File12 惑星オルランゲアへの貨物輸送⑤ 事件の顛末
お待たせいたしました。
目を開けると、視界に入ってきたのは病院の天井だった。
検査や怪我で何度か入院した事があるから間違いない。
身体を確認すると、どうやら五体はあるらしい。
ゆっくりと身体を起こし、回りを確認する。
部屋は個室で、花瓶に花が活けられている以外はなにもない。
窓の外は綺麗な青空が広がっている。
あと、女のままだった。
俺は、自分の身に起きたことをひとつひとつ思い出してみた。
軍の養成学校のガキに船を破壊されて拿捕され、
首謀者のガキ共を全員無力化し、
GCPOと軍の船が来てガキ共を逮捕、
その次の瞬間から記憶がない。
俺が頭を悩ませていると、病室の外から声がかけられた。
「失礼します。あら、ライアットさん。目が覚めたんですね」
入ってきたのは、女性型の看護アンドロイドだった。
「俺はどのくらい寝てたんだ?」
「31日と13時間ほどです。最大出力のスタナーで射撃されたんですよ」
看護アンドロイドは、俺の脈を取りながら答える。
場合によってはそのまま死亡する場合だってあるわけだが、どうやら助かったらしい。
「ともかく先生をよんできますね」
看護アンドロイドはにこやかに笑って、病室をでていった。
翌日は検査の連続で、明日には結果がわかり、問題がなければそれから2~3日後には退院できるらしい。
そしてその検査の翌日。
警部殿がやってきた。
「今回は災難だったな」
「2度とごめんですね。思い出したくない」
相変わらず無精髭を生やしたままで、ずいぶん疲れた顔をしていた。
「だが思い出してもらわないといかん…」
椅子に座ると、俺が撃たれたあとの出来事を話し始めた。
警部殿の話によると、
首謀者のガキ共のうち5人は、全員に死刑が求刑されたらしい。
船を襲って積み荷を奪った後、射的の的にした船が20隻以上確認されたらしい。
さらに、クーデターに参加した内の30人の内の12人は、クーデターの後には普通に航海訓練をするものと思っていたらしく、反発したところ全員殺されたそうだ。
どうりで出て来なかったわけだ。
拿捕された船の女性に、助けてやる代わりに性行為を強要したのは間違いないが、実際に実行したのは首謀者の男5人だけだったらしい。
あの偉いさんのガキ、デルノフは、初めは無実の主張と、親の名前で威嚇していたらしいが、
父親が見限ったぞと知らせてやったところ、父親の悪事をべらべらと話し始め、司法取引だなんだとわめきだしたらしい。
俺に眠らされた連中は、クーデターに参加したとはいえ、船内の見張りくらいしかしていなかったため、全員が懲役20年の求刑だそうだ。
そして首謀者唯一の女パメラは、自分も被害者だ。
脅されただけだと主張していたが、俺とのやり取りが記録された映像と、デルノフたち首謀者達の発言が決め手となり、殺しはしていなかったため、終身刑におちついた。
ちなみに俺を撃った犯人は、なんと犠牲になったはずの女教師だった。
グルどころか犯行を唆した主犯格だったらしく、貨物配達受付で獲物を物色して、連絡していたらしい。
なんでも、玉の輿に乗るために計画したらしい。
おそらく、あのイケメン若手准将殿でも狙っていたのだろう。
彼女は、軍人としても教育者としても人間としても問題有りと判断され、余りにも身勝手な主張を繰り返したこともあってか、死刑が求刑されたらしい。
しかしまだ完全に確定したわけではないらしい。
理由としては、
「お前が最後の証言者なんだ。病院まわりに警備もつけてある。全員の罪の確定を決めるのが、お前の証言にかかっている」
普通は重体で意識不明の人間に証言はさせないものだと思うのだが、スタナーでの意識不明で、回復することがわかっていたためそうなったらしい。
「そうしたのは、軍指令部と評議員が、俺を殺して事件を有耶無耶にするためですかね?」
そんなのは、明らかに俺を殺して罪を有耶無耶にするためなのは明らかだ。
「いや、軍指令部はムスタグ親子を排除したがっているらしい。その条件を捩じ込んだのはアルバンセ・ムスタグ本人だ。
評議員の方は、自分の保身で手一杯で、娘を助ける気はないらしい。
