File15 首都惑星ヴォルダルでの買い物③ 御嬢様は可愛くない
なんとか出来上がりました。
今年もあと少しですね
リキュキエル・エンタープライズ社傘下のホテル。
ヴァルス・ヴェーラン。
共和国内でも上位に位置付けされる有名な格式ある一流ホテルだ。
一流ホテルにしては宿泊費は安い方ではあるが、格式の高いホテルであることにはかわりはなく、俺の様な風体の輩は拒絶されてもおかしくはない。
が、
「ご予約のショウン・ライアット様でございますね。お待ちしておりました。私、当ホテルの支配人のトルダネス・ストライプスともうします」
美少女御嬢様がどう説明したのかは知らないが、ホテルの連中がいやに丁寧だ。
なんで支配人がいちいち出てくるんだ。
どうして、従業員が整列してるんだよ。
「あの…ちょっとお聞きしたいんですが、上からなんと説明されたんですか?」
「はい。リキュキエル・エンタープライズ社副社長、レイアナ・リオアースより、本社の重要人物になる方だと伺っております」
支配人は丁寧に返答してきた。
それを聞いた瞬間にホテルをキャンセルしたくなったが、今晩の宿泊場所がないのは厳しいので、我慢することにした。
部屋に案内されて1人になれたので、直ぐに腕輪型端末を情報に繋ぎ、翌日から泊まれるホテルを探した。
するとありがたいことに、直ぐ様にホテルが見つかった。
なんでも、急にキャンセルが入ったとのことだそうだ。
そのホテルは、晋蓬皇国風のホテルで『武蔵屋旅館』という。
もちろん価格の面からも、ここよりはリーズナブルだ。
ちなみに晋蓬皇国とは、50年前の戦争の戦後処理で、銀河共和国・銀河帝国・星域連邦らの手によって三分割された国で、独特の文化圏をもっていた国だ。
その文化は、国が滅びた今も三国にかなりの影響を与えている。
その方式のホテルには泊まったことがないので、ちょっと楽しみだ。
その嬉しさのまま、ニュース記事を暫く閲覧する事にした。
超空間での事故・各国を股にかける窃盗詐欺事件の続報・新船の広告・レジャーニュース・ホッコリする動物映像などをながめていると、ドアがノックされた。
嫌な予感がしつつも、俺はドアに確認にいく。
ドアスコープのモニターには、見知った顔があった。
「なんか用か?」
「なんかは酷いじゃないですか。お食事のお誘いに来たのですよ」
やっぱり美少女御嬢様だった。
「ルームサービスを頼むから結構だ」
俺はドアを開けずに対応してやった。
「このホテルの最上階にあるレストラン『ヴァン・ニールベル』のディナーなんですよ?」
「ドレスコードがある店じゃないか。礼服なんか用意してない」
このホテルの最上階にあるレストラン『ヴァン・ニールベル』は、グルメ雑誌に掲載されたこともある有名高級店だ。
それだけにドレスコードがあり、俺みたいな服装なのは門前払いされるだけだ。
「此方でご用意しました。食事代も宿泊費も出します!どうかお願いします!」
ドアの外で、レイアナは深々と頭を下げた。
社交場でするようなカーテシーではなく、頭を90度にまで下げる最敬礼以上の頭の下げようだった。
すると、レイアナに代わって変態執事が説明をはじめた。
「実は今、ロビーで旦那様に上流階級の御令嬢達が群がっていまして。親子水入らずでの食事に割り込もうとするのです」
「家族での食事だって言って断ればいいじゃないか」
「『ならば私を家族にしてください』と、返答してきまして。さらには『お嬢さんはそろそろお休みになられては?』と、御嬢様を邪魔者扱いしてくれまして」
その時の有能執事の顔には、明らかに怒りがこもっていた。
「怒鳴り付ければいいんじゃないのか?家族水入らずを邪魔するなって」
「このホテルが旦那様の所有するホテルでなければ可能です」
ガイウス氏はこのホテルのオーナー。つまりは客をどなりつけることになり、イメージが悪くなるわけか。
