てきとー訳 七法経(仮) ~ 修行は国防戦略だ!?
さて、また上座部系です。かつては小乗仏教と呼ばれ軽視されていましたが、比較文献学の手法で研究された結果、そっちの方がむしろ仏教の原型、つまりブッダ(お釈迦さん)が実際に話したことに、より近い内容なんじゃないかという説が有力になりまして、「原始仏典」と呼ばれることもあります。
(注:宗教は、必ずしも現代科学の学説と一致しなければならないという必要はありませんから、小乗を認めない立場の方もここでは、「そういう主張をする学者が多い」という程度の客観的な話として、つまり結論ではなく学説のひとつとしてお受け取りください。学説は研究の進展によって将来には変わる可能性もあるものです。)
そんな、「出曜経」や「義足経」など原始仏典の要素を含んでいるとされる文献のなかで特に有名なのが「阿含経(アーガマ・スートラ=伝えられるべき縦糸)」であります。
が、膨大な四阿含(長阿含経/中阿含経/雑阿含経/増一阿含経)は、全部を翻訳したらたぶん「三蔵法師」の称号をもらえるんじゃないかというくらいに労力が要りそうな分量ですから(汗)、今回はホンの一部分だけを、勝手な解釈に基づいて「てきとー訳」してみました。
つまり、数百章ある「増一阿含経」のなかの一章であって独立経典ではないのですけども、「七つの方法」をテーマにしていることから仮題として『七法経(仮)』と付けさせていただきました。
……あくまでも仮題です。
「小乗仏教」ですので、仏神菩薩等の助けに頼ることはできず、自分で自分を救わなければなりません。ここで説明されてるのは、その方法のひとつなのでしょう。
ブッダは現代で言うネパール中部あたりにあった「カピラ国(カピラヴァスト)」という小国の王子、日本風に言えば大名の若殿として育ちまして、複数の大国に翻弄される乱世の中で武術や兵法を学びました。若いころには武将としても有能だったらしく、多国間の武術競技会に出たら弓射・格闘・撃剣の三部門で優勝かましたとか、大国の侵略軍に対してほとんど犠牲を出さないまま敵を撤退させたとかの逸話がありました。
その影響なのか、外敵の侵入を避ける兵法に喩えて、心の中に入り込む悪魔(悪意や欲望)を防ぐための心得が説明されてました。
書かれてる修行法にももちろん興味ありますが、ブッダの時代に国防の基本はいったいどんなものと考えられていたのかも気になりますよね……というわけで、はじまりはじまり♪
東晋 罫宝三藏瞿曇僧 伽提婆 漢訳
日本 そこらのど素人 阿僧祇 てきとー訳
増壱阿含経 等法品第三十九 の 四
聞如是一時佛在舍衞國祇樹給孤獨園爾時世尊告諸比丘聖王在遠國治化七法成就……
こう聞いたんだけどさ。
あるときブッダはサーヴァスティ(コーサラ国の首都)の祇樹給孤獨(アナータピンディカ)園にいたんだけど。
そのとき世尊(ブッダの尊称のひとつ)は比丘(出家した修行者)たちにこう言った。
「遠い国に聖王(徳の高い王様)がいてね。国を治めるために『七つの法(方法)』を実現していたから、その国には怨敵や盗賊に悩まされることが無かったんだョ。」
「さて、その七つの法とは何かってゆーとね……
1)
「城壁が高く美しく聳え立ち、よく管理されてて修理や監視が行き届いていた。これが、王様の成し就げてた第一の法だョ。
2)
「それから、城門がとても頑丈で厳格に警備されていた。つまりハードウェア/ソフトウェアともにしっかりしている牢固な門だった。これが、王様の成し就げてた第二の法だョ。
3)
「それから、城の外の堀がめっっっちゃ深くてすっっっげー広かった。これが、王様の成し就げてた第三の法だョ。
4)
「それから、城の倉庫が大量の米や穀物などいろいろ食べものでいつも満ち溢れていた。これが、王様の成し就げてた第四の法だョ。
5)
「それから、城にいろいろな薪や草(燃料と牛馬の食料)もたくさん貯めこまれてた。これが、王様の成し就げてた第五の法だョ。
6)
「それから、城にいろいろな長い武器がたくさんあって、いつでも万一の時には敵と戦えるような武備(武具の整備や、戦術の研究、将兵の訓練など)がされていた。これが、王様の成し就げてた第六の法だョ。
7)
「それから、城主が才能高く聡明で、住民たちの気持ちと情況をよく理解して、ムチ打つべき時にはムチ打ち、褒賞するべき時には褒賞していた。
「彼の城ではこのように七つの法を成し就げていたから、国境を侵犯されるようなことがなく、悪意のある外部の者は勝算が無くて近づくことができなかった……というわけなのさ♪
