File97 首都惑星ヴォルダルへの貨物輸送からの災難④ 留置所の居心地は、管理する人間で左右される
お待たせいたしました
日にちがたつのが早いですが、留置所内なのでご容赦下さい
リュオウ警部の取り調べが終了すると、地元警官に連れられ、
「ここだ。入れ」
2m×2mの広さの敷地に、固そうなベッド。
下半身がギリギリ隠れるぐらいの目隠しがあるだけのトイレ。
鉄格子のはまった窓という、テンプレートな留置場に放り込まれた。
勿論、汎用端末や短針銃は取り上げられた。
リュオウ警部に協力してくれとは言われたものの、たとえ最終的には無罪になったとしても、世間的には爆破テロの容疑者として逮捕されたわけだから、場合によっては銀河貨物輸送業者組合を除名させられるかもしれない。
そうなったら、本格的に転職を考えた方が良いのかもしれない。
そんなことを考えていると、不意に声をかけられた。
「おう。晩メシだぞ」
そこには、パンとプラボックス飲料のはいったコンビニの袋を持った、制服姿の老警官がいた。
「急な留置だったせいでメシの準備ができてなくてな。こんなもんで悪いな」
老警官は、食事を入れる窓からコンビニの袋を差し入れてくれた。
その老警官がしていた古めかしい腕時計の時間を見ると、いつの間にか20時(午後8時)をすぎていた。
「爆破テロの犯人かもしれないのに随分と親切だな?てっきり今日は食事抜きだと思ってたんだけど」
コンビニの袋を受け取りながらも、さっきの警官のこともあってちょっと嫌みっぽく返すと、
「そんなことはねえよ。酔っぱらいを一晩保護するわけじゃねえんだからよ。それにお前、昼メシも食ってないんだろ?なによりお前さんは爆破テロの犯人じゃねえからな」
老警官は事も無げにそう返してきた。
俺が驚いた顔をしていると、
「これでも勤続46年。無遅刻無欠勤。留置所の管理の仕事も、来年の3月で勤続47年での定年退職の予定だが、若い頃はパトロールで街中を走り回ったり、捜査課にいたことも有るからな。人を見る目は確かなつもりだ。まあ、今日は飯を食ったら早く寝ちまうことだな。取り調べをされる方は、意外に疲労が溜まっちまうもんだからな」
それだけいうと、俺が食べ終わるのをまち、その
ゴミを回収すると、老警官はその場を後にしていった。
俺は老警官の言った通り、早々に横になることにした。
翌日。
刑務所とは違い、規定の時間に起こされる事はなく、食事は、病院での食事の配膳に使っているようなワゴンに乗せられて配られる。
てっきり朝から取り調べがあるのかと思っていたが、そんなことはなく、朝から静寂と退屈が流れていた。
もしかすると、こうして退屈を体験させることで、取り調べの時に何かしら喋らせるようにする手口なのかもしれない。
と、思っていたのだが、昼過ぎに昨日の老警官がやってきた。
「暇だろ?付き合ってくれ」
その手には30㎝四方の板のようなものがあった。
「艦隊チェスかよ」
「安心しな。下手の横好きだ」
「俺も得意じゃねーよ」
艦隊チェスとは、ルールはチェスといっしょだが、駒が軍艦に変わっているというものだ。
王=旗艦:女王=空母:司教=戦艦:騎士=巡洋艦:城兵=ミサイル艦:兵士=駆逐艦。
こんな感じに。
床に置いた盤から立体映像が投影され、その駒を音声認識で動かすシステムだ。
普通こういう場合、この老警官はめちゃくちゃ強かったりするわけだが、自己申告通りの腕で、ろくにやったことのない俺とどっこいどっこいだった。
そのさらに翌日。
俺との面会希望者がいるというので、面会室につれてこられたところ、面会室のガラスがなければ、間違いなくぶん殴りたい奴がやってきた。
「2日ぶりですね。お元気そうで何より」
ヘンリー・タダヤマは、俺が睨み付けているのを気にした様子もなく、平然と席に座った。
「なんの用だ?」
「貴方をお救いするためにやってきたのですよ」
よくまあ平然と、心にもないことを口に出せるもんだ。
そうして俺に契約書を見せると、明らかに上からの目線で話をはじめた。
「さて、ショウン・ライアットさん。貴方がテロリストであるという話は、信憑性がほぼないのを私達は、理解しております。
しかし、実際に破壊された施設があるのが事実です。
宇宙港の責任者は、貴方が修繕費を払うのであれば、テロリストではないと証言し、訴えを取り下げるとおっしゃっています。
しかしその修繕費は1億2千万クレジット。とても直ぐに払える額ではありませんよね?
