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西の山道から外れた中腹にある林を歩く一つに集団、厳つい格好をした彼等は麓にある村々から食糧を強奪して今は帰還している最中だった。
「今日も大漁だったなぁ」
「あんな小せえ村でもこんな溜め込んでるとは思わなかったぜ。都の近くに越してきたのは正解だったな」
「早く帰って酒が飲みてえ」
村を襲って食べ物を奪った彼等はゲラゲラと笑いながら食糧が入った袋を担いで帰路を歩き続ける。
「そういえば一足先に帰った3人はどうした?」
「さあ? 戻ってこないってことは向こうで宴の準備でもして待ってんじゃね?」
「今頃お楽しみ中か?」
「かもな」
辺りはすっかり暗くなり、灯としてカンテラを持つ山賊。彼等の大きな話し声と、闇夜で目立つ灯を点けていた事が化け物を呼び寄せることになった。
「やっと見つけた」
◇
ーー2時間ほど前のことーー
「う〜〜〜ん……」
俺は今非常に困っている。
さっきまで『残りの山賊たちを殲滅してやるぜ』と息巻いてたわけなのだが、わざわざ自分から探しに行かないで洞窟で待機してれば良かったかもしれない。
「この木……さっき見たような……」
絶賛迷子中だった。
「くう……せめて方位磁石のような方角が知れる物があれば……まさかここで俺の方向音痴性が発揮されるとは思わなかった」
さっきまではただ上へ上へと進めば良いだけだったので迷いはしなかった。だがしかし、特定の地点を目指すとなると話が違ってくる。
アイル自身は真っ直ぐに進んでいるつもりでもそれを阻害する木々でどんどん方向がずれていき、結局同じところをぐるぐる回る羽目になったのだ。
「幹から伸びる枝が六つの木を左……この木かな? じゃあこっちに行けばとりあえずさっきのところまでは戻れるか?」
木の枝が6本ある木などそこら中にあることに彼自身は全く気づいていない。目印の決め方がメチャクチャ、森やジャングルで木を目印にするなど迷わないほうがおかしい。それを知らない彼はこうしてまた、山の中を迷走する。アイルは前世今世ともに、方向音痴であった。
「おかしい……なぜ元の場所に戻れない。ここ何処だ?」
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「そうだ、道がなければ切り開けば良い。何故もっと早く気付かなかったんだ」
ひたすら前に進もうとしても絶望的な方向感覚のなさに進みあぐねていた俺だったが、天才的な事を思いついてしまった。
『道が無ければ作ればいい。木が邪魔ならば吹き飛ばせばいい』
ーーという事で、現在進行形でハルバードを使い木を薙ぎ倒して進んでいる。文句があるならアイルに言ってくれ。この考えを思いついた発端はそっち側の精神なんだから。
日本人の精神が混じったとはいえ、元の本体はかなりの脳筋だ。冷静な状況判断が出来るようになったとはいえ、本質は変わってない。戦闘狂の気質があるのは完全にその所為だ。屋敷にいた時、武器など持った事はなかったが元からそういう性質はあったんだろう。
ブラック企業勤めの元日本人の心と知性、わがまま放題の元貴族の脳筋思考が合わさった結果がこれだ。『賢い脳筋』、自分で言っててもちょっとよく分からない。
微妙に混ざり合った感じでは思考や心の主導権はユキチ、だが体……というよりは深層心理の奥深くをアイルが握っていると考えてくれていい。
まあお互いの悪いところが消えて良かったじゃない。
俺だって武器を振るって全てを払いのけるようなこの豪快なやり方、嫌いじゃないぜ! なんせ自分なんだからなぁ! HAHAHA!
「よし、このまま全速前進! 山賊はブチのめす!」
俺は笑いながら大自然を破壊し続けた。
◇
結局山賊を見つけられないまま、日が完全に沈み山は暗闇に包まれた。
「くらい……何も見えない」
歩く足を止めて辺りを見渡す。自分の手も見る事ができないような暗闇の深さで、月明かりなども林冠で阻害されて入ってこない。光源を持ってない俺はどうすることも出来なかった。
「ヤバイ……ジンのこと馬鹿にできないぞこれ……笑いながら自然破壊してる場合じゃなかった」
今頃気づいたところでもう遅い。
『夜の山は道もわからず迷う危険性が大いにあり危険なので無闇に歩き回るのは絶対にしてはいけない……』と何かの本に書いてあった記憶がある。だけど……
「すでに迷ってるしな……前提として間違っている俺は条件に入らないので歩き回っても問題ないのでは?」
開き直るしか道はなかった。
このまま朝までじっとしてることなんてできないし、歩いてたほうが暗闇の怖さも薄れる。
俺の辞書に『静止』の文字はない。
「動きに変更はなし! 目標、この瞳が光を映すまで。灯を求めて出発だ」
木に衝突したり足を引っ掛けたりしながらも、そのまま前へ歩き続けた。
そこからは簡単だ。
真っ暗闇の中を何も見えない状態でゾンビのように彷徨い続けた俺がカンテラが灯す光を見つけ獣のように接近した。そして……
「誰だてめえコラァ!!」
山賊と遭遇したという訳だ。
嗚呼、いい! 大勢いる人間、辺りを明るく照らすカンテラ! 安心感が沸いて涙出ちゃいそう。30分以上何も見えない、自分が歩く音しか聞こえない、怖さを紛らわすために歌ったカエルの歌が森で虚しく反響するあの孤独感!
正直、めっちゃ怖かった。
これからは絶対に夜の森は一人で歩かない。
恐怖から解放されたことで一人涙を流していたが、今はそうも言っていられない。なんせ山賊が罵詈雑言を吐きながらこちらに向けて鈍器を投げつけているから。これ以上素知らぬ顔で飛んでくる物を避けたり掴んだりしながら対応していると、激怒しそうだし。
とりあえずキャッチした鈍器を適当な人の頭部めがけて返品してやる。ゴスリと変な音がして男たちが倒れていく。気絶する、もしくは頭を抱えて転げ回るかのどっちかだ。やっておいてなんだけどすごく痛そうだった。
ようやく暴れられる時が来た。ずっと見つからなくて少しイライラしてたんだ。彼らには私のサンドバッグとなり、ストレスを少しでも無くしてくれることだろう。
さあ年貢の納め時、断罪の時だ。その雁首地面に並べてやろうか。




