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「ふごっ!」


モテモテ妄想をしているうちに、いつの間にか寝ていたようだ。

だがその睡眠も体に走ったなんらかの衝撃で阻害される。


(人が気持ち良く寝てたって時になんだよ……)


せっかく寒さに震えるなか寝れたのに起きてしまったせいで、若干不機嫌になりながらもぞもぞと体を動かす。


しかし自分を覆ってるはずの袋の存在が感じられない。寝相が悪くて袋から転がり出てしまったかとも思ったが全然寒いとは感じない。


「あれっ?」


なんだか変だと感じたアイルが目を開けると、そこは見知らぬ所だった。どこかの建物内にいるという事はわかった。


「おお、本当に生きていたのか」


知らない建物にいるのに困惑してると、後ろから男の声がかかった。

振り返るとそこには思わずワオッ!と驚くナイス筋肉を持った大きな男が筋トレしてた。なんで?


ムキムキマンは筋トレをやめるとこちらに近づいてきた。近くで見るとものすごく迫力がある。


「君は今、ここがどこかが一番気になってるだろうから先に言っておこう。ここは兵団(レギオン)、そして俺はそこの団長を務めてる。兵団(レギオン)がなんだかは流石に知ってるだろ?」

「え、ええ……」


ここは話を遮っちゃいけないよなー。『知らないですぅ』なんて言ったら絶対微妙な顔されるし。


大丈夫、俺は空気が読める男だ。

ま、まあ、その兵団(レギオン)ってのは前世で読んだ漫画の冒険者ギルド的なやつと同じようなものだよな? 漫画の知識が意外と役に立ってるぜ。


それにしても、この筋肉ダル……ムキムキマンが兵団(レギオン)とやらの団長と。ひょっとして結構偉い人なのでは?


「なんで俺はここに?」

「ああ、うちの自慢の冒険者達が『宅配便でーす』とか言って俺の部屋に放り込んできてな……『荷物 人間』とか書かれててビックリしたぜ」


なんか複雑。

ちょっと展開についてけない。


ここは助けてもらったと考えていいのか?


「流石にあいつらも死体を持ち込みはしないだろうからな。生きているとは思ったけどお前さん胸板が厚くて鼓動を聞き取れなくて不安だったんだよ」


そう言うと男は豪快に「ガッハッハ!!」と笑い出した。

悪かったな、胸板が厚くて。デブッチョで!


「恰幅のいい姿と汚れた格好から察するに、君は没落した貴族かなんかかい?」

「ちょっと違いますが……似たようなもんです」


そこら辺はあまり触れて欲しくないので言葉を適当に濁しておく。

そうすると俺の『聞かないでオーラ』を感じとったのかこう言ってくれた。


「根掘り葉掘り聞きはしないから安心してくれ。人にはそれぞれ事情があるしな」

「ありがとうございます」


優しい、この人優しいよぉ……

さっきは筋肉ダルマとか言っちゃってごめんなさい!


「礼を言われることではないぞ。それよりも、君はこれからどうしたいんだい?」

「どうしたい……とは?」

「うちの冒険者(もん)が君を勝手にここに連れてきてしまっただろう? 君も野垂れ死ぬことを望んじゃあいないだろう。どうするつもりなのかと思ってね」


『俺は世話焼きなんだ』とその人は笑う。

この人こそ男の中の男だと思う。ひょっとしたら相談に乗ってくれるかもしれない。


「働こうとは思ってたんですけど、俺には得意なこととかできる事は少ないし、太ってることも相まって全部断られてしまいました」


自分で話していても『情けないなぁ』と思う。

生まれてからずっと何してたんだよと過去の自分を問い詰めたくなる。



「ふむ……働きたいという意志はあるんだね?」


男はしばらく考え込んでいたが、やがてそう尋ねてきた。

答えはもちろん、イエスだ。


「あります」

「うん。だったら君はここで働けばいい」


ここというと、兵団(レギオン)のことだろうか?

え、良いの? 俺ついに仕事見つけられたの?


「職を失ったりした人は大抵ここに行き着く。冒険者は年齢身分事情なんも関係なしに誰でもなれるからな。君は元貴族だったようだから『冒険者になるなんて冗談じゃない!!』とかいうかもしれなかったから、改めて確認させてもらったよ」

「え、ここで働いて良いんですか?」

「もちろん! 兵団(レギオン)はいつでも人手不足だから、元貴族だろうが太っていようが、関係なしに俺は君を歓迎するぜ?」


「う……うおおおおおおぉぉぉぉ!!!」


勝利と祝福の叫びだあぁぁ!

これが喜ばずにいられるかってんだ!!


「うははは!! 冒険者になってそんなに喜ぶなんて、お前さん変わってるなぁ! 気に入ったぜ! 名前はなんだ?」

「アイルっていいます! アニキ! あなたの名前も教えてください!!」

「かあ〜! アニキなんて嬉しい呼び方してくれるじゃねえか! 俺はオーウェンバルグってんだ。これからよろしく頼むぜ、アイル?」

「はい! お願いします!」



アイルは幸か不幸か、命の価値が軽い就職先を見つけることができた。




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