File17 首都惑星ヴォルダルでの買い物⑤ 朝飯前の一仕事
お待たせしました。
視点変換 ◇???◇
私達は、ホテル・ヴァルス・ヴェーランの喫茶室で朝食を食べている。
昨晩の屈辱を噛み締めながら。
「あ~あ。せっかくリキュキエル・エンタープライズの社長に取り入れると思ったのにな~」
「全部あの女のせいよ!美味しいところを持って行きやがって…」
妹のぼやきに対し、私は昨日現れたムカつく女の顔を思い出していた。
「あの女が社長のマジ愛人なんじゃないの?」
「だったらあのクソガキが懐く訳ないじゃない!」
「そこから懐柔したんだよ多分」
声を荒げてしまったが、妹の言っている事は正しいと思う。
あの生意気なクソガキがあそこまで懐くのは、まずはあっちから攻略したに間違いない。
晋蓬皇国のことわざって奴を借りると、『将を射んと欲すればまず馬を射よ』って奴だ。
「私達もそっちから仕掛ければ良かったかなぁ…」
「姉さん、私のコーヒー飲まないでよ」
「いいでしょ別に」
「今は駄目でしょ。子供なんだから」
「それくらい誤魔化せるわよ」
私は今、カモを待ち受けるために子供の姿をしている。
カモは宇宙船の販売会場で、リキュキエル・エンタープライズの社長と仲良く話をしていた青年実業家だ。
なにしろ、大型船・超大型船のスペースで船を買ったほどだ。
そうとうもってるに違いない。
その時、喫茶室の入り口からムカつく奴が入ってきた。
「…姉さんあれ」
「ちっ…」
それは、昨晩私達の邪魔をした忌々しい女だった。
もちろん向こうは気がつくはずはない。
なにしろ今の私達は、親子にしか見えないからだ。
そいつは私達のすぐそばの席に座った。
私は妹に合図をおくり、体内通信を使うことにした。
こうすれば、会話の内容を聞かれることはない。
『にしても来ないわねあの男』
『あせることないわ。ここに泊まってるのは間違いないんだから』
周りから見れば、親子がニコニコしながら食事をしているだけに見えている。
私達はそれだけの経験を積んでいるのだから。
その時、喫茶室の入り口から、今度は警官が入ってきた。
先頭は制服を引き連れた私服だ。
『姉さん…』
『慌てないの。慌て出ていったら怪しまれるわ』
妹は不安そうにするが、ここで慌ててはいけない。
なにも、私達を捕まえにきたとは限らないのだから。
すると警官たちはあの女に近寄る。
私達の邪魔をしたあのいけすかない女だ。
私服は女の対面に座ると、
「見せろ」
とだけいい放つ。
いけすかない女も慣れた様子で、
「どうぞ」
とだけ言い、何かを手渡した。
「…どうやら間違いないようだな…」
私服は女を睨み付け、渡されたものを懐にしまった。
おそらく、証拠かなにかだろう。
それを対価に逮捕を免れるつもりらしい。
『どうやらあの女、同じ穴の狢だったみたいね』
『これをネタに、リオアース社長に入り込めそうね♪』
私達は、今後の作戦が旨い方向に転がっていくのを確信した。
でもその大物の前に、小物を釣り上げないといけない。
そしてその小物が来るであろう方向をみつめていると、いきなり身体に衝撃が走った。
私も妹も腕を掴まれ、頭を押さえられ、『脳』を収納している頭部を展開された。
もちろんその『脳』に向けて、何丁もの銃がむけられている。
「えっ!?なに?」
妹はパニックを起こし、状況が分かっていない。
しかしそれは、何にも知らない一般人の反応でもある。
そこで私は、今の自分の見た目を最大限利用し、
「ママっ!ママっ!」
と、精一杯子供らしくさけんでみた。
しかし、
「正体は判明しているぞネーダー姉妹。詐欺・窃盗が山ほどだ。身体の方も…捕獲できたらしい」
私服が私達の姓を呼び、罪状を読み上げ、身体も押さえられた上、『脳』を露にされた今、私達姉妹が逃げることはできない。
そんな私達とは対照的に、あの女は悠然とコーヒーを飲んでやがる。
考えるまでもない、あいつがサツを呼び、私達を売る代わりに見逃されたんだ!
「おいポリ公!そいつだって私等と同じ詐欺師なのに、どうして捕まえないんだよ!?」
私は精一杯の大声をあげてやる。
これでこいつの情報はリオアース社長にいくはずだ!
長い時間をかけて入り込んだらしいが、全部おじゃんにしてやる!
すると女はこちらをふりかえり、
「残念だけどそれはねえよ」
薄い光と共に、男に変わった。
それは、私達姉妹がカモにしようとしていた男だった。
つまりこいつは、男でも女でもあり、男でも女でもない雌雄同体のシュメール人だと言うことだ。
「騙しやがったなカタツムリ野郎!」
妹は唖然としていたが、私はへこむつもりはない。
それに、シュメール人だからといってこいつが詐欺師でないとは言えない。
「ふざけんな!そいつがシュメール人ならより詐欺がやり易いだろうが!」
それを訴えるべく声を張り上げたが、
「こいつは俺の知り合いで、リオアース一家とも縁がある。その上身分もはっきりしている。たまたま相談してくれたのでたすかったよ」
私服の警官が、にやついた顔をしながら、私の主張を絶ち切った。
その瞬間、私の意識は途絶えた。
視点返還 ◇ショウン・ライアット◇
「手間をかけたな」
「リオアース親子から食事の誘いを受けて、ロビーにいってなけりゃ気がつきませんでしたよ」
詐欺師の姉妹の『脳』が運ばれていくのを視界の端に入れながら、リュオウ警部に答える。
事実、レイアナに食事に誘われなかったら、なにも知らずにあの姉妹と行動していたかもしれない。
あの美少女御嬢様には感謝しなければいけないのかもしれない。
まあ、船の支払いは済ましてあるから、たいした金はもってないが。
「そういえば、船は買えたのか?」
「ええ。納船は6日後で、乗って帰るつもりなんです」
「随分面倒な手を使ったな」
「そのぶん安くなるんで」
初めはオルランゲアまで運んでもらうつもりだったが、自分で乗って帰れば二割引にしてくれるというので、そっちにしたのだ。
「だからこんなところに泊まってるのか?」
警部殿は、事情は理解しているだろうに、にやにやしながら嫌みをいってくる。
「分不相応ですよこんな高級ホテル。このまま別のホテルに泊まって、引き渡しの日まで首都観光でもしますよ」
「お前さんは星々を飛び回る癖に、惑星上に降りないからな。たまには観光もいいだろう」
「警部。容疑者の護送準備、終了しました」
世間話をしているうちに、制服の警官が警部殿に報告に来た。
「さて、仕事だ。そうそう、あの姉妹には賞金がかかっていたから、その支払いは後日だ」
「わかったよ」
そういうと、警部殿は部下を引き連れてホテルを出ていった。
これでようやく自由の身だ。
スタッフを呼び、朝食をオーダーすると、首都の観光案内のデータを眺めることにした。
用語解説
『脳』を取り出しての逮捕:これはつまり、ネーダー姉妹は脳を特殊なボックスにいれ、機械の身体を乗り換えることで、警察の目を掻い潜り、ターゲットの嗜好に合った外見に変えていたということ。
攻◯機動隊を御存じの方は御理解いただけると思います。
ネタが溜まっていても表現に苦しんでいる今日この頃です。
ご意見・ご感想などもよろしくお願いいたします