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この手の話は苦手だ




スパイダーフォレストの頭蓋を砕く。

硬いものがバキバキに壊れていく音は非常に気持ち良い。


頭に宝刀の刺しっぱなしのまま、俺は膝をつく。

もう……。動けない。



頭を両断したから大丈夫だと思うけど……ゴキ◯リみたいに頭を切断してもしばらくは動くなんて事ないよな……?


俺の心配は杞憂で終わる。スパイダーフォレストの足から力が抜け、ドスンと倒れたのを確認した。

よかった…倒せた。本当に倒せたんだ……



「はぁ……ーーはっあぁ……」



討伐証明部位を……頭? 頭を持って帰ればいいのか……?


ああ、視界が霞んでる……ゆらゆら揺れてきた。

俺の頭が物理的に揺れてんのかな。



ダメだ。まずは止血を……

いやそれよりも酸素が、呼吸できない。



スパイダーフォレストを倒してから一気に負荷がきた。

元から結構傷ついてたのにあんなに動き回れば……こうなるよな。



苦しい。息ができない。

痛い。苦しい。眠りたい。



べラルゴは大丈夫なのかな。避難してるとはいえ溶解液で溶けてないか心配だ。

リノンはちゃんと隠れてるのか……? 前線で戦ってたから分かんないや。


俺は、死んじゃうのかなぁ……



ジンと……ジャンヌは?

本当に死んじゃったのか……喰われちゃったのか?



気づくのが遅かった……

もっと早く意識が戻っていれば、ジャンヌを大切な存在だと認識していれば……



せっかく見つけたのに。



「ジャンヌーーーーー………」






















「あ、アイル……?」


声が、聞こえた。

それはまぎれもない……


「ジャンヌ……」


グワングワンしていた頭の痛みが驚くほどピタリと止んだ。

10時の方向から聞こえた声につられて顔を向けると、怪我なんて全くないように見える五体満足の彼女がいた。



「は、はは……生きてーーたのか」



「ーーそうか。生きていたのかよ」



ジャンヌは、死んでなんかいなかった。

単なる俺の早とちりか。姿が見えないから喰われたと思ってたが……単に避難してただけだったのか。俺は何でもかんでも気が早いな……


恥ずかしさと嬉しさと、安心とほんのちょっぴりの恐怖。

いろんな感情が入り混じって、なんだか気持ち悪い。



「……なによ、私なんか死んじゃえって事なの!?」

「違う……さ。普通に生きていて嬉しいんだよ。ジャンヌはーーー俺の大切な人なんだから」

「そ、そうーーなの?」



ここまでストレートに言ったのは初めてだなぁ。

顔を赤くしてやんの。


初心だね。ジャンヌらしいっちゃらしい……か。



「ねえジャンヌ。ジンはどうなったか、知ってる?」

「ジンさんなら私が安全な場所まで運んどいたわ。彼、なかなか重たくて苦労したのよ」

「……そっか。じゃあ生きてるんだ」

「ーーーうん」



「アイル? 戦いは終わってる?」

「リノン……!」

「もう倒したの。そう……じゃあ言わせてもらうけど。モモのヒップアタックを顔に入れたのはワザと? 私のいるとこに、顔面を狙って!投げたの?」



出てくるや否や、文句を叩いてきたのはリノンだった。

彼女の肩には俺がぶん投げたモノ……げふんげふん。モモが寄りかかっていた。彼女に意識はないようで、完全にリノンに体重を預けることになる。魔法使いのリノンにその状態は酷だろう。


よろりと立ち上がると、モモを受け取り地面に優しく横たわせた。

呼吸は安定、大きく出血してる箇所も見られない。恐らくモモも無事だ。投げた先に偶然リノンがいたのは奇跡と言っていいだろう。


べラルゴも傷だらけのジンを背負ってやってきた。

重装(タンク)として一番多くの攻撃をもらっているはずなのに人一人担ぐ余裕があったとは……彼のタフネスには恐れ入る。


ジンは俺と同じで外傷が酷く、切り傷、擦り傷などでたくさん血が出ていた。すぐさま携帯していた包帯で出血を止めて安静な状態にする。

俺もジンと似たような怪我をしていたので緊急手当のお世話となり、べラルゴに腕や足などは全て包帯を巻かれた。


ジンは一時危なかったらしいが、生命力がゴキブリ並みのジンだ。きっと彼は目を覚ますだろう。




ーー俺は恵まれているな。

誰かが死んでいてもおかしくない、一歩間違えれば全滅もありえた今回の出来事。誰かが欠けていてもしょうがないと思ってた。


それが各々傷を負っているとはいえ、誰も死ぬ事なく終わったのだ。



ーー生きていることに感謝しなければ、ならない。



……フラッ!


「あ、アイル大丈夫!?」

「ちょっと眠いだけ……しばらく寄りかかっていい?」

「まあ……特別に」



疲れたなぁ……


生きてたから良いけど、街に戻ったらジンに少し説教しなきゃ……

これから二度とこんな無謀なことをしないように……



「あ、ちょっと! さりげなく胸触ってんじゃないわよ!」

「はて……無いものに触れるとは? 哲学的問題を問いかけているのかな?」

「ぶっ飛ばすわよ」



不穏な言葉を吐きながらも、そんなことをしてくる気配はない。

流石のジャンヌも怪我人に暴力を振るうような事はしないみたいだ。



「そもそもジャンヌよ。胸に手が当たったとはいえ、それをセクハラ扱いするのは如何なものかと思う。被害妄想が過ぎるのでは?」

「過去の自分の行いを省みなさいよ。そうすれば自然と答えは出てくるわ」


「俺は紳士な行いしかした覚えはないね」

「アイルの自分に一切の疑いを持ってないところだけは見習いたいわね」

「ジャンヌは自意識過剰だよ。そんなに人をセクハラ扱いしたければだな、そんな真っ平らな平野じゃなくてもう少し男心を魅了するような立派な双ーーゲッフゥ!!」


「誰の胸が真っ平らな平野ですってぇぇ!!!?」



ジャンヌの右ストレートパンチが俺の左頬にクリティカルヒットした。3メートル近く吹っ飛んだけど、ジャンヌってこんなに力強かったっけ?


……訂正。ジャンヌは怪我人だろうとなんだろうと、嫌なことがあればすぐに拳を振りかぶる。まあ今のは完全に俺が悪かったけれど。



ああ、でもこれだよ。こういう感じが好きなんだ。

軽く冗談を言い合えるようなふわふわした存在はジャンヌしかいないんだ。




………冗談が過ぎると生命に危機が及ぶのが残念な所だけど。


おむねの話題はNGだったようで……悪鬼の形相をしながらこちらに近づいてくるジャンヌから匍匐(ほふく)前進で地面を這いずりながら逃げようとするもーーー


「ア〜イルゥ〜?」

「ヒイイイイイ!!!」


……逃げられるわけないよね。


今まで聞いたこともないような優しい猫撫で声に、思わず悲鳴をあげる。

ジャンヌさんは超がつくほど怒な様です。


襟首を掴まれて強制的にジャンヌと相対した俺が見たものは……顔は満面の笑みを浮かべてるのに、全く目の笑っていないジャンヌだった……





顔面をタコ殴りにされて分かったことは、彼女の胸が発展途上だという事でした。

まる




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