File14 首都惑星ヴォルダルでの買い物② 他人を振り回す親子共
お待たせいたしました。
宇宙船のバリエーションがあったら教えていただけるとありがたいです。
銀河共和国首都・惑星ヴォルダル。
数千億の人口によって形成されている銀河共和国の中心であり、政府や軍、銀河帝国や星域連邦の大使館。
様々な国際機関は勿論、大企業の支部や本部があり、ビジネス・娯楽などの発信元でもある。
その衛星軌道上にあるのが、今回の俺の目的地、中古新古の宇宙船の販売会の会場。
共和国国立多目的展示場コロニー。
別名・六角形の庭だ。
直径30㎞・全長160㎞の超巨大シリンダーコロニー6つを、巨大なリング状の歯車で連動させて重力を発生させている。
宇宙港からは直通のシャトルがあり、惑星上からは、専用の軌道エレベーターからのシャトルがある。
そして、緊急時には避難所にも早変わりする巨大施設だ。
宇宙船の販売会というのもあり、その6つあるコロニーの3つを使用しているらしい。
そしてあとの3つは、ギャラクシーコミックフェスティバルという、同人誌即売会が行われているらしい。
宇宙船の販売会はわかるが、同人誌即売会で巨大コロニー3つが埋まるというのはにわかには信じられない。
だがまあ、実際に埋まっているのだから、大きな市場になっているのは間違いないのだろう。
俺は宇宙港からの直通シャトルで六角形の庭に向かった。
そのシャトル内は、俺のような宇宙船販売会に行く人間と、ギャラクシーコミックフェスティバルに向かう客との、服装や雰囲気のギャップが半端なかった。
シャトルを降りると、ご丁寧にも案内板があり、右がギャラクシーコミックフェスティバル。
左が宇宙船販売会と、表示してあった。
もちろん俺は左だ。
会場はコロニーごとに、
小型船・特殊作業船。
中型船・脱出ポッドを含む超小型挺。
大型船・超大型船及び船内設備のカタログデータ閲覧スペース・販売会本部。
と、3つのブースに分かれていて、休憩スペースは各ブースごとに設置されている。
もちろん俺は小型船・特殊作業船のブースだ。
コロニー内の移動は無料貸し出しの移動板を使わないと、まわりきれるものではない。
俺が探しているのは、下部貨物室型輸送貨客船というタイプで、後部貨物室型に比べて数が少ないうえ、居住スペースにもなる貨客船タイプはもっと少ない。
ここになければ、貨客船というのは変えず、後部貨物室型で妥協するしかない。
後は値段と品質だ。
新古や中古とはいえ、宇宙船だから数百万するのは当たり前。
高すぎると手がでないし、安すぎると品質や状態が不安だ。
だからその辺を見極めながら、購入する船を選ばないといけない。
会場を回り始めて数時間。
幸い、下部貨物室型輸送貨客船を売りに出しているところが何軒もあったのがありがたい。
俺は知らなかったのだが、何隻か新型も発売されていたらしい。
やっぱり首都は違うと、感心してしまった。
幸いその中で気に入ったのがあったので、さっそく契約し、払える分だけをその場で払い、残りはローンにしてもらった。
販売会は銀河標準時で6日間開催されるため、搬出しての商品受け渡し及び配達はその後になるらしい。
目的は達成したので、どうせならと、船内設備のデータ閲覧スペースに行ってみることにした。
前の船で使っていた家具や搭載品はそのまま使えるので、その辺も節約できるのだが、せっかくなので見ておいても損はない。
その閲覧ブースに向かう途中、なぜかレイアナ・リオアースの姿があった。
「やっぱりいましたね♪」
俺としては無視しておくつもりだったのだが、向こうから、しかも俺の腕を掴んできたからタチが悪い。
「学校に向かうんじゃなかったのか?」
「学校は来週からです」
目の前でドヤ顔をする少女にため息をついていると、不意に人影が近づいてきた。
「久しぶりだねショウン・ライアット君」