むしろ、娘に罪を認めさせ、娘が勝手に自分の名前をつかっただけで、自分は無関係だと主張してる」
「アホくさいというかなんというか…」
偉いさんというのは、本当によくわからない。
「ともかく、医者からOKがでたら連絡をくれ。法廷にでてもらわんとな。
それからお前の船だが、竜骨が曲がってしまって修理は不可能らしい。船内にあった私物は宇宙港が預かってくれている。まあ、食品類は消費されたらしいがな。その分の代金は請求できるだろう。ああ、積み荷の方はきちんと届けておいたからな」
「食品はべつにいいけど、船は仕方ないか…」
ローンがもう少しだったのに、実に残念だ。
「うちからは金一封。軍からは慰謝料が払われるらしいぞ」
「船のローンにあてるよ」
恐らくたいした額ではないだろうから、船のローンの残りと、ここの入院費用に回すくらいだ。
「仕事はどうするんだ?」
「そうだなあ…」
貯めている金はそれなりにあるので、頭金は何とかなるが、ローンの残りを払うとなると、それもできなくなる。
「だったら俺の船のクルーになるのはどうだ?!」
「ショウンさんが居れば美味しいごはんと眼の保養ができるっすからね!」
ノックもなく部屋に入ってきて、馬鹿な発言をしたのは、トニーとサムの2人だった。
「断る」
「船もないのにどうするつもりなんだよ?」
「ローンを払い終えたらまたローン組んで買うよ」
思い切り蔑んだ視線を向けてやったが、効果は無いようだった。
トニーはキメ顔でポーズを決め、サムの奴はニヤニヤしながら俺の胸元をガン見していた。
男に戻ればいいのだろうが、検査の結果で異常なしと判断されない限り、変身はしないようにと言われているため、したくても出来ない。
「じゃあローンを払い終えるまで俺の船で監禁して強制ろうど…」
「なに抜かしてんだテメエ!」
「ごあっ!」
ニヤニヤしながら俺の退院後の進路を勝手に決めようとしたトニーの背中に、前蹴り(ヤクザキック)をくらわせたのは、ティナ姉ちゃんだった。
「私たちの可愛いショウンちゃんを監禁だなんて…悪い子ねえ」
「ひいっ!」
サラ姉ちゃんはサムの肩に手を置き、にっこりと微笑む。
あの笑顔は、サラ姉ちゃんが他人を追い込もうとするときに見せる笑顔だ。
「ティナ。病院で暴れちゃだめよ。姉さんも子供を虐めないの」
マヤ姉ちゃんだけは、花束とお見舞いを手に、穏やかに対応していた。
「ショウン。回復おめでとう。大変だったわね」
「本当にひどい目にあったよ」
マヤ姉ちゃんは、花束を花瓶に生けはじめる。
「でもまあ、積み荷が無事で、届けてもらったのは感謝しないとね」
何より一番の懸念が解決されていたのがありがたい。
しかも絵画の応募作。
弁償金云々より、コンクールに出品出来なかったほうが問題になる。
俺は、警部殿に改めて頭を下げる。
「じゃあ、俺はそろそろ仕事にもどる。もう一度いっておくが、医者からOKがでたら連絡をたのむぞ」
警部殿はそう言うと、姉ちゃん達の様子をみながら、呆れたような顔をしながら病室を出ていった。
「ところでショウン。船が廃船になったみたいだけど、これからどうするの?」
「とりあえず手持ちの金と、GCPOと軍から出る金で、ローンを払って、残りを頭金にしてまた船を買うかな。まあ、ローンが払いきれなかったり頭金が足りないならなんかのバイトを…」
バイトをしようと思っている。
と、答えようとした時、全員が俺に詰めよってきた。
「だったら!俺の船が一番だろ!同じ貨物輸送業者だからな!」
「そうっす!おっぱいを毎日!じゃないご飯を毎回!」
「ショウンのメシと身柄は俺達が先約だ!すっこんでろ!」
「ショウンちゃん!お姉ちゃん達のところにくるわよね?ね?」
「船に乗るなら私の船が一番よ!」
全員が好き放題いっているが、俺の事を心配してくれているのは間違いない。
暫くはこの喧騒を聞きながらのんびりするのも悪くはない。
船がない船乗りは、それぐらいしかする事がない。
暫くは、仕事の事は考えないようにしよう。
今回で一応の終了になります。
見切り発車だったために、ネタがでず、製作に時間が掛かりすぎるようになってしまいました。
もしまたネタができたら書くかもしれません。
御拝読ありがとうございました