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呆然と領地を出てから6日後、王都に着くことになった。
途中で荷台の底が抜けたり車輪が外れてしまったりなどのハプニングがあった。まあだいたい俺の重すぎる体重が主な原因なのだが。御者の方、ごめんちゃい。
『次はどこが壊れるんだ!?』と警戒しているうちにいつのまにか到着していた。退屈な時間がなくてなによりだ。
「あんたといた時間は楽しかったぜ。またいつか会えるといいな」
王都の門を潜った後、お世話になった御者の人は銅貨一枚を指で弾いて俺に寄越してきた。どうやらあの人は俺の事情を知っているみたいで、応援って感じの駄賃としてくれるようだ。
あの人良い人すぎるよぅ……俺が荷台を壊した時も笑って受け流してくれたし。
彼はボロボロの大きな馬車を引きながら人混みへと消えていった。
「俺も将来あんな余裕のある大人になりたいなぁ……」
さて、王都には来たはいいものの、これからどうしようか。
身を寄せる場所もなければお金の稼ぎ口、職さえ持ってない。何か安定した収入源を探さないといけない。でもこんな丸々と太っている俺に務まる仕事なんてそもそもあるのかな……
まあこれからは自由に食事も取れないだろうし、働いてくうちに痩せてくるだろ!
◇
「技術の持っていない子を今入れるのはちょっと……あなたは手先が器用と言う訳でもなさそうだし、ごめんなさい」
コック、散髪、手芸、絵師等それぞれ技術を必要とされる仕事✖︎
「受付? あんたがやったらむしろ客が逃げちゃうだろ。無理」
受付含め客引き、案内系の仕事✖︎
「雑用仕事ねぇ……うちはそういうのは専用の人達に任せてるから。他も雑用は専用で雇ってると思うよ?」
掃除、整備諸々の雑用仕事✖︎
「うふふ……被験者を募集中よぉ〜? あら、あなたはなんだか不健康そうね。健康体を募集してるのぉ〜」
なんだか怪しい実験の被験者の仕事?✖︎
………
王都を舐めてました。この国の中心だもんね。仕事がデブな俺ごときに回ってくる訳なかった。
最後のなんて相当覚悟して行ったのに……!
いやーそれにしても、世の中デブに厳しすぎないかね?
王都の街通りを歩く度に変な目で見られるし、どっかの貴族さんにはクスクスと笑われるし……
いちばん心にグサッときたのは子供が無邪気に『子豚ちゃん!』と言っていたことだわ。あの純粋無垢な瞳で言われたらものすごく傷ついた。
俺は断じて豚と言われるほど太っちゃいないぞ! ポッチャリなだけだ! 身長が低くて横に広がってるように見えるだけで!!
成長期はまだ来るはずだ! 生涯130センチなんてシャレにならない!!
「弟は本当にイケメンな上にスラッとしてるよなぁ……」
今は学園で寮生活を送っているのでここ二年はずっと会ってない。会いたくもないけど……
ノルンは二年前家を出る時まで、デブな俺の事を嘲りなど一切ない目で見ていた。流石に今ではそんなことはないだろうけど、あいつは本当にいい奴だったよ。
嗚呼、そのイケメン成分と太りにくさを俺にもうちょっと分けて欲しかった。ハッハッハ〜
…………
そろそろ現実逃避は止めるか。悲しくなってきた。
「……仕事が無い」
アイル、王都生活1日目で路頭に迷う。笑えねー……
仕事しながらダイエットして痩せてこうと考えてたけど、考えが甘かった。痩せてからじゃないと仕事ができない!
クッソ! このぽっちゃりボディ、標準体型になるまで一体何ヶ月かかるんだよぅ……!
「とりあえず今日は仕事探しを諦めて宿を取ろう」
今の季節は秋の終わり、もう少しで冬が来る。
日もとっくに暮れて寒風が強く吹いている。表通りに人の姿はほとんどない。
防寒用に毛布とかを持ってこなかったのは失敗した。今着てる服は長袖とはいえ厚みがない。予備で持ってきたもう一枚も重ねてきてるけどそれでも寒く感じる。
とりあえずは部屋で見つけたミニダイヤを売った金で寝床を確保しなければ……!
俺は急いで王都の換金所に走っていった。
ーーーーー
「なんだこりゃあ? こんなおもちゃを買い取る訳ないだろうが」
「……」
一喝。
俺が持ってきていたものは全て、ただのおもちゃだった。
「ノオオオオオ!!!」
俺は王都の綺麗な夜空に向かって咆えることになった。
所持金 銅貨一枚、日本円で50円ちょっと
持ち物 食べ物ちょっと 大量の玩具