File172 惑星ビーテンツでの突発事故① 緊急時ほど冷静な行動が大切
色々あった墓参りの翌日翌々日は、アディルが行きたいといった観光地や繁華街、有名な店なんかを周れるだけ周った。
話にでたルトビーカー遺跡やタレクテカ大聖堂。景勝地として有名なウリンゼル湖なんかにもむかった。
繁華街の方は、ケーキショップの『プランスメリー』や、オルランゲアでも最大面積を誇る『アージルト百貨店』なんかに足を運んだりした。
俺としてはさした魅力はない見慣れた感じなのだが、アディルにとっては非常に楽しいものだったようだ。
そして船のオーバーホールが終了する日になり、デニスのところに船を受取りにいくと、以前の見合い話の直後に知り合った、リーナ・プレカ・ナルマルという、デニスの高校時代の後輩が、同じ整備士の制服であるツナギと帽子を身につけていた。
なんでも彼女は、大学卒業は確定し、オルランゲア宇宙港の整備部への就職も決定したので、3月の卒業式までは、バイト扱いで昨日から仕事をしているらしい。
そのせいかデニスは終始ご機嫌だった。
ちなみに今回のオーバーホール代は、その見合い話の時の約束で無料にしてもらったが、さすがに後4回も払わせるのは忍びないので、次からはきちんと払うことにしよう。
そうして船を受け取り、停泊地に停泊させたあと、レンタルの冷蔵・冷凍コンテナに預けていた食材・食品全てを積み直した。
それから、不足している様々なものの買い出しを済ませた後、貨物配達受付に向かった。
「やあショウン。今日からお仕事再開かな♪」
すると何故か、ササラが嫌にご機嫌だった。
「なんか…あったのか?」
「何にもないわよ♪」
間違いなく、プリンを奪い取った奴に、なんらかの報復をしたんだろう。
彼女以外の受付嬢達も、なんとなく機嫌が良さそうだった。
取り敢えず、何があったか聞くのは怖いので、追求はせずに依頼の一覧を見せてもらう事にした。
その依頼の中で条件がよかったのが、ビーテンツ行きの依頼だったので、積載量ギリギリまで乗せれる依頼をうけた。
その後は、昼食を食べた後に貨物を受け取り、午後3時ごろには出発することができた。
惑星ビーテンツまでは約40時間。
航海中にはなにもなく、出発日から翌々日の午前7時には、惑星ビーテンツに到着した。
『惑星ビーテンツへようこそ!宇宙港内部の停泊地への案内はしばらくお待ちください』
以前完全閉鎖されていた時の管制官の女の子がにこやかに出迎えてくれ、少しだけ待機した後に、停泊地に入ることができた。
船が停泊できれば直ぐ様貨物を引き渡し、受付で報酬を受け取った。
急ぐ必要はないので一晩停泊することに決め、フードコートで昼からの予定を決めようと、飲み物を買ってテーブルに座った瞬間に、周囲が暗闇に包まれ、身体が浮遊した感覚があった。
「うわっ!マスター!大丈夫ですか!?」
「落ち着けアディル!下手に動くな!」
いきなりの事態に驚いたアディルが声を上げ、席を立って俺の方に移動しようとしているなと思ったので、思わず動かないように指示をだした。
この感覚は何度も体験した記憶がある。いわゆる無重力状態だ。
おそらく宇宙港側が、停電と同時に重力発生装置を停止させたのだろう。
周囲からは、停電の恐怖や物にぶつかった音と悲鳴が響いていた。
そして体感で30秒ほど経過した時に明かりが点灯した。が、無重力状態はそのままだった。
宇宙港内の施設は無重力対策をしているため、接地している物が浮いたりはしていないが、人間や固定していない物が周囲にふわふわと浮いていた。
もちろんさっき注文した飲み物も。
普段は重力発生装置が起動していることもあって、無重力に慌てている人達も多いようだ。
子供達だけは無重力にはしゃいでいたりするが。
「どうして重力発生装置を停止させたんでしょう?」
「さあな。なにかあったのは間違いなさそうだが」
すると、宇宙港内に音声だけの放送が響き渡った。
