33
長期戦は無理。とっとと仕留めるに限る。
足に力を込めて壁から飛び立つ。地上では不利なら上から叩く。
ガンガンガン
いったいどんな硬さの生物の脚と金属が打ち合えばこんな鈍い音が出るんだろう。こちらに仕向けてきた3本の脚を宝刀で打ち合う。
ハルバードよりは軽いが左右線対称なで重心が真ん中にあるために振り回しやすい。速さが出るな。
適当に弾いている様に見えるかもしれないが、俺は何でも適当に振り回してるわけじゃない。実はそれぞれの脚を特定の部分に宝剣を当てて集中的に弾いている。これは戦士が対人戦で使う武器破壊のやり方と同じである。
武器の動きを見切るだけじゃなく、特定の箇所だけに攻撃するなんて生半可の技術ではできない……が! 神速の様な速さで木刀を振り回すアニキの相手をしていれば、自然と動体視力は上がりに上がる。どうやったら『ボボボボン!!』と振り回すだけであんなすごい音を出せるんだろうか。
研究対象の一つである。
「ラァ!」
脚の一つが関節を逆に曲がって折れた。痛そうに叫び散らすスパイダーフォレストを見ると思わず口角が上がってしまう。
散々痛みつけてくれたんだ。脚を一本折る程度じゃ飽き足らない。もっとだ。もっと無様に鳴き叫べ。死を以って償うといい。
体を回転させて遠心力を高める。足の外側、くるぶしでスパイダーフォレストの頭に回転蹴りを放つ。やっぱり脚とか体の外殻に比べると柔らかい。肛門狙いでケツに蹴りを入れた時は鉄の柱を蹴ってる感じがしたからな。あれに比べたら形が少し変わった頭はブヨブヨと言えるだろう。
一応頭を地面に埋没させる様に全力で踝落としをしたが、8本……いや、1本折れてるから7本か? 7本の筋肉質な足で見事に耐えられてしまった。自信なくすなぁ……
「シッ!」
動きの止まったスパイダーフォレストの懐に潜り込むと真上の顎に踵を入れる。女冒険者による地獄の柔軟体操でお陰で開脚は150°まで可能だ。
俺の足に支えられ丸見えとなったスパイダーフォレストの顎に宝刀をブスリ。顎下を貫通して凶悪な口の中まで到達した様だ。
「おら、どうだ? 痛いか?」
貫通した宝刀を手先でグリグリ回転させる。激痛が体を走っているのかのたうちまわっているが、そうする度により深くより抉れていく。真下にいる自分には当然スパイダーフォレストの体液が降りかかってくる。血まで黒いのか。汚い。吐き気がする。
宝刀を抜くと壁まででんぐり返しで後退する。傷が広がって痛みで暴れるスパイダーフォレストに冷たい視線を送る。とっとと冥土に送ってやらねば。
頭から垂れてくる血と奴の体液。二つの液体が混ざり合って気持ちの悪い色と匂いがするが気にしていられない。目にかかっているそれを拭うと一緒に、宝刀を払って刃についた黒の体液を飛ばす。地面に細い黒線が引かれた。
次は目を潰す。
相変わらず痛みで叫んでいるスパイダーフォレストにゆっくりと近づく。そして顔の中央にある二つの大きな目の片側に思い切りヤイバを突き立てた。
体を揺らして俺を振り下ろそうとするがそうはさせない。顔面に生えてる産毛をガッチリ掴んで離さない。俺を引きずり降ろそうとしても産毛が抜けるだけだ。
目を潰されて痛かろう。安心しろ、すぐに全ての目を串刺しにしてやるから。その目の痛みなんてすぐに消えるさ。
深く突き刺さった宝刀を抜くともう片方の大目にもぶっ刺した。3回ほど目の中に刃を出し入れしてやった所、電気ショックが流れたかの様にビクンビクンと悶絶している。そうかそうか。喜んでくれたか。私は嬉しいよ。
シュコシュコとインとアウトを繰り返すうちに、顔は奴の血で真っ黒になってしまっている。視界だけは完全に確保しつつ他の目の破壊作業に移る。ジンがすでに二つ壊してるからあと4つ。半分か。
一つ一つに突き立て&スコスコの刑を行えばかなりの時間と労力がかかるので流石に斬りつけるだけで終わらせるが、これでもうアイツには目が見えていない状態になった。
最も自然界の生き物、魔物なんかは人とは違って視覚以外も発達している可能性があるから、油断はできない。
だが、そんな心配は杞憂だった様だ。視覚情報がシャットダウンされたスパイダーフォレストはパニック状態になり、辺り構わず乱雑に溶解液をばら撒き始めたのだ。俺がどこにいるかわかっていない様で、見当はずれのところを狙っているが。
だがこのまま放っておいたら壁が溶け、地盤が緩くなり崩落する可能性もあった。生き埋めなんて絶対嫌だ。
背後の壁を忍者の様に登る。別にツルツルの垂直に立つ壁でもない限りは、片手だけでも普通に登ることができた。出っ張りがたくさんある壁をよじ登って蜘蛛の頭より高いところまで登る。
急所を突いた攻撃にビクビクと痙攣しているスパイダーフォレスト、次でトドメだ。
壁を足で蹴り宙に出る。両手で携えた宝刀を思い切り振り下ろすために頭の後ろに置く。
何故だか時間の流れが遅く感じられた。集中してるからか、それとも単に意識が朦朧としているからか。まあどっちでも大して変わらないだろう。
今はこの化け物を倒すーーただそれだけだ。
動く気配はない。このまま眉間に叩き込む。
眉間がどこにあるかなんてハッキリとは分からない。とにかく額だ。額をカチ割って頭を破壊すれば……終わる!
「死ね」
余力を振り絞って叩き込んだ宝刀は見事に顔面に食い込んだ。
ピシピシと外骨格にヒビが入る音が聞こえる。
だが顔を両断するには至らない。
しかもスパイダーフォレストにまだ意識がある様だった。
決断。
自分の足を刀の上に添える。
最悪足を失う覚悟でヒビを入れただけで止まりそうになる、宝刀に俺の全体重をかける。
80キロ。そこに高いところから飛び降りたことで重力と運動エネルギーで約2倍もの重量を出した。
足の裏から出血するのが感覚でわかる。
俺がスライスされるのが先か、化け物が両断されるのが先か。
バキバキバキ!
勝利の女神は俺に微笑んだ。
全体重をかけた攻撃は頭部のの外骨格を完全に破壊、剥き出しになった黄色い生身に宝刀が突き刺さる。
やっぱ信じられるのは自分自身だ。
この時、生まれて初めてデブで良かったと感じた。
〜〜恨み節〜〜
バレンタイン 一個も貰えず 草生える(w) クラスに救世主は いなかった (字足らず)
作 ティッシュ箱
※ここで言う救世主はアレです。クラスに一人はいるチョコを全員に配る人の事ですよ。




