?』
ああ、向こうは完全にイラついてるな。
それに、普段とはちがうようだが、こいつは気がついてない。
「五月蝿いんだよ白モヤシ!管制官の指示に従い…やが…れ…」
足を下ろしてようやく気が付いたらしい。
慌て身嗜みを整えだしたので、今のうちに空いている停泊地を確保しておく事にする。
視点変換 ◇テバル・ウィグルス◇
どう言うことだ?
なんであの白モヤシの船にこんな美人が乗ってんだ?
白モヤシ。一瞬だけ誉めてやる!
よく、この俺好みの女をやとった!
明日からはこの俺の人生のパートナーだがな!
俺は直ぐに身なりを整え、最高のスマイルを浮かべる。
「はじめまして美しいお嬢さん。俺はテバル・ウィグルス。この惑星ソアクルで管制官を勤めているものです。悪いことは言わない、今すぐその白モヤシの船を降りて、この俺と共に人生を歩もう!」
『誰がするかクソボケ!さっさと入港許可と利用可能な停泊地を教えろ!』
なぜだ?どうして初対面の女に暴言を吐かれるんだ?
俺の顔は相当にイケてるはずだ!
そんなことを考えていると、同僚のフッティが俺を押し退けた。
「『ホワイトカーゴ』入港を許可する。37番の停泊地が空いてる。そっちへ向かってくれ」
『フッティか。助かったよ、ありがとう』
「悪いな。今度おごるよ」
『期待しておくよ』
フッティのやつは、彼女と楽しそうに話すと、通信をきってしまった。
「てめえ!よくも勝手に切りやがったな!この俺のパートナーになる彼女とのスウィーツタイムをぶちきりやがったな!それに、何で彼女と面識があるんだよ?!」
「安心しろ。向こうはお前のことが嫌いだ」
「俺は初対面だぞ!なんで嫌われるんだ?!」
するとフッティは貨物輸送業者の登録一覧を見せてきた。
「これはお前が嫌がらせをしているショウン・ライアットの資料だ。よくみてろ」
リストにはあの白モヤシの立体映像が映っている。
だが、フッティが立体映像をさわると、さっきの美人に変わった。
「え?」
「ショウン・ライアットはシュメール人。つまり、お前が白モヤシと呼称する男と、パートナーにしたい美人とは同一人物だ」
信じられなかった。
でもそう言えば髪と目の色がおなじだった。
彼女以外モニターには居なかった。
「ちくしょおぉぉぉぉぉぉ!」
俺は魂の叫びをあげた。
視点変換 ◇フッティ・オルグド・ポールダル◇
この馬鹿がいきなり上げた大声が、管制塔内に響き渡った。
「なに大声あげてるんだ馬鹿」
直ぐに馬鹿の口を塞ぐが、周りから睨まれてしまった。
「お前は知ってたんだよな?」
「ショウン・ライアットが、シュメール人だってことをか?」
「そうだ」
馬鹿は真剣な顔でそう訪ねてくる。
本来その質問をすること自体が、管制官として失格だ。
「俺はお前と違ってちゃんと登録一覧を閲覧したからな」
「ズルいぞお前!なんで教えてくれなかったんだよ!」
「普通は知っておくもんだ」
はっきりいって、どうしてこいつが管制官をやっているのかが不思議でならない。
宇宙港に就職できたのは、こいつの叔父さんが宇宙港の偉いさんだからだろうが、よりによって繊細な対応が必要な管制官はないだろう。
まあ多分、美人の通信士に会えるとかの理由だろうが。
「ようし!慰謝料をもらいにいくか!」
「慰謝料?」
またアホなことをいいだした。
「誰になんのための慰謝料をもらおうってんだ?」
「白モヤシにきまってる!あいつが今まであんな美人になれることを隠していたことで、荒んでしまった俺の心への慰謝料だ!」
「いくら請求する気だ?」
アホな要求だと理解しているが、好奇心から聞いてみたが、
「俺の部屋での専属メイドに決まってんだろ!」
聞いたことを後悔する結果だった。
「つーわけで俺は取り立てにいってくる」
「ほう。それはつまり仕事をサボるということだな?」
俺の後ろから聞こえた声は、俺達の上司である管制塔責任者エルゼリア・コールマン部長の声だった。
「ぶ…部長…」