そう俺に声をかけてきたのは、レイアナの父親であり、リキュキエル・エンタープライズ社のCEO。
ガリウス・リオアースその人だった。
リオアース氏は、俺に右手を差し出してくる。
俺も右手をだして握手に応じる。
「お久しぶりです」
「行きの船では娘とたまたま乗り合わせたそうだね」
「例の会社のは色々怪しいので」
「あそこか…同業者にとっては迷惑ではあるがチャンスでもある。悩ましいところだ」
リオアース氏は難しそうな顔をしてため息を吐く。
年齢は40は確実に越えているはずだが、随分と若く見える。
若い頃はモテまくっていたであろう整ったその顔立ちは、既婚者になった今でも、女性がほうっておかないだろう。
娘は妻似だといっていたこともあって、レイアナとの共通点はみあたらない。
「君の方は、目当ての船はみつかったのかね?」
「はい。いいのがみつかりました」
「うむ。巡り合わせがよかったようだな。妻にも分けてやりたいくらいだ」
「そうよねえ。お母様はいつになったら遺跡の調査から帰ってくるのやら…」
リオアース氏の妻、シェルナ・リオアースは、著名な考古学者であり歴史学者であり、国立ヴォルダル大学で教鞭もとっている。
これまで様々な発見をしており、夫と娘を溺愛しながらも、発掘に情熱を傾けている。らしい。
「離婚したなんて噂が立ってしまって、女性からのアピールが増えてしまったよ…」
「明らかにお金目当てですわね。そういう女性を無闇に近づかせないようにしてくださいねお父様」
「わかっているよ。私が心から愛している女性はママとレイアナだけだ」
現状だけで考えると、共働きの夫婦がお互いの仕事の都合でなかなか会えない。というだけだが、共和国でも有数の大企業のトップにもなると色々大変そうだ。
そして、父親が娘に敵わないのは、古今東西・貧富の差に関係はないらしい。
リオアース親子と別れた後は、船内設備のカタログデータをあれこれと眺めていた。
新しい船は前の船より大きく、船室が広いので、色々と設備が追加できそうだった。
そうしてたっぷりとカタログを眺め、気に入った品物があったカタログをもちかえり、ホテルでゆっくりと検討するため会場を出ようとした時、不意に誰かに足を掴まれた。
「パパ!」
それは、レイアナより年下の女の子で、キラキラした笑顔を俺にむけていた。
まず頭に浮かんだのは、人違いだ。
何より俺は独身だし、子供を産ませた覚えも、産んだ覚えもない。
「悪いけど、俺は君のパパじゃないよ」
そう女の子を諭しながら、その子の手を引き剥がす。
しかし、
「パパだもん!間違いないもん!帰って来てくれたんだね♪」
女の子はなかなか頑固だった。
だがそこに救世主があらわれる。
「ユカ!」
「ママ!パパだよ!パパいたよ!」
「違うのよユカ。その人はパパじゃないの…えっ?!」
その救世主である母親も、何故か俺の顔を見るなり固まってしまった。
だがすぐに表情をあらためると、丁寧にお詫びをしてきた。
「申し訳ありません。この子の父親、私の夫は船乗りで、昨年事故で亡くなりました。その亡くなった夫が、貴方にそっくりなもので…」
そこに、子供・ユカちゃんが、俺のズボンをひっぱった。
「ねえ?本当にパパじゃないの?」
「ごめんね。俺は君のお父さんじゃないんだ」
「そうなんだ…」
下手な希望を持たせる方がより残酷になると思い、俺はきっぱりと違うと言いきった。
子供・ユカちゃんは寂しそうにうなだれてしまったが、何時かは理解できる時が来るだろう。
そこに、母親が声をかけてきた。
「あのう…もしおゆるしいただけるなら、少しの間一緒にいてもらえませんか?」
「…いいですよ」
俺も両親が早いうちに亡くなっているから、その寂しさはわかるから、母親の懇願を受け入れることにした。
「ありがとうございます!」
「やったあ!」
それから、ユカちゃんは船を見たいと言い出した。
見るのが豪華な船ばかりなのは、幼くとも女の性というやつなのだろうか?
