閑話 とある子爵令嬢の独り言
私にネーミングセンスは期待しないでいただきたい
ある豪華な館の一室、派手な装飾で飾られたその部屋に私はいる。
「うふふ、明日は待ちに待った舞踏会……」
私は思わずクスクスと忍び笑いをする。周りの侍女達は全員出払っているから誰にも気づかれる心配はないのだけれど。
王子からの招待で招かれる事になった舞踏会。
明日で私のこれからの運命が決まると言ってもいいもの。
「今まで私自身も驚くくらい上手く展開が運んで来てるわ。絶対に明日で決めてみせる……!」
王族主催の舞踏会には子爵の私なんかがお呼ばれされることなんて、普通はあり得ないこと。でも、私は頑張って王子直々に招待されるまでになった。
ゲームで覚えた知識と言葉選びで、今のところ私はゲーム通りの展開で事が運んでいる。
王子からお招きされた時点で私は勝ったも同然!
明日で確実に彼の方のハートを射止めて……プロポーズさせてみせる!
◇
私の前世は小鳥遊 歩鳥、16の高校生だった。
そして今はライバーン子爵家の令嬢、レミーエ・ライバーンを名乗っている。
前世の記憶が蘇ったのはだいたい三年前。美しく上品な歩き方をしようと無理をしてスリッパで足を滑らせた結果、テーブルに後頭部を強打した事で思い出した。
すなわち、この世界は前世で好きだった乙女ゲームの世界そっくりだという事! そして私はその乙女ゲームで攻略キャラをキュンキュンさせる主人公だという事を!
十代から三十代の世の女性達に波を起こしたこの乙女ゲーム、『略奪愛 〜〜イケメンを奪い取る令嬢〜〜』という……すんごい名前をしたこれはタイトル通り、婚約者のいる殿方を籠絡させて奪い取るという略奪愛をメインとした鬼畜ゲーだった。
もちろん婚約者のいないフリーの男性と結婚するルートもいくつかあるとは言え、それを押しのけて略奪愛をプレイヤーにやらせようとするあたり、運営の(悪い意味での)凄さが伺える。
発売を開始した瞬間からたくさんの非難や批判の野次が飛んだ。略奪愛なんて日本とか関わらずに常識で考えていけない行為だからね。無理はないなと思った。
ネット上に晒されて、ツイ◯ターでネタにされたり色々な苦汁をなめる事になったその乙女ゲーム。これからどうなるんだろうと野次馬気分で私は動向を見守っていた。
このまま販売中止になるかと思われたこの乙女ゲーム、しかしネット上で散々飛び交っていたヤジは一週間ほどで完全に収束する事になった。
乙女ゲームは販売中止直前まで行ったようだが、結局その動きもなくなった。
何故か。
理由は簡単、みんなそのゲームに夢中になってしまったから。
お祭り騒ぎで担ぎ上げられいた頃、何人かのプレイヤーが興味本位でその乙女ゲームを実際にやってみた所、どハマりしたらしい。プレイ動画をユーチ◯ーブにアップしたところ再生回数はうなぎ登り。最初は批判のコメントと悪評価が混ざっていたが、やがてその悪評を上回る速度で高評価と女性達の黄色いコメントで埋め尽くされた。
世の女性達をあそこまで虜にさせたモノは何なのか。
それはあまりにも酷すぎる題名からは、想像もできないようなゲーム内容にあった。
有名な演劇グループの考えた感動の話。天才イラストレーターによって描かれたキャラクター達。豪華声優陣による生ボイス……
他にもたくさんの魅力が詰め込まれている事がわかったこのゲームに、日本の若い女性達はハマってしまったのだ。
そして私も魅了された女性の一人!
流れに任せて買ってみたらもうスゴイの……こんな良作なのになぜ駄作臭あふれる題名になったのか……
まあ私の涙を流した事情はさておき、その乙女ゲームにおいて様々な美男子を魅了するのがこの私、レミーエ・ライバーン子爵令嬢!
まだ歴史の浅いライバーン子爵家の一人娘、前世の記憶が戻った時は13歳にして子供とは思えない美貌を持つ。肩下まで伸びる長い黄金色の長髪に、透き通った青色の目。白い健康的な肌にスレンダーな体つきをしている。
まさに美少女! さすがゲームの世界というべきか……日本だと絶対お目にかかれない美しさをしてる。ゲーム内では純朴で清楚な人格として作られていた。略奪しといて純朴なんていうのも変だけど。
前世は運悪くトラックに轢かれて早々に死んじゃったけど、せっかく好きだったゲームの美少女主人公として生まれ変わったんだから! 好きなようにやっちゃって大丈夫よね?
なんたって、この世界はゲームでしかないんだから。
「あと一歩であのハンサム王子を落とせるところまで来てるし、明日の舞踏会は絶対に成功させてみせるわー!」
元から『乙女ゲーム』の設定は考えたんだけどね。
あくまでこの設定はおまけです。だって本人気づいてないし。乙女ゲームなんてやったことないから詳しい設定とかどうすればいいか分からないし。




