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死んでから何日経っているのだろうか。

ひどく乱れた服装から覗く肌は一部薄茶色になっており、死の直接的な原因になったであろう傷口には蛆のような小さな虫が蠢いていた。

うつ伏せに倒れている為顔がどうなっているかは見えなかった。だが土に塗れた服装を見ても、戦いとは縁のない人間である事は疑いようがなかった。

何か乱暴された形跡があり、生まれて初めて見た人間の死体はかなり悲惨な状態であった。



「………」



惨憺たるそれを見下ろす俺の心を占めたのは、罪の無い人が殺された事による怒りなんかではなく、彼女の出来事に自分を重ねて悲しくなったわけでもなければ、死体や山賊への恐怖でも無い。



何もない。何も思わない。

『人が死んでる』という事実を認識して、ただそれだけ。空っぽで空虚な心が自分の本質なのだ。


知らない誰かのために怒れるような正義感の強い人間ではないし、上辺だけの同情で悲しみを覚えるなんて論外だ。

恐怖に至っては前世だったら悲鳴の一つや二つは上げてたかもしれないが……記憶や意識はこれでも、体はこの世界の人間なんだな。少しビックリしただけだった。



他の冒険者(みんな)はこんな俺を冷たいと思うだろうか。

こんな死が身近にある世界では他人の死なんていちいち嘆いてなんかいられない。次に死ぬのは自分かもしれないから。


冒険者なんて特にその傾向があるから、誰も俺を非難したりはしないと思う。少なくとも、俺の知る限りは。


「……」



俺はうつ伏せに倒れている女の死体の前に跪くと、そっと手を合わせる。


これからどんどん日が傾いていき辺りは暗くなる一方だ。時間がないので埋めてやる事も身を清めてやる事もできない。しかし顔も名前も分からない人だが、これくらいはしてもいいだろう。



この世界に極楽浄土や天国の認識があるかは分からないが、この人の魂がせめて良い後世を送れるよう祈ろう。



「……よし、行くか」


連中を野放しにするわけにはいかない。こんな非道な行いをした奴等は全員、成敗しなければこの人の魂も救われないだろう。



30秒ほど手を合わせた後、俺は武器を持って再び歩き始めた。





死者の冥福を祈ってさらに30分後、反り立つ岩壁の一部に怪しい洞穴を見つける。


其処は入ってみると、洞穴の中央付近に焚き火の跡を見つける。誰かの生活をしていたのが伺え、焚き火の跡が新しいことから今もなお居住者がいると推測できる。


洞穴を幅は少し狭いが奥行きがかなりあるようだ。あちこちに物が散乱しているところから一人ではなく複数人の団体でここに住んでいるはずだ。それもかなりの数が。


「情報だと最低12人と言っていたけど……こんな広い洞穴で12人はないだろう。30人は入れそうだぞ?」


最低という言葉はついているのでそれ以上いてもおかしくはないが、こんなに数が違うものだろうか。ここが山賊の寝ぐらだとしたら奴等は外出中なのだろうか。一応注意はしながら進む。


奥の方に進んでいくとたくさんの武器類が転がっている。錆びたナイフ、折れた剣、柄がへし折られたであろう、持ち手部分が異様に短い槍などなど……壊れて使えない物騒な武器が乱雑に放置されている。


ただの狩人にしてもこの数はない。山賊説がいよいよ濃厚になって来た。



「何か証拠になる物はっと……」








「おい、誰かいるのか」



入口の方から男の声がした。

瞬時にその場から飛びのいて物陰へ移動する。密偵、諜報活動を中心に活動する人達から音の立てない移動を聞いておいて良かった。


しかしなぜバレたのか。

ここの洞窟の地盤は固いから足跡など残らない。痕跡も一切残してないはずなのだが……なぜだ?



