File16 首都惑星ヴォルダルでの買い物④ 女が大量に集まると、かしましいではではすまない
明けましておめでとうございます!
新年度最初の投稿です!
2/26 ご指摘をいただき、文章の一部を修正・削除致しました
ロビーに降りると、ある一角に人だかりが出来ていた。
様々な色の派手なドレスを着こんだ、いわゆる『上流階級の御令嬢』達が、1人の男性を取り囲み、ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てていた。
周りの客や、ホテルのスタッフは迷惑そうにしているが、彼女達はお構いなしだ。
取り囲まれているのはもちろん、このホテルのオーナーでもあり、レイアナの父親でもあるガリウス氏だ。
「お待たせしましたお父様♪」
その集団に、正確にはその集団に囲まれている父親にむかって、レイアナは明るく声をかけた。
「おお!待っていたよレイアナ♪」
ガリウス氏はこれ幸いとばかりに、集団から抜け出し、レイアナを抱き締めた。
本当に娘をまっていたのだろう、その顔には安堵の表情が見てとれる。
「シーラさんもお連れいたしましたわよ♪」
レイアナの台詞に、俺は慌てお辞儀をして挨拶をする。
「ガリウスさん。お招きありがとうございます」
「やあシーラ。呼びつけてすまないね」
ちなみにシーラというのは、エレベーターの中で考えた偽名だ。
ガリウス氏は俺の手をとって、手の甲にキスをする。
そのガリウス氏の後ろからは、豪奢なドレスや派手なスーツを着た『上流階級の御令嬢』達が俺を睨み付けていた。
そんな情況を確認しながら、レイアナはわざと明るい口調で、
「さあお父様、シーラさん。さっそくお食事に行きましょう。シェフのスノウラフさんのお料理は素晴らしいですから楽しみですわ♪」
俺とガリウス氏の手をとり、エレベーターに向かおうとした。
すると当然のごとく、『上流階級の御令嬢』達が前に回り込んできて、俺に難癖をつけにきた。
「貴女何様のつもり?その人は貴女みたいなのが近寄っていい人じゃないのよ?!」
「さっさとリオアースさんから離れなさい!貴女がいることだけで迷惑をかけているのがわからないの?」
「貧乏人の匂いがするわ!さっさとホテルから出ていきなさい!」
わかってはいたが、金目当ての肉食女達の迫力は凄まじいことこの上なかった。
とはいえ、こいつらを蹴散らさないことには話にならない。
物理的になら至極簡単ではあるが。
俺は一歩前に出ると、溜め息をつきながら女達に質問した。
「貴女たちは、ガリウスさんに奥様がいることは御存じですよね?」
「しってるわ。でも離婚なさったのでしょう?なら、リオアースさんは独身。私達が声をかけていけない道理はないわ!」
女の1人がドヤ顔で答える。
その答えに、レイアナとガリウス氏、そしていつのまにかやって来ていたトーマスが、明らかに不機嫌になったのが背中越しにも理解できた。
「どこで聞いたかしりませんが、ガリウスさんと奥様のシェルナさんは離婚なんかしていませんよ?」
「毎日毎日、朝晩かかさず、娘の私が恥ずかしくなるようなやり取りを立体映像電話で繰り広げてますわよ」
「おっおいレイアナ!」
呆れながら放った俺の言葉に、レイアナが追加情報をだしてくる。
その内容に、ガリウス氏は嬉しそうに慌てた。
「で、あるにも関わらず、『自分を家族に』とか、頭がおかしいみたいですね」
「じゃああんたはなんなのよ?!あんただってそうなんじゃないの?!」
「私はシェルナさんとも面識がありますし、貴女達みたいに金目当てで近寄って知り合ったわけじゃありませんからね」
そうきっぱりいってやると、『上流階級の御令嬢』達も押し黙ってしまった。
どうやらそれくらいの自覚はあるらしい。
そこで、俺は一気に畳み掛けることにしてみた。
「そもそも、ホテルを利用している他の客の迷惑も省みず、ロビーでぎゃあぎゃあと騒いで…。これ以上わめき散らしてガリウスさんにつきまとうなら、脅迫及びホテルへの威力業務妨害で警察をよびますが?」
そういい放つと、流石に怖じ気付いたのか、大人しくホテルを出ていった。
しかし、あの肉食女達の中に、見たことがあるのが居たような気がしてならない
ともかく、リオアース親子+変態執事と食事に向かうことにした。
視点変換 ◇レイアナ・リオアース◇
今日ほどテンションの上がり下がりが激しい日は初めてです。
前日に乗り込んだウチの船で、私の専属料理人になってほしいショウンさんに出会えて、さらにお父様と一緒に中古新古の宇宙船の販売会をみて回ることが出来て、さらには夕食をお父様と楽しむことになって、テンションがうなぎ登りだったのに、ホテルに押し掛けてきた女性達のせいで奈落の底におちてしまいました。
しかもそのなかには、昨年の新年のパーティー会場のトイレで、私の足をヒールで踏んだ女がいました。
その場ではきちんと謝罪をしてきましたし、私も許しましたが、あまりにも痛かったので医師の先生の診察を受けたところ、足の甲の骨が折れていました。
その事件があってから、私は強化プラタイトの仕込まれた靴を履くようにしたのです。
ショウンさんを見た時の女性達の表情は見ものでした。
元々シュメール人には美形が多いうえに、ショウンさんはなにかしら鍛えているらしく、スタイルも姿勢も抜群に決まっています。
贅沢しほうだいで厚化粧の女性達が叶うはずありません。
そして、私やお父様やホテルのスタッフでは言い辛いことを叩きつけ、追い出してくれました。
そのあとの食事は、実に楽しいものでした。
ショウンさんは、私かお父様が話しかけた時だけ答え、私とお父様のおしゃべりを遮らないように気を使って下さいました。
お料理も素晴らしく、本当に楽しい時間を過ごすことができました。
どうせなら、ショウンさんに私の専属料理人になってもらって、腕をふるって欲しいものです。
視点返還 ◇ショウン・ライアット◇
上流階級の御令嬢たちとの対決が終わり、高級レストランでの緊張の食事がおわると、部屋に戻って直ぐにベッドに倒れこんだ。
「ああいう店は苦手なんだよな…」
しかしこのままではドレスがシワになるので、下着も含めて全部脱ぐと、洗濯物用転送機に放り込んだ。
そしてシャワーを浴びると、腕輪型端末を取り出して情報をながめながら、さっきの女達の中の、どこかでみたことがある連中のことを思い返していた。
そして情報を読み飛ばしていたとき、ある情報に目が留まった。
用語説明
立体映像電話:立体映像を投影できる通信装置。
そろそろ実現しそうですよね。
洗濯物用転送機:ホテルに備え付けてあるランドリー室に直通になっている転送装置。
ヴァルス・ヴェーランでは、銀河標準時で午後9時までに放り込めば、翌朝7時までにはクリーニングされて帰ってくる。
新年度もよろしくお願いいたします
ご意見・ご感想などもよろしくお願いいたします