「ところで……実は比丘の修行もまた同じようなもんでね。七つの法をしっかり実行することで、魔王・波旬(悟りを開かなければ神々でさえ逆らうことが困難な、人に欲望や悪意をもたらす強力な悪魔)に勝手にされないようにできるんだョ。
「その七つの法とは何かってゆーと……
一)
「まずは比丘のみなさん、戒律をしっかり守って威儀を保ち、わずかでもルール違反をやっちゃったら大いに畏れてよく反省すること。これが比丘の成し就げるべき、悪魔を近づけない、城で言えば高い城壁を築いてよく管理し壊れたところはすぐ修理することにあたる、第一の法だョ。
二)
「それから比丘のみなさん、眼で何かの色(見える存在)を見ても、不必要なことを考えないよう、またストレートに受け取っちゃって変な思い込みしたりしないようにすることだ。眼という根(器官、入口)を持っていても、開けっ放しで放置したりせず、眼を大切に護って、入ろうとする情報をしっかりコントロールしなさいな。それは
Ⅰ:色(光)に対する眼
だけではなく、
Ⅱ:声(音)に対する耳
Ⅲ:香(匂い)に対する鼻
Ⅳ:味に対する舌
Ⅴ:触(感触)に対する身(身体、とくに皮膚)
Ⅵ:法(理屈)に対する意(心)
つまり、六つの知覚器官(六根)はすべて重要な入口だ。無制限に情報を外から入ってこさせて心を乱されることのないように、よく根(器官)を護ること。これが比丘の成し就げるべき、悪魔を近づけない、城で言えば城門を牢固に守ることにあたる、第二の法だョ。
三)
「それから比丘のみなさん、よく知識を学んで忘れないようにし、正しい理論/正しい道/正しい教えを常に心に念じて考えるようにし、過去の人が明らかにした知識はすべて知って憶えておくように努力するんだ。これが比丘の成し就げるべき、悪魔を近づけない、城で言えば広く深い堀を造ることにあたる、第三の法だョ。
四)
「それから比丘のみなさん、さまざまな真理から生まれるいろいろな方便(目的を果たすためのいろいろな方法)に基づき、最初も善く途中も善く最後も善い梵行(清らかな行い)を修めて、心身を清浄に保つんだ。これが比丘の成し就げるべき、悪魔を近づけない、城で言えば倉庫を食料で満たしてれば外敵もあえて攻めようとしないことにあたる、第四の法だョ。
五)
「それから比丘のみなさん、四増上心法(?)をよく考え、サボることがないようにするんだ。これが比丘の成し就げるべき、悪魔を近づけない、城で言えばたくさんの薪と草を集めてれば外敵が近づいて来れないことにあたる、第五の法だョ。
六)
「それから比丘のみなさん、四神足(4段階の瞑想方法)を実行して、危険を避けられるようにすることだ。これが比丘の成し就げるべき、悪魔を近づけない、城で言えば戦いに備えた武器や武具を用意することにあたる、第六の法だョ。
七)
「それから比丘のみなさん、隠されてて簡単には知ることのできない真理の世界に入り、十二因縁(苦しみや嫌なことが発生する理屈で、苦しみや嫌なことを消滅させるための基礎理論でもある)をよく認識することだ。これが比丘の成し就げるべき、悪魔を近づけない、城で言えば有能な城主が、要るものを用意し要らないもの捨てるよう正しく判断することにあたる、第七の法だョ。
「もし比丘がこの七つの法を実行していると、神をも恐れぬ魔王・波旬でさえも君という城を攻略することができなくなるんだ。
「だからね、比丘の皆さん。知覚できない隠されてる世界に入り、その原理である十二因縁という真理を求めなさいョ。それを失わなければ、悪魔も心の中には入ってこないからサ。」
と、まあこのように、ブッダが法の学び方を説明したところ、比丘たちはそれを聞いてたいへん喜び、その教えに従ったのでした。まる。
ようするに「抑止戦略」だったようで……現代でも古代でも有効なのですね。
ここでブッダが語ったのは一種のおとぎ噺なのでしょうが、「徳治とは何なのか」「自分を治める(コントロールする)とはどういうことなのか」「一国と一個人の治め方の共通点」などについてちょっと考えさせられてしまう内容でした;
そして「仏教の手法はダイエットの手法と同じ」説に根拠がまたひとつwww
一方、四神足とか十二因縁とかの専門用語については、少し思うとこあって今回は詳細な説明を省略しました。もしご関心あれば、ぐぐるなり、書物を紐解くなり、善智識(教えてくれる人)を探すなりなさってくださいませ~、隠された秘伝ではないので、すぐみつかることでしょう、、、
(^^;A