File18 惑星オルランゲアのフードコート① 貨物輸送業者仲間
お待たせいたしました。
1/23 色々加筆修正しました
5/19 貨客船の積載量を変更しました。
新しい船を手に入れてからはや2週間。
仕事は実に順調だ。
船名はホワイトカーゴからホワイトカーゴⅡに変更したが、仕事の内容自体は変わらない。
そのお陰で、船を買う際になくなってしまった貯金分が確実に溜まってきている。
ありがたいこととしては、前の船より大きいため、貨物室が広くなり、240tという以前の倍の荷物が積めるようになったことだ。
船が大きくなった分、客室部分もかなり広くなった上に、客用の寝室が2部屋あり、洗面所にトイレにキッチンという以前と同じ設備があり、シャワー室ではなくバスルームがついている。
さらには、少し狭いが2階があり、そこは俺の私室にした。
トラブルにも巻き込まれず、面倒な客もこず、実に順調に日々を過ごすことが出来ていた。
そうして今も、拠点にしている惑星オルランゲアの
銀河貨物輸送業者組合の貨物配達受付にやって来た。
「チェックをたのむ」
「やあやあ、お帰りスネイル。今回は厄介事は無かったみたいだね」
しかし、オルランゲアの貨物配達受付には、自称永遠の17歳こと、ササラ・エスンヴェルダがいる。
あいも変わらず、人の事をスネイルと呼んでくる。
「いい加減それはやめてくれないか?訴えてもいいレベルだぞ」
「えーいいじゃない。コードネームみたいで」
「差別用語だよ。それよりチェックをたのむ」
「は~い」
とはいえ毎度のことではあるし、さして気にすることなく、仕事の報酬を受け取るべく、腕輪型端末を検査機に近づける。
「はい。紡績会社からの繊維の輸送依頼は完了しました。報酬はいつもどおりでよろしいですか?」
「ああ」
「では此方が報酬になります」
いつものことなので、半分は現金半分は情報で渡してくれた。
その時、彼女のネームプレートに見慣れない文字があった。
「あんたいつの間に主任になったんだ?」
「先週かな?前任者が懲戒免職になったんだよ♪」
彼女はにっこりしながら、なかなかの豪速球を投げ込んできた。
「前任者って、常に睨み付けてきた仮面女か?」
前任者の主任は、貨物輸送業者に対して常に睨み付け、応対の時は常に不機嫌な表情と言う、なんで主任なんかやっているんだと言いたくなる女だった。
情報屋に聞いた話だと、あの仮面女は、もともと配達依頼受付の受付をしていて、昇進の話をありがたくいただいたところ、配達依頼受付ではなく、貨物配達受付の方だったことに激怒したらしい。
なんでも、金持ちのイケメンには親切に、それ以外はぞんざいに対応していたため、評判が良くなかったのだが、どこぞのお偉いさんの関係者だったために、クビに出来なかったらしい。
そのために、イケメンはともかく、金持ちのいない貨物配達受付に昇進と偽って飛ばされて来たらしい。
「使い込みがばれてね。 まあお金は全額返金されたけど」
さすがに法に触れてしまうと、クビにせざるをえないらしい。
が、それ以上に気になることがあった。
普通、主任と言うのは、人が少ないならともかく、人数の多いオルランゲアの銀河貨物輸送業者組合で主任になるためには、それなりの経験が必要だ。
「でもあんたが主任ってことはあんたが貨物配達受付で一番の古株…」
「弱冠17歳の史上最年少主任になにを失礼なことをいってるのかしら?」
俺の呟きをかき消すように、ササラが可愛くドスをかましてきた。
「『永遠の』だろうが…。とにかくおめでとう。こんど差し入れでももってくるよ」
あんまり突っ込むと後が怖いので、ご機嫌をとっておくことにする。
「じゃあプランスメリーのケーキと、スネイルお手製のクッキーをお願いね♪」
差し入れの一言で機嫌が治ったのはいいが、不穏な発言があった。
プランスメリーと言うのは、オルランゲアで有名なケーキショップだ。
そこのケーキはわかるが、俺のクッキーとはどういうことだ?