「でも、俺だって家族じゃないから水をさすことになるじゃないか」
「ショウンさんは私とお父様に請われてテーブルに座るんです。あの人達とはちがいます!」
どうやら本気でその女性達が嫌いらしい。
まあ、どれだけ大人相手にやりあっていたとしても、体格的に威圧されるだろうし、暴力でも振るわれたらひとたまりもない。
まあ、変態執事がさせはしないだろうが、トイレなどの変態執事が入れない場所だとどうなるかわからない。
「俺は明日から別のホテルに移る。それを邪魔しないってのを約束したらいってやる」
「本当ですか?!」
部屋のドアを開け、ため息をつきながら承諾してやると、レイアナは満面の笑みを浮かべた。
そうして室内に入ると、トーマスの持っていたトランクを差し出してきた。
「お洋服です。着替えてくださいね♪」
俺はトランクを受け取って中身を見る。
「女物じゃないか!しかも下着まで!」
「承知してくれましたよね?」
美少女御嬢様はいい笑顔を浮かべてやがる。
こういう所が、美少女御嬢様の可愛くない所だ。
「男でも問題ないだろう?」
「男性だったら『華を添えるためにも私も一緒に』と言ってきますね、あの御令嬢達は」
俺のささやかな反撃を、変態執事があっさりと返してきた。
とはいえ、承諾してしまった以上今更ながら止めたとも言いづらい。
「わかったわかった。着ればいいんだろう」
俺は観念して、深くため息をついたその次の瞬間、
「んっっっではっ!お着替えをお手伝い致しますのでぇっ!女性になっていただいてすっっぽんぽんにアァウチッッッッ!」
変態執事が、ドレスを手にものすごいオーバーリアクションをしながら俺に迫って来たかとおもうと、急に悲鳴を上げて床に転げ回った。
「さっさと出ていきなさいっ!この変態執事っ!」
レイアナにスネを蹴られたのだ。
変態執事が部屋を追い出されたのを確認すると、まずは女の姿にかわる。
そして、
「お前もでるの」
レイアナを追い出してから、着なれた感じでドレス一式に着替える。
コスメまで用意していたので、それも使った。
なぜ男性として産まれた俺が、女性の下着やドレスを着るのや、化粧に慣れているのかというと、シュメール人は変身が出来るようになると、親や学校からそういう類いのことを教わるからだ。
将来的にどっちを選ぶかわからないんだから、両方教えておけば面倒がなくていいだろう。というのが理由らしい。
ちなみに事故でなくなった俺の両親は、女子高で親友だったらしい。
着替えを終えて出てくると、レイアナとトーマスが人の顔をじっと見つめてきた。
「どうかしたか?」
「やっぱりショウンさんの女性の姿は魅力的です!」
レイアナは眼をキラキラさせながら俺の顔をみつめてくる。
「ライアット様!」
不意に、トーマスが俺の手を掴んで顔を近づけてきた。
「なんだよ…?」
「今夜是非ともいっぱ『ボゴッ!』つぅぅぅぅぅぅ!」
変態執事が最後まで言い切る前に、股間に膝蹴りをかましてやった。
「さ、いくか」
「そういたしましょう」
俺とレイアナは、のたうち回る変態執事をその場に放置し、1階のロビーに向かった。
用語説明
晋蓬皇国:皇王を頂点とする合議制国家だったが、50年前の第四次銀河大戦の戦後処理で、銀河共和国・銀河帝国・星域連邦らの手によって三分割された国で、独特の文化圏をもっていた国。
その文化は、国が滅びた今も三国にかなりの影響を与えている。
国のイメージはもちろん日本です。
第四次銀河大戦:50年前に終結した、銀河共和国・銀河帝国・惑星連邦・晋蓬皇国の四国間で、資源惑星の利権獲得を元に勃発した大規模な戦争。
文章の組み立てに四苦八苦しております
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