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「あ゛ぁ ^ 〜! 気持ちいいなぁ〜↑」


「……何ジジィクセェ事言ってんだよ。お前まだ15の子供だろうが」



なんだとぅ、このお湯に浸かる気持ち良さとありがたさが分からないと言うのか? 程よい暑さのお湯が俺の体の中の老廃物を浄化されていく感じだ……


この世界では貴族とかの身分の高いやつは別として、俺たち冒険者や平民は風呂なんか入れずに冷たい水を頭から被って体をゴシゴシ洗うだけだ。湯船になんか入ったりしない。できない。



元日本人として……否、社畜時代の唯一の楽しみであったお風呂にこの世界で再び入れる日がこようとは! 嬉しくて涙が出ちゃう。



「今度は泣いてやがる……アイルって情緒不安定だよな。怒ってると思ったらいつのまにか喜んで、喜んでたかと思ったら今度は泣いたりよ」



隣のおっさんが小言を言ってくるが、今の俺にはそんなの聞こえない。


この温泉はスパイダーフォレストを倒した後、街に戻って無事に依頼達成(クエストクリア)の報告を入れたら町人が感謝の気持ちを示してここに入れてくれたのだ。


別に海に近いわけでもないのに……源泉でも掘り当てたのか。地下鉱脈に源泉があったとしてどうしてスパイダーフォレストが地下で暮らせていたのかは謎だが。


まあそんな事を今更考えてもどーしよーもない。

今はこの温泉の感謝だよ。かなり久しぶりにいい気分だ。やっぱり風呂は最高だよ。



「……悪かったな」

「ん〜?」

「お前とジャンヌの嬢ちゃんを危険な目に合わせちまった事だよ。本当は討伐なんかしなくても観察だけでも良かったんだ。それを俺がお前たちに良い顔見せたいからって調子に乗っちまって……」


ジンは良い人だなぁ。


「俺は別に気にしてないよー? 人間なんて間違いを犯すのが当たり前だし、その失敗を元に次を成功させるかなんだよ。ジンはちゃんと自分の間違いを認識してるし、素直にそれを謝れるジンは凄いと思うな」

「そうは言っても……お前には無理をさせてしまった」

「ジンの計画性のなさは元から知ってたし、それを知っててむざむざついてきたのは俺だよ?俺のことに関してはお前が責任を負う必要もないし、考える必要もない」



ジンがアホって事は周知の事実。あんな奇天烈な作戦を立てるのを見ただけですぐに分かった。何となく危なくなりそう〜って事は自覚してたし。


「ジンが考えるべきはべラルゴやモモ達パーティメンバーを命の危機に晒した事でしょう? 仮にも一パーティのリーダーやってるんだし、みんなの命はジンが預かってるんだから」

「あ、ああ……」

「月並みの言葉しか言えないけど、これから変えて行けば良いんだよ。俺たち冒険者は死んだら終わり。だけど生きていればまた次がある。次は死なないようにするにはどうすれば良いか。自分に足りないものは何なのか。ジンの場合はーーーまず何かしらの作戦を立てるところから始めたら?」


ジンは戦闘力、リーダーとしての統率力は秀でているけど、計画性のなさ……言っちゃえば脳筋なのが玉に瑕だ。

何もわからずがむしゃらに突っ込むだけじゃなく地形、距離、相手の情報……それらを少しでも知ってるだけでだいぶ違う。


現時点では(・・・・・)ではBランクが精々な彼らだが、そこを変えるだけでAランクに行ける素質が存在する。このままBランクで終わらすにはもったいない人材だ。



「一気に何かを変えようとしなくても良い。少しずつで良いんだ。少しずつでも何かを変えていくことができれば、それはいつかきっとジンを助けてくれることになるから」



これは何にだって言えることだ。

勉強、ゲーム、運動……人生にだって言えるのかな? ゲームとか勉強は分かりやすいだろう。ゲームは『ここで死んじゃったから次は気をつけないと〜』みたいな感じで、勉強は『成績が伸びないな〜勉強方を変えるべきか、得意科目、もしくは苦手科目を優先するか』みたいな感じだ。


人生だって同じだ。

ただ規模が大きすぎて、その間違いを直すというのが大変かもしれないけど。


「クク……」

「? 何笑ってんだ、気持ち悪い」

「まさかアイルみたいなガキにこんな事を諭されるなんてな。これが笑わずにいられるか!!」


療養中という事で特別に長湯を許してもらっているのに、そんなにバカ笑いしたらまた傷が開くんじゃないか? 人の血が混じった風呂になんて浸かりたくないんだけど。


この風呂は野外に設置されており、壁を作ってあるとは言え天井はない。なのでジンのうるさい声も外に丸聞こえなわけで、『静かにしろ!』と外の誰かに怒鳴られる羽目になった。


怒鳴られてジンは大声を上げるのはやめたが、それでもクックックと小さく笑っている。本当このおっさんはどうしてしまったのか。


「アイルは本当に子供らしくないな。最近は貴族だったって事を疑っていたがぁ……今じゃあお前が本当に子供かも疑わしいぜ」


煩いやい。

俺は精神年齢が40歳なだけで、肉体はピッチピチの15歳だぞ。


精神年齢からすると二十代後半のジンだってまだまだ若者に感じられる。ブラック企業に就職し、ジンくらいの年で死んでしまった人生の先輩からの助言だ。心して聞くべきなんだぞ。


「少し自分を見直してみるか……あいつらの為にも」

「お、よくぞ言った。新たな決意を胸にしたジンくんに一ついい事を教えてやろう」

「いい事?」


月並みの事しか言えない俺だが、この言葉がジンを少しでも変えるならーー


「知ってるか? 人は死ぬまで成長する生き物なんだぜ」

「……は! そんなこと知ってらぁ!」



ーーー俺は彼がこれまで以上に立派な冒険者になる事を祈ろう。






間違いを見つけては正していく。

人はそうやって死ぬまで成長をする。



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