「テバル・ウィグルス。お前に対する苦情の量から考えて、査問委員会にかけられるのは時間の問題だが、そこに無断欠勤を加えたいらしいな?」
「いえ…その…」
コールマン部長は、とても40代には見えない若さと美貌をたもっているやり手のキャリアウーマンだ。
聞いた話では、女子大生の娘がいて姉妹に間違われるという話だ。
この馬鹿の叔父さんとも知り合いらしく、こいつが問題をおこし始めてからここの責任者になった。
多分他の人物だと、叔父さんに遠慮してしまうため、この馬鹿の監視として異動してきたのだろう。
他人にも厳しいが、それ以上に自分にも厳しく、なおかつ面倒見も良いため、部所を問わず慕われていて、ファンクラブがあるとも言われている。
かくいう俺も彼女のファンだ。
「かけられたくないならさっさと仕事をしろ!」
「「はいっ!」」
俺も思わず返事をしてしまった。
何より彼女を有名にしているのは、真面目に仕事をしない者に対して容赦ない制裁を加える『断罪者』というあだ名なのだから。
視点返還 ◇ショウン・ライアット◇
フッティのお陰でスムーズに37番の停泊地に停泊することができた。
あの馬鹿は、俺がシュメール人なのを、やっぱり知らなかったらしい。
まあ、教える気もなかったけどな。
ともかく船が到着すれば、俺の仕事は終わりだ。
「急な依頼を受けてくれて助かったよ。オムレツのサンドイッチはなかなかだったね」
「いえ、お粗末で申し訳ありません。それに、オルランゲアで待っていたほうが、余計な出費がかさまなかったと思いますよ」
宇宙港備え付けの外部カメラモニターを指差すと、スターフライト社の高速定期便が到着する映像が写し出されていた。
どうやらストライキが収まり、飛ばしてきたらしい。
「確かにそうかもしれないが、ストライキが長期化する可能性もあったからね。リスクは回避するべきだろう?」
男性客・カルザン氏は爽やかな笑みを浮かべていた。
「あの…先程は大変失礼致しました」
それとは対照的に、恥ずかしそうに頭を下げているのは女性客のレナル女史だ。
間違いなくさっきの激怒のことだろう。
「いえ。何か失礼があったみたいで…」
「それは絶対にありませんから!」
「は…はい…」
訳のわからない迫力で否定してきたので、評判が落ちることはないだろう。
「さて、早いうちに降下シャトルに乗り込むとしようか。では失礼するよ」
「御乗船有り難うございました」
一応愛想笑いをうかべてみる。
ちなみに依頼終了の書類はすでにもらっているので、このまま貨物配達受付にいけば報酬がもらえるはずだ。
ここ惑星ソアクルの貨物配達受付はかなりデカイ。
俺が拠点にしている惑星オルランゲアのような半分都会半分田舎の所と違い、人口も物流も多い完全な都会だから当たり前だ。
カウンターも受注と支払いが一緒くたのオルランゲアと違い、受注と支払い、さらには貨物の種類で細かく窓口が分けられている。
なので、今回乗客を乗せた場合の支払い窓口に向かう。
「依頼終了です。手続きをお願いします」
「あらライアットさん。今日は女性なんですね」
依頼終了の書類を渡した相手は受付嬢のロナ。
ササラと違い、真面目に対応してくれる眼鏡娘だ。
「たまたま『月のもの』が来てしまって」
「それは大変ですね」
会話をしながらも、手はしっかりと動いて、手続きを終了させていく。
「腕輪型端末を検査機にお願いしますね」
指示通り、腕輪型端末を検査機にかざすと、ピピッという確認用の電子音が鳴る。
「本人と確認。報酬は全額現金でよろしいですか?」
「半分は情報で」
「畏まりました」
するとまた電子音がなり、
「報酬の30万クレジット。半分は情報で半分は現金でのお支払です。ご確認下さい」
ロナから15万クレジットの情報と、15万クレジットの現金をうけとった。
これで、依頼は晴れて終了だ。
今後は色々な異星人を出したいと思っていますが、なかなか難しいですね。
やっぱりガス状生命体とか鉱物生命体とかが定番なんでしょうか。
ご意見ご感想お待ちしています
ほんのり修正しました