「俺のクッキーなんかもらって嬉しいのか?」
俺としては、お客のお茶うけになればと、配達中の時間潰しに作成したものだ。
しかし、ササラは物凄く真面目な表情をし、衝撃的な言葉を吐いてくれた。
「いけませんねショウン・ライアット。あなたの自家製クッキーは、私達受付嬢の間では末端価格が凄いことになっているのです。その自覚をもってください」
「俺のクッキーは麻薬かなんかか!」
「それくらい美味しいんだってことだよ♪」
じいさんと仕事をしていた頃から、時折受付に差し入れをしたりしている。
そういうことが、人間関係を円滑にする秘訣だと習ったので、今でも時折差し入れをしていたりする。
だがまあ、不味いと言われるよりはいいので、こんど作って来ることにしよう。
報酬を受け取ったあと、俺はいつものフードコートに向かった。
これは、俺にとっては験担ぎだ。
験を担ぐのは、惑星表面から出られなかったころからの、船乗りの伝統だとじいさんに教えてもらったものだ。
そうして、いつものミックスグリルのプレートを手にテーブルに向かうと、1つのテーブルから声をかけられた。
「ようショウン!こっちだ!」
俺に声をかけてきたのはトニーだった。
トニーの弟子のサムはもちろんだが、それ以外にも見知った顔が座っていた。
「久しぶりだなショウン!スタナーで射たれて昏睡してたらしいが、もう大丈夫なのか?」
「退院したのは1ヶ月半前だよ」
古典の物語にでてくるドワーフのような髭を生やしたこのおっさんはガルダイト・ホーゼン。
『ホーゼン・トラックス』という船団を組んでいて、周りからは信用できる律儀な男としてしられている。
が、このおっさんには有名なあだ名がいくつもある。
それは、
「おいショウン!せっかく先輩が心配してやったんだ。お礼に女になって乳くらい揉ませろ!」
『セクハラ大王』とか『変態スケベ親父』とか『変態ヒゲジジイ』といったものである。
組合から除名されないのは、過去の功績と、面倒見のよい人柄と、お客には絶対にやらないのと、言っても訴えないくらい仲の良い連中にしか言わないからだ。
ちなみに俺のじいさんとも知り合いで、初めて会った15の時に、女の時の俺の胸を触ろうとして、じいさんにスパナで頭を殴られていたのを覚えている。
ちなみに、じいさんが亡くなった時に色々と世話を焼いてくれたのもこのおっさんだ。
「おっさん。いい加減にしないと本気で訴えられるぞ?俺達以外から」
すると、俺の横にいたやつも、おっさんに文句を言った。
「まったくだ。お前のせいで運び屋の男性全員が下品にみられてしまう。真面目で誠実な者の方が多いというのに」
「その時はその時だ。それより、なんでお前さんはいつもムッツリしてるんだ?せっかく美人なのによ」
「うるさい。斬られたいのか?」
俺の左横に座っていて、物騒な事を言ったこいつはキャロライン・ウィルソンという。
俺と同じく1人で仕事をしているトランスポーターだ。
美人で、長い金髪をポニーテールにしている。
口調は男みたいだが、ちゃんと女だ。
何より、立派な女性としての主張がそびえたっている。
母親が旧晋蓬皇国領の出身で、その影響から『剣術』を習い、今では『姫剣士』などと呼ばれていて、ビームセイバーを常に腰にぶら下げている。
だがおっさんがいった通り、いつもなにか考え込んでいるような顔をしているのは確かだ。
そのとき、俺とキャロライン=キャシーの後ろに、不意に影が指した。
ようやく明かされる、受付嬢ササラのフルネーム
今回は用語説明はなし(´・ω・`)
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