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翌日、脳内お花畑な人たちによって作られた噂を元に、連れ込まれた巣で殺せれば万々歳、殺せなかったら逃げるという奇天烈なスパイダーフォレスト討伐作戦が始まった。


昨日通って来た森を再び闊歩している。

先頭を我が物顔で歩くジンを見てると溜息が出る。


あまりに杜撰な計画にべラルゴへ抗議を申し出たが、パーティーの決定権はジンにあるとのことで諦める他なかった。

ジンをリーダーとするこのパーティーができて3年経つらしいが、今までよく全滅しなかったなと大変不思議に思う。


いくら戦闘力が高くても、それを生かせる作戦を立てられなければ意味がないのではないだろうか。



「こんな作戦で本当に大丈夫ですかね」

「大丈夫だって〜! 絶対上手くいくさ! 占い師のばーちゃんも『万事うまくいく』って言ってたしなぁ!」


俺の声にジンが元気な返事を返す。


その占い絶対インチキだと思うけど……

うまくいく要素なんてかけらもなくない?


「もし死んだら子孫代々呪いますからね」

「化けて出てやるわ」

「真後ろの二人がすごい怖いんだけど。ねえジン、場所変わってくれない?」


目の前を歩いているモモが怯えちゃっているので体から溢れ出る呪詛を止める。隣で般若の形相をしているジャンヌも肩を叩いて気持ちを鎮めさせる。


怨念を出しすぎたのか、背中で眠るリノンがもぞもぞと動いている。起きてはないみたいだが、眠りを妨げるなんて悪いことをした。


俺は何かしら背負わなければいけない運命なのか。なんて、出発して30分に『おんぶして』なんて言われた時は思ったが、邪気のない寝顔を見たらそんな気持ちは吹っ飛んだ。


小さい子の寝顔は癒しそのものだな。

ここ最近ささくれていた俺の心が落ち着いていくのが分かった。


たまに悪戯するけど基本は素直ないい子だし、本当ジャンヌとは大違いだな!



「ねえ、私になんか言いたいことがあるなら言っていいわよ」

「別にぃ〜?」


残念な目で見すぎたか、ギロッと鋭い目を向けてくるジャンヌさん。

最近より一層勘が鋭くなった気がする。


ジャンヌは基本魔法で戦う。護身用として小さいナイフは持ってるが、いつもは遠距離から初級魔法を当てて攻撃している。

小鬼(ゴブリン)に正拳突きをしている、武闘派令嬢的なジャンヌなんかも見てみたかったが、『そんな暑苦しい真似はしたくない』と言われてしまった。かっこいいと思うんだけどな。



初級といっても魔法は魔法。危険なことには変わりない

バスケットボールくらいの大きさの火の玉を小鬼(ゴブリン)の後頭部に当てて、熱さで踊り苦しんでいる小鬼(ゴブリン)の断末魔を俺は忘れられない。


灰と化したそれの魔石を高笑いしながらジャンヌが回収していたのも恐怖ポイント高めである。女って怖くない?