「どうしたんだ、侵入者でもいるのか?」

「気の所為かもしれんが……奥から人の気配がした」

「女共じゃねえのか?」



……どこにでも勘が異常に鋭い奴は居るものか。

聞こえてくる声は三つ、会話からして山賊なのは間違いない。


状況は最悪だ。

ここは洞窟内だから大きなハルバードは振り回すことが出来ない。もし無理に使って壁を傷つけて落盤などしたら目も当てられない。


俺が自由に戦えるためには一旦、外に出なければならない。



「どうする……こっちから行くべきか?」


格闘術が山賊3人を相手に通用するのか。不安はあるが、このまま何もせず奥に入ってきてさらに状況が悪化するのは避けたい。

まだ入口付近にいる3人をぶっ飛ばして外に出る。これで行こう。なんとも単純明快な作戦?だが、俺にもっと緻密な作戦を求められても困る。


曲がり角から頭を半分だけ出して様子を見る。

山賊たちはさっきの男の言葉に不安を抱いたのか誰が先行するのかもめている。『お前が見に行けよ』とか『女だと思ってるならおめえが行け』だの、役割を押し付け合ってる。


3分くらいもめていたが、結局俺の存在に気づいたあの男が確かめ作業に来るらしい。ため息を吐きながら大広間を歩いてこちらに向かってくる。


広間なら幅が広いから双剣くらいなら使える。チャンスは今しかないだろう。腰に携えた双剣をゆっくりと抜くと構える。



俺は曲がり角から躍り出ると、やる気のない顔で歩いている男に全速力で肉薄する。



「うえ?」

「死ね」



呆けた顔の山賊の腹に凶刃を突き立てるともう一本を首筋に添える。その場をジャンプする。男の首と体内を支点に一回転、男の体を跳び箱の様に飛び越える。


後ろは見てないが、男の体が倒れる音と双刃にベットリと付いた血が初めての殺人を教えてくれた。何だかあっけないものだ。


道化師(クラウン)連合の方々が頭にナイフを刺して魔物を殺しながらそれらを足場に他の魔物へと飛び移り同じように殺していく……『空中殺法』という絶技を見せてくれたのだが、それを少しだけ参考にさせてもらった。



男に肉薄した際、もう少し武器を取り出して反撃してくるかと思っていたのだが……まあ戦闘技術を教えてもらっている王都の冒険者の皆様方のレベルが高すぎるんだろうなぁ。


日常的だと結構バカで阿呆な彼等だが、冒険者としてのレベルは高い人ばっかりだから。それらに教鞭を振るってもらっている俺も、一般人からしたら結構強かったりするんだろうか?


双剣に付着した血を払うと鞘に収める。後でちゃんと磨いてやらなければ。業物なんかではなく、ただの鉄でできた剣だが、どんなものでも大切に扱わなければならない。



「さて、と……」



俺は入口付近の二人を見やる。二人はなんだかフリーズして動かなくなってる。もっと『テメエエエ!!』とか言いながら突っ込んでくるかと思ったんだけど……日本の漫画とはお違う!?


厨二心が萎んだ代わりに、()る気は上がってきた。あんな無防備に突っ立ってる二人は攻撃してくれと頼んでいるようなものだ。


俺はさっきと同じように移動して懐に入り込むと鳩尾に勢いをつけた強烈な蹴りをお見舞いする。


「びげえ!」



変な声を出すと口から血の混じった吐瀉物を出しながら外へと吹っ飛んでいった。少し強く蹴りすぎたのか、木を薙ぎ倒しながら見えなくなったんだけど……まあしょうがないよね。


「こいつらの悪行は目に見える形で知っているんだ」

「ひい!?」

「手加減なんて必要ないな」


もう一人の頭を掴むとそのまま地面に叩きつける。強固な頭蓋骨がバキバキに割れる音がした。脳まで潰してしまったのは予想外だった。おかげで手が血で真っ赤に染まっている。


小鬼(ゴブリン)で日常的に人体破壊をしていたから気持ち悪いとは思わない。手を洗いたいとは思うけど……



俺は後ろを振り返って双剣で斬りつけた男を見る。仰向けに倒れた男の首からは今も留めなく血が流れ出ている。円状に広がっていく血の海を見ても別に平気だ。こういう奴らなら心は傷まないし、殺しに慣れるには確かに良いかもしれない。


置きっ放しにしていたハルバードを手に持つと残りの山賊を探しにもう一回歩こうと思う。ここにいればいずれは帰ってくるかもしれないが、狭いところよりかは開放的な場所で闘いたい。



「そういえば行方不明者を所在を聞くの忘れたなぁ……まあ他の奴らに聞けばいいか」



頰をぽりぽりと掻きながら、ハルバードを持った死神は歩き始めた。






※グラブル5周年〜 フ〜!




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