ですから、我がスターフライト社が立て替えをいたしましょう。
立て替える条件は当社への入社です。
しかし、このような事態になったからには、以前と同じ条件では不可能です。
店舗の責任者ではなく、どこかのレストランのシェフの部下として働いていただきます。
当然、こちらのさまざまな要請にもしたがってもらうことにもなります。
ご理解いただけたなら、契約書をそちらに回してもらいますが?」
よくまあ長々と噛みもせずに話してくれたもんだ。
だが勿論、契約などする気はない。
「最初に言ったとおり、貨物輸送業者を辞める気はない。もし辞める事になったとしても、スターフライト社にはいるつもりはない。それに、修繕費は100億クレジットじゃなかったのか?」
嫌みも交えてきっぱりと拒否してやった。
「左様ですか。まあゆっくり考えてください。時間はたっぷりあるでしょうからな」
ヘンリー・タダヤマは、平然とした様子で契約書をしまいこむと、席を立ち、出口に向かった。
そして不意に振り返ると、
「しかし決断は早い方がよろしいでしょうな。警察は無理矢理にでも貴方をテロリストにしようと、様々な手段を使ってくるかもしれませんからね。
ああそうそう。100億クレジットの請求は、係の職員がふざけて書いたものが間違って提出したものらしく、犯人の職員は、すぐに1年間の減給と1ヶ月の謹慎を食らったそうですよ」
と、意味深な台詞と、嫌みの返しを吐いていった。
ようやく苦痛の時間が終わったとおもったら、まだ面会希望者がいるらしく、ここで待機となった。
しばらくしてやってきたのは、銀河貨物輸送業者組合オルランゲア支部の受付係主任、ササラ・エスンヴェルダだった。
「やあショウン。元気にしてた?」
「ありがたいことに待遇は悪くねえよ」
いつもの感じで挨拶をかわす。
しかし、俺の緊張感は半端ではなかった。
ササラが来たということは、俺に対する銀河貨物輸送業者組合の処分が決定したということだからだ。
「さっそくだけど」
そう口火を切りながら書類を取り出したササラに対して、思わず背筋が伸びる。
「『銀河貨物輸送業者組合は、組合員登録番号SEC201103。ショウン・ライアットに対し、現状維持を表明。
氏が爆破テロに関係するとは考えづらく、かつ、使用船舶の整備不良の事実もなければ、当時は危険物輸送の依頼を受諾していなかったことから、氏に一切の責任はなく、被害者の立場であると認識するものである』
つまりは巻き込まれた被害者だからお咎め無しってことだね」
ササラからの組合の通達を聞き終え、俺は、安堵のため息を盛大についた。
「ありがたいな…」
「実はいろんな所で似たような事が起こってるみたいなんだよね。オルランゲアでは起こってないけど」
そういえば、リュオウ警部達もそのへんを調べていたな。
「そうそう、これ着替えとか色々ね。服とかは燃えたり消火剤で使えなかったから適当に買ってきた。『月のもの』も近いだろうから女性用のも入れといたからね」
ササラは足元においてある、人間1人くらいはいれそうな旅行用トランクをバンバンと叩いた。
本来なら組合からの通達だけでいいだろうに、着替えまで持ってきてくれるのは、なにか魂胆があるような気はする。
「悪いなわざわざ」
「報酬は、でっかいカスタードプリンを5つで」
「わかったよ」
やっぱりそれが目当てか。
トランクを職員に渡した後、ササラは面会室をあとにした。
トランクの中身は職員がチェックし、留置所まで持ってきてくれるのだが…。
なんで軽く笑いながらひそひそ話をしているんだ?
俺はシュメール人だから女性用下着が入っていたところで、世間一般的には別におかしくはないんだがなあ?
ともかくトランクを開けて中身を確認する。
着替えの洋服に男性用と女性用の下着。
タオルに歯磨きのセットに清拭剤。
そして、オオキタ・ソーナのコスプレセット。50㎝ぐらいのおもちゃの刀付き。
それを発見した瞬間、職員が軽く笑いながらひそひそ話をしている理由が解った。
「あのアマ…ん?」
おもちゃの刀を投げ付けてやろうとした時、おもちゃにしては重い。
よく調べてみると、おもちゃの刀の柄の部分に折り畳み式の電磁警棒が隠されていた。
おそらく職員は、オオキタ・ソーナのコスプレ衣裳に気を取られて、見逃してしまったのだろう。
「なんのつもりだよ…」
別に脱走する気はないから不要なのだが、なんとなく持っておいた方がいいと思い、フライトジャケットの懐に隠すことにした。
実際は簡単には持ち込めないとはおもいますが
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