あれ以降俺の中で『ジャンヌはS(サディスト)説』が浮上している。

真偽はまだわからないが、できれば違っていてほしいと思う今日この頃。


「なあジャンヌ、お前って魔法使うじゃん?」

「使うけど。それがどうしたの?」

「魔法を使って魔物を倒す時に……どう思う? ゾクゾクしたりする?」


真正面から『あなたはS、イエス、オア、ノー』と聞くわけにはいかないので遠回しに聞いてみる。『あなたに嗜虐心がありますか?』と……


「そうねぇ……考えたことはなかったけど、魔物を倒した時はやったーって思うわ」


その言葉を聞いて少し安心する。

脳内ノートに『ジャンヌは正常』という文を書きーー


「でも炎で燃える中で苦しそうに悶えているのを見ると、胸の奥が熱くなるのよぉ〜。ゾクゾクしちゃう」


ーーその文の上に流れるような仕草で二本線を入れる。

そして新たにこう書き加えた。


『ジャンヌは女王様の素質あり……』っと。



「そ、そうか……お前、女王様とか似合いそうだな」


自他共に認める戦闘狂の俺も、完全なS発言に少しジャンヌから身を離す。

こんな危ない奴とそばにいられるか。


スッと離れていく俺を見てジャンヌはクスクスと笑っている。

何笑ってるんだコラ。


「冗談に決まってるでしょ。私がそんなことするわけないじゃない」


『アイルじゃあるまいし』と一言余計に言ってくる。

ジャンヌの場合冗談に聞こえないんだが。


「どうだかな。お前の俺に対するSっ気はかなりのもんだけど」

「あら、いつも言ってるけどそれはアイルだからよ。こんな美しい少女に罵倒されるなんて、なかなかない経験でしょ? 光栄に思いなさい」

「俺はMじゃないんで」


ロリコンとかドMとか自称紳士の変態とか。

そういう奴だったら喜ぶかもしれないけどな。悪いが俺は正常だ。


「SとかMとか、十代の少年少女の会話とは思えないな」


べラルゴが苦笑いしながらそう言っている。


果たしてそうだろうか? 日本だったら中3の段階で『ヤ◯ュウセンパイ』だの『やりますねぇ〜』だの、連呼してる友達が居たんだが。

童貞顔の俺は『◯◯◯◯(ピーピーピーピー)マスター』というクソみたいな称号をつけられた。


マジあいつら許さねえ。



「よしっ……! おそらくここはもうスパイダーフォレストの領域(テリトリー)に十分入ってるだろう」


先頭のジンが立ち止まったと思ったら、ジャンヌと話しているうちに目的地にたどり着いていた。


「アイル、リノンのやつを起こしておけ。いざという時はそいつが居ないとヤバイからな。べラルゴ、お前は念のための大盾を持って俺たちの前へ。モモはリノンとジャンヌの援護を頼む」

「分かった」

「了解」


ジンはちゃんとリーダーとしての役割を果たしているらしい。

テキパキと周りに指示を出している姿に驚いた。仮にもパーティーの命を預かっているんだ。これくらいしっかりしていないと、ジン達は冒険者としてすでに生を終えているだろう。


べラルゴが背中に背負っていた大盾をドッシリと構えて俺たちの前線に立つ。モモはナイフを両手に持ちながら俺たちの前に立っている。


「リノン〜起きろ〜」


俺も背中で眠っているリノンを下ろして頰をペチペチと叩く。

痛くないように優しくやっているのだが、ウンウンと唸るだけで中々起きようとしない。どうしようかと思っているとモモが耳打ちしてきた。


「リノンを起こすにはね……ごにょごにょごにょ……」

「ふむふむ。ほおほお。成る程」


流石は同じパーティを組んでいる人、リノンの扱い方に慣れているようだ。

俺は言われた通りのことをやってみる。



「すぐに起きた良い子にはプリン10個をプレゼント……」

「プリン!」


耳元でボソボソとそう呟くとカッとリノンの目が開く。

小さい子ってみんなプリン好きだよなぁ。


「プリン!プリン! プリンは何処!?」


無表情なのに高いテンションで辺りを見回すリノン。

凄い執念を感じる。


日本と違うこの世界ではプリンはあんまり食べられるものじゃない。

甘味料である砂糖が少ないからな。


なのでプリンに限らずこの世界は甘いものを食べられる機会が少ない。


「プリンは嘘だよリノン」

「嘘? 嘘なの……?」

「あ、いや、えっと……」


嘘だと聞いて涙目になっているリノンに良心が痛む。

どう言って良いか迷っている俺にモモがーー



「嘘じゃないよリノン。ちゃんとプリン10個は買ってあげるからね! ……アイル君が」


ーー助け舟という名の地獄行きの船を出してきた。


「そっか……そうだよね! アイルが言ってたものね!」


急に元気を取り戻したリノンが喜色満面にはしゃぐ。

それを横目に俺はロボットのような動きで後ろに立っているモモを見る。


「……テヘペロ!」


何がてへぺろだよおい。

まさかこの人自分がプリン代払うの嫌だったから俺に言わせたんじゃ……それしかありえない。


「あ〜リノンとジャンヌちゃんをしっかり守ってあげなきゃなあ!」


俺のこの世の怨恨を集めたような視線から白々しく逃げていった。

あの人絶対許さない。


通算プリン一個500円なんだぞ?

10個ってなんだ? 5000円じゃねえか!? 樋口が飛んで行っちまうぜ!!


あっけなく飛んでいく俺の全財産。

俺の財政状況を知っていながらこの仕打ち。あの人悪魔だ。


プリン10個の報酬を聞いてやる気マックスなリノンを落ち込ませるのも気が引けて、結局俺の1ヶ月の食事が雨水と雑草になりそうだ。



「……アイル、私も出来る限り手伝うから……頑張って生きようね」


魂が昇華しそうになっている俺に救いの手を差し伸べてくれたジャンヌ。

今ばかりは彼女が聖女に見えた。




話が進まない。

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