シュメール人の俺には理解しがたい事だ。
少しの間といった割には、結局残りの時間ギリギリまでたっぷりと引き回されてしまった。
我ながら人が良すぎると呆れてしまった。
さらには、
「ねえ。明日も一緒に見てまわろうよ?」
と、お願いしてきた。
「ダメよユカ。我が儘を言ったら」
「ヤダ!もっと一緒にいたい!」
「まったくこの子は…。すみません。駄目って言ってるでしょう!」
が、さすがに母親が嗜めた。
まあ、今日あったばかりの人間に、そこまで要求するのは失礼だろう。
「では、私達はこれで失礼します。そういえば、今日はどちらにお泊まりなんですか?」
「惑星上のヴァルス・ヴェーランですが」
「まあ!ヴァルス・ヴェーランですか?!」
「そこしか取れなかったもので…」
ちなみにヴァルス・ヴェーランとはそれなりに高いホテルだ。
本当は宇宙港のカプセルホテルに泊まるつもりで、船に乗ってから予約をしようとしたのだが、宇宙港のホテルは全て満室。
どうしようかと思っていたときに、たまたまレイアナに出くわしたというわけだ。
そしてその時にホテルの話をしたところ、
「それなら都合がつけられるかも」
と、勧めてきたのがリキュキエル・エンタープライズ社傘下のホテル、ヴァルス・ヴェーランだったわけだ。
娘の手を引いて帰ろうとしていた母親は、俺の宿を聞いた途端に表情が変わり、
「あの!よろしければ明日も御一緒していただけませんか?ホテルの方にこちらから参りますので!」
鼻息を荒くしながら俺の手を掴み、バッチリと眼を見開いてグイグイと迫ってきた。
「ママ…」
その変貌ぶりに娘のユカちゃんは呆然としていた。
そうしてなんとかその親子と別れた後、軌道エレベーター行きのシャトルに乗り込み、惑星ヴォルダルの大地にむかった。
用語解説
スペースコロニー:SFといえばコレ!といっても過言ではない、超有名な宇宙空間に浮かぶ人工居住地です。
有名なのは3つあります。
①シリンダー型
円筒型で回転によって重力を発生させ、交互に陸と窓の区画に区切られ、窓の外側には太陽光を反射する可動式の鏡が設置され、昼夜や季節の変化を作り出す。
今回使用したのはこれ。
一番有名ですね。
②バーナル球型
回転する球殻の極付近に大きな窓を作り、外部に設置された鏡で反射された太陽光を取り込むタイプ。資料の画像を見る限り、『球』ではなく『短くて太い筒』に見えますけども。
③スタンフォード・トーラス
いわゆるドーナツ型。
回転してリング内部の外側に、地球と同等の重力を発生させ、太陽光は鏡で取り込まれる。リングはスポークで結ばれ、スポークは人や物資の移動にも使用される。また、スポークで繋がれたハブは無重力であるため、宇宙船のドッキングなどに使用される。
他には、小惑星を改造したものなんかもあるようです。ア・バオア・クーみたいなやつでしょうか?
軌道エレベーター:惑星表面から宇宙空間の静止軌道まで移動できるエレベーター。
ロケットの打ち上げをしなくていいのでコスト削減になるそうです。
プラットフォーム(移動板):本来の意味は、周辺よりも高くなった水平で平らな場所という意味。
転じて、『環境整備』『基盤作り』『足場』などの意味に使われるようになった。
SFでの扱いだと、平らな板の下に浮遊式の移動推進装置がついていて、巨大な建物や船内の移動に使用される。
セグ◯ェイなんかの進化版と考えると分かりやすいかもですが、ゲーム『金属の歯車固体3』でソ連兵が使っているのが一番分かりやすいかもです。
ちなみにショウンには、彼女も彼氏もいません。
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