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後半投げやりです。
まるで自分の記憶のように蘇ってくる変な記憶、俺は紛れも無い男子中学生、他よりちょっと妄想力が高いだけのただのユキチだ。
他人のドロドロした恋愛を影から観察し、それを売って金を稼いでいる斥候でしかない。なのに、あたかも異世界に産まれてきたもう一人の自分のような……
次々と脳内に浮かんでくる風景、それら全てから謎の既視感を覚えるのだ。どっかの貴族が住んでそうな屋敷、中世ヨーロッパのような街並み、たくさんのむさ苦しい男とエロい服を着た女がひしめく建物……
それからも鬱蒼と茂った森やだだっ広い草原が浮かんでくる。
おかしい……おかしいぞ!! なんだこの謎景色は!!
「あら、今日の朝ごはんはそんなに美味しかったかい?」
浮かんでくる風景をおかずにバクバクと朝ごはんを食べ進めていく。異世界なんて全男子中学生の憧れですもの。ビッグ妄想マシーンの俺にかかればこんな一部の風景だけでもいろんな妄想ができちゃうんですよ。
あ、今の女の人! もうちょっとパンツ見せて。
あたかも映画館にいるような感じで異世界風紙芝居を見ていく。エロガキでマセガキの俺には少々刺激的な場面もあったが鼻血が噴出するのをなんとか抑える。だって鼻血が出たら朝ごはんが血みどろになって食べれなくなるし。
「ゴチィ!」
「はい、お粗末さん」
異世界スクリーンショーでハイテンションな俺は5分程度で朝ごはんを完食する。女の子のえっちぃ姿を見てたら魚の骨まで行けたぜ。エロパワー恐るべし。
いい夢を見たな〜とルンルン気分でスキップしながら食卓を出ようとすると、母さんが俺の使っていた食器を洗いながらお願いをしてきた。
「あんた! ついでに妹を起こしてきなよ!」
「えっ……?」
母さんの言葉に思わず足を止めて振り返る。
「俺に妹なんて……居たっけ?」
確かに一人っ子じゃなくて弟か妹が欲しいな〜とは思ってたけど……うちは父と母と俺の3人家族のはずだろ? 誰だよ妹って。
「何寝ぼけてんだい。あんたには一つ下の妹がいるだろうに」
「いや……流石にそれは嘘でしょ。何言ってるんだよ母さん」
「あんたの方こそ何を言ってるんだい、ユキが弟妹欲しいっていうから作ってやったんだろう」
怖いよ。うちの両親弟妹欲しいって言ったら作ってくれるような人達なの!? そもそも一つ下って事は俺一歳ってことだろ! そもそも喋れないし!
なんだかおかしいぞ……俺に妹なんているはずない。だけど母さんが嘘をついているようにも見えない。一体全体、どういう事?
「……因みに妹の名前ってなんだっけ?」
気になった事を怖いもの見たさで聞いてみる。
「全く、起きて結構経つのに……頭沸いてんのかい?」
辛辣なお言葉ありがとうございます。
洗練された俺のメンタルにはそう易々と傷は付かないぞ。
「で、我が妹の名前は……?」
「はあ……ジャンヌのことすら覚えてないのかい?」
爆弾発言、襲来。
「アウトオオオォォォォォォォォォォォォ!!!!」
外人名きました! うちの母さん浮気してたのかな?
父さんを差し置いてどっかの外国ピーポーとやっちゃった!?
「朝っぱらからでかい声出すんじゃないよ」
なに平然としてるんですかオカアサン!!
息子が母親が浮気していた? という衝撃ニュースに驚いているというのに。
何だよこのカオス展開! いや、カオスってるのは俺の頭の中だけど!! 母さんが二股してたのなんて聞きたくなかったぞ!? あれまず第一にコレ現実なのか!? まだ俺は夢でも見てんじゃないかな!!
あ〜〜〜もう訳分かんね٩( ᐛ )و (思考放棄)
「ユキ……ジャンヌとはどこまで行ったの?」
「急に何の話?」
「恥ずかしがらなくていいんだよ! 手は繋いだのかい? それとも既に◯◯までしちゃってるとか?」
「あんたさっき妹とか言ってなかったか? 兄妹に何求めてんだよ」
うん。これ絶対夢だろ。
母さんは基本冗談なんか言わないし、ピー音が入るような単語は使わないぞ。むしろ使ったら殴り飛ばされると思う。
「ここは夢の中だな……間違いない。バグったみたいに虚空に話しかけてる母さんを見れば嫌でもそう思うしかないし」
さっきから席を立った俺に反応を示さずに、元いた場所に向かってずっと同じことを話しかけている。エロには厳しい母さんが規制音の入る単語を連呼しているその有様はある意味狂気すら感じる。
さて、ここが夢だとしたらさっさと目覚めないとな。学校に遅れてしまう。
「……どうやってこの夢から出るの?」
この世界は夢だと理解しているからこれは明晰夢って事になるんだろうけど……明晰夢って起きようと思えば起きれるんじゃなかったっけ?