『当ビーテンツ宇宙港を御利用のお客様及び全職員、全住民の皆様に申し上げます。先程、銀河標準時午前10時28分に、宇宙港内にある主動力炉が原因不明の事態により停止いたしました。爆発等の危険はありません。現在は復旧に向けて修理作業を開始しておりますが、復旧までの時間が予測できません。
現在は予備電源によって、生命維持・保安機能・照明・船舶の燃料補給・軌道エレベーターの稼働・船舶用通信回線・現在使用中のこの放送という、生命維持と宇宙港からの脱出に必要な最低限の施設だけを稼働させております。
その為、予備電源の残量がなくなる24時間が経過するまでに、お客様及び全職員、全住民の皆様の速やかな脱出をお願いいたします。なお脱出に際し、定期便・貨物船・個人の船舶をお持ちのかたは、お客様脱出のサポートをできる限りのお願いいたします。繰り返します。当ビーテンツ宇宙港を御利用のお客様…』
その放送内容に周囲の人達は悲鳴を上げ、慌てて脱出のための行動をはじめた。
10年以上前から緊急時の訓練をしていた、今は亡き惑星デューモアの人達と違い、かなりのパニック状態になっている。
このままだと、停泊地に侵入され、船を奪われかねない。
なので、慌てて停泊地に向かった。
無重力なのもあり、移動は非常に楽だが、途中で慣れていない人にぶつかりそうになったり、どこからか物が飛んできたりとかなり危なかった。
普段は関係者しかいない貨物用ターミナルの通路に、貨物船に乗せてもらおうとする人達がひしめいていた。
きちんと施錠をしていたのもあって、俺の船のある停泊地の前には人の姿はなかった。
しかし俺達が到着し、鍵を開けてなかに入ろうとすると、すぐに囲まれてしまった。
「頼む!船に乗せてくれ!」
「お願い!子供だけでも先に乗せて!」
おそらく観光客やビジネス客だろうが、かなり興奮していた。
なので、
「宇宙港から脱出の協力要請がきていますから、乗せれるだけお載せして惑星ビーテンツに脱出します。しかしながら点検や各種補給が終わってからじゃないと出発は出来ませんから、少しの間おまちください」
「どれぐらいかかるんですか?」
「30分くらいですかね。でも急いで出たいなら、軌道エレベーターを使えばよろしいのでは?」
「ものすごく混んでるらしいんだ。あれじゃあ降りれるのがいつになるかわからない!」
「ではおとなしく入り口で待っててくださいね。邪魔をすると出発が遅くなりますからね」
船に乗れる事を約束し、無理やり乗り込んで来ないように促した。
そのおかげもあり、燃料の補給に水の補給。汚水の排出にゴミの搬出。各所の点検などはスムーズに事が運んだ。
その間に結構な人が入り口に集まっていた。
この様子だと、貨物用ターミナルにはかなりの人数が押し寄せているのだろう。
そして全てのチェックが終了すると、
「管制塔。宇宙港出発後に惑星上に降下した後どこに行けばいい?」
と、質問した。
出たはいいが、安全に下ろせる場所がなければ意味はない。
『軌道エレベーターから一番近い大気圏内用空港のマッテルトン空港に向かってくれ。受け入れ体制を整えてくれている。地図はいま送る』
地図を受け取って座標を確認したあと、入り口でまっている人達のところに行き、
「みなさんゆっくりと落ち着いてコンテナに入ってください。出発後はすぐに惑星上に降下する予定です。なお、妊婦さんや病人や怪我人、お年寄りなんかは上の客室に案内しますから、あちらの彼女の処に向かってください」
と、説明した。
恒星ヴォーネの超新星爆発をきっかけにはじまった、惑星デューモアの災害時の脱出訓練の重要性が大々的に紹介されたのもあり、幸い我先にと乗り込もうとする人は少なく、きちんと行列を作ってコンテナに入りはじめた。
重力下になった時の安全を考慮しての人数の限界に近付いてきたときに、ブランド物の服を着て、大きめのトランクを持った1人のおばさんが、列を完全に無視し、上の客室に乗り込もうとしてきた。
距離の長い高速エレベーターに乗っているときにたまに起こるふわっとする瞬間が無重力らしいですね
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします




