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昨日は1日ずっと布団にくるまって拗ねていた。
俺は貴族だ、泣いてなんかはいない。ないったらない。
せっかく父上が与えてくれた猶予を1日無駄にしてしまった。いつまでいじけていても仕方がない。残りの2日でできる限りのことはする。
父上はやると言ったら絶対にやる方だ。2日後には本当に王都に放逐されるだろう。
貴族の子供を王都に一人で放り出すなんて普通だったらありえないことだが、この家は過去の戦争で先祖様が大活躍をされたらしく、そのせいで伯爵なんていう結構高い爵位を与えられている。
しかも父上は伯爵の中でも特に王族に気に入られている存在らしい。
なので多少のことは融通が利くのだろう。俺は王都でも悪評際立つ問題児だからな……父上も言っていたが周りの同調があったというのも大きいに違いない。
「王都か……」
昔に一度、今は亡き母さんに連れられて王都に行った事がある。確か貴族が礼法を始め様々な勉学のために入る学園、その下見に訪れたのだ。
『アイルは来年ここで沢山お勉強するのよ』
手を繋いでそう言われた記憶がある。あの時はまだ母さん、母上も元気だったし俺だって太ってなんかいない、むしろ痩せてた。
変わってしまったのは母が病死してしまってからで、そのストレスからやけ食いするようになってデブってしまった。その暴走が周りにも悪影響を出してしまった。
「不登校、婚約破棄(されたんだけどね!)、器物損壊、食費過多、その他諸々……追い出されても文句は言えないよなぁ……」
今までの行いの度が過ぎた。まさか変わろうと思った次の日に領内追放を宣告されるとは……流石に予想してなかった。
まあ追い出されても王都でなんとかやっていけるだろ!
……やっていけるかな?
「付き人さん、付き人さん」
「はい、なんでしょう」
「父上は俺を追い出す時、なんらかの資金援助ってしてくれるのかな?」
「その件ですが、伯爵様からの言伝では『資金援助は一切しない。たかだか研修にお小遣いなど要らないだろう』と」
オーマイゴッヅ!!
本当にただの研修として送り出すつもりなの!? 絶対に帰ってこれない研修のはずなのに!!
「『その代わり私物を持っていくことは許そう。ゴミが減る』との事でした。良かったですね」
それだけ言うとメイドさんは高速移動で姿を消した。
最後の一言言う必要あるか!? やっぱあのメイドさんも真顔なのに言葉の端々に憎悪を感じる……! 今までごめんなさい!
はあ、まあ、私物の持ち出しが許されるなら……いやそれでもやっぱり鬼畜だろ。
服とか持って行ってもかさばるだけで意味ないじゃん。水を確保できなきゃ洗濯もできないし。
もっと食料とか実用的なものが欲しかった……いや、冷蔵庫の下段にある食べ物は俺が食べるように買われている。そこを主張してジャイアン理論で押し切ればあるいは……
「食べ物の確保は後にして、取り敢えず部屋を漁ってみよう! なんか売ったら金になるものもあるかもしれないし!」
俺は重い体をベッドから起こして部屋の中を探し回る事にした。
◇
「意外と溜め込んでるものがあったな……」
自分でも驚きだ。興味ないと思っていた高価そうなミニダイヤや腕輪などがデスクやタンスの奥底から発見できた。これを売れば少しは金になるかもしれない。
後はこれ、『伯爵の輝章』直径2センチくらいのオパールが使われている、伯爵、又はその家系に属する者だと証明することが出来るものだ。
男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵の下から順に宝石はエメラルド、ルビー、オパール、サファイア、ダイアモンドが使われている。
この宝石部分のオパールを売れば結構なお金に……ぐふふ。
追放されるってことは家系から外される、つまり家名を捨てるって事なんだから別に売っても問題ないよね♪
クズ野郎だって? 地位と名誉を捨てて命が手に入るのだったら俺は喜んで投げ捨ててやるさ。
財源が確保できた事で少し気が楽になった俺はルンルン気分でステップをしながら(できてないけど)ドシドシと廊下を歩いて行った。