念じても一切変わらないんだが。
……ここはテンプレで行くか?
自分の世界(夢)に迷い込んだラノベやゲームの主人公はどうやってダッシュしてると思う? その世界を作った主を倒す……的なのともう一つ、自決するものがある。
この夢の主って言ってもそれは元から俺な訳で、自分的には自殺すれば夢から覚めると思うんだけどなぁ……
システムキッチンで水道の下の棚に収納されている小さい包丁を取り出す。窓から入る太陽光を刃に当てると先端がキラリと輝く。見た感じただの包丁だ。
切れ味はどうだろう……と、まな板の上にある大根。朝ごはんの味噌汁に入ってた具の一つを試しに切ってみる。するとどうだろうか。包丁が中途半端に刺さっている光景を予想していたのに、片手で振るった包丁は見事に大根を両断しているではないか。……というかまな板切れてる。
ついでに言うとまな板の下を中心に台所に亀裂が入っております。
やっべえ。こんなことができるのはベジータくらいだと思ってたのに。
「なにこの包丁、切れ味がいいとかの話じゃないんだけど」
大根を切り裂き、まな板を両断し、台所にヒビを入れた件の包丁は今も煙を立てながら深々とキッチンに突き刺さっている。
これだけで異世界無双できそうな感じがする。
「そうだ! これジャンヌに自慢してやろう」
自然と口をついて出た言葉だった。
これはまた一つ謎が……増えた。これ以上増えたら頭がパンクしちゃう。
「母さんの妄言は置いておくとして……ジャンヌなんて知り合いいたっけな?」
これでも自分の勘は結構あてにしている。ドロドロしたビッグニュースをカメラに収めるには常に感性を鋭くしていなければならなかった。
学生時代に育んだ自分の山勘は当たる方だと自負している。
「なーんか引っかかるんだよね、ジャンヌって名前。結構大きな関わり合いをしていた気がする」
なんで現実と対して変わらない夢を見たのか。
そういったところも気にかかる。寝る前に考えていた事、心配事とかが夢に関係しているって聞いたことがあるんだけど……何でか昨日の夜の記憶が出てこない。
「俺の心配事なんて彼女ができないって事くらいだしなぁ……自分で言うのもなんだけど俺ポジティブだし。楽しい夢しか見ないと思う」
起きた時に、夢の内容は覚えてないけど楽しい夢だったのは覚えてる。というか大体いつも楽しい夢だな。だから俺が望んでいる事とかが夢に出てくる……気がする。
日常生活が望んでいた事? えっちぃ女の子達に囲まれる事じゃなくて?
謎が謎を呼ぶ! 僕の頭は今日も平和です。
「なぁ〜んちゃって! もう分かっちゃった」
というかここは夢で、朧げに蘇る知らない記憶、そしてあの世話焼きのジャンヌゥ……これで逆に思い出さない方がおかしいでしょ。
俺はアイル。デブで豚な捨てられ貴族のアイル14歳だ。
そっかぁ。日本での家族との生活が俺の望みなのか……そっかぁ。
だけど久しぶりにいいの見られたし、満足かな。父さんの顔が見れなかったのは残念だけど、俺はすでにあっちの世界の住人だしな。もう戻らないと。
「今多分死にかけてるんだよね。だからこんな夢を見たと……ハッハッハァー!! すでに満喫したし、こんな夢ぶち壊してやんよ!!」
俺の怪力と包丁捌きで大根と共にキッチンを破壊し始める。
微塵切りじゃオラア!!
バキバキと食卓が壊れていくのと同時に少しずつ俺の意識も揺らいでいく。
いい夢見れた。朝ごはんの味噌汁美味しかったなぁ。
他人の隠したい恋愛情事を暴くのは得意分野。
役割柄青春してるリア充共には嫌われる傾向があるけど、衆道だろうとヤンデレだろうと金を払ってくれれば情報を売るのが斥候の役割なのだ。




