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短いですぅ
「迎撃準備は整ったな! 全員気を引き締めていくぞ!」
威勢良く声を張り上げるジン、大盾を構えるべラルゴ、短刀を持って知らない構えをしているモモ、殿で魔法を打つ準備をしているリノン。
そして消える貯金にorz態勢で落ち込む俺とそれを励ますジャンヌ。
用意は万全である。
ガアァァーン!!
ガアァァーン!!
ジャンヌが予め渡されていたシンバルを鳴らす。
同時にべラルゴが手に持っている子斧で金属の盾をガンガンと叩く。非常に耳障りな高音が森の中に響き渡る。木に止まっている鳥達は驚いて逃げるように羽ばたき、周りにいた弱い魔物は蜘蛛の子を散らすように消えていった。
大きな音はあの災厄を呼び寄せると分かっているのだろう。一気にあたりから生物の気配が消えた。ぶっちゃけ俺も逃げたい。
10秒ほど轟音が続くと3時の方向から何かが接近する音と振動。間違いなく奴だろう。
振動源からしてここに到着するまでまだ10秒ほどの猶予がある。だから聞きたいことをいまのうちに聞いておく。
「そういや俺の役割って何なんですか?」
「ん? お前の役割はだな……」
ジンは少し溜めた後にドヤ顔をしながら言った。
「その時になったら教えるわ!」
いや今教えて欲しいんだけど。もう少し心の準備とかさぁ……
だがわがままも言っていられない。すでにすぐそこまで近づいてきている。
もし失敗すればジンに責任を押し付ければ良い。
今は目の前のことに集中しよう。
「さあ何処だ! どう来る!?」
振動と音はすでに止んでいる。すぐ近くまで接近していることは確かだ。
だがおかしい。すぐ近くにいるはずなのに、姿が全く見えない。あんな巨体は目立つはずだ。近くにいればこんな薄暗い森の中でも見つけることができる。
だが3時の方向に災厄の影はない。それどころか360度全方位見渡しても見つからない。木の上に潜んでいるのかと思って上を見てもスパイダーフォレストの姿は見当たらない。
「……奴は一体、どこ行った?」
無音で薄暗い不気味な雰囲気の中、ジンが声を出した瞬間、視界がぐらついた。
地面が崩れる。何で? どうして?
ーーああ、そういう事か。
真横に地面から生えている太くて黒い棒のようなものを見て、どういうわけか悟ると同時に黒い棒に頭を殴りつけられて意識を失った。
◇
災厄は地上ではなく地下を進んでいた。たったそれだけだった。
シンバルの音で近くまで来た後、ジンの声で『ここかぁ!!』みたいな感じで足を地上に向かって突き刺した。そしてその足に弾かれて俺は気絶と……
「情けないなぁ……」
一番最初に気絶させられた俺は一番最初に意識を取り戻した。
ただいま絶賛運ばれ中です。はい。
『目覚めたら天国〜』みたいな事を期待してたんだけど、神はまだ俺が死ぬ事を許さないらしい。喰われるかと思ったらまさか本当に巣に運送されるとは……
俺だけじゃない。近くにはジャンヌが白目をむきながら泡を吹いて倒れている。なんとまあ令嬢とはかけ離れた姿でしょう!! スマホあったら今後の対ジャンヌ用に弱みとして写真撮っておくのに。
これで後は失禁してたら完璧だったのに。見たかないけど。
彼女の他にもジンさん『平和主義者』の四人が。奇襲をかけられたとはいえ、負けてるやん。死んでない……よね?
血は流れてないし、多分気絶してるだけだろう。
もし仮に、ジンの重撃(超重量の宝剣を重量魔法でウンタラカンタラ)が効かないとなると……後は巣にあるって言われてる武器に期待する他ない。そんな都合のいい武器なんて落ちてないと思うけど……
ーーなんか不安になってきた。
勝てるのだろうか。あの災厄に。
強大な八つの目でジロリと初めて見られた時は心臓が止まるかと思ったほどだ。大きさ、威圧感、脅威。全てが規格外。
元人間であったとしても、あれは人間的な何かをすでに失っている。
理性があるのかどうかすら分からない。
異質。おそるべき厄災。
本物の化け物、大昔から厄災と謳われた大蜘蛛は期待通りのモンスターだった。
あれと戦って殺せるビジョンが、全く思い浮かばないのだ。
醜く悍ましい黒い剛毛に覆われた災厄を倒せるのか……
「……あれ? そういえば……」
俺っていま運ばれてる最中なわけなんだが、なんだかフッサフッサしてるところに転がっている。なんだか気持ちいいなぁ……とか思ってたんだけど、これって……
「………」
アイルは再び気絶した。
最後に見たたくさん生えている黒い毛を見て、あの悍ましい蜘蛛の背中にいると理解してしまったからである。




