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「今更ですけど、俺たちってなんの依頼でここに来たんです?」


近場にあった飯屋で腹を満たしながらずっと気になっていたことを聞いてみた。口の中に物を含みながら喋るのははしたないが……隣に元貴族の自称淑女がマナーもなくご飯にがっついているので、気にしないことにした。


「え? ジンはともかくとして、べラルゴまで言ってなかったの?」

「本当は移動中に説明するつもりだったんだが……すまない、つい忘れていた」


移送中に話すって事は……ジンのせいで話す時間がなくなったということか。

本人は何食わぬ顔でまんがにくを齧っている。罪の意識ゼロだなあの人。


「はえ〜べラルゴが忘れるなんて珍しいこともあるんだね〜 じゃあ男共に変わって、お姉さんの私が二人に説明してあげようか!」


モモがキラキラした目でズイズイと寄ってくる。

食事中に谷間を見せてくるのは反則ですよ。思わず吹き出しそうになったジャマイカ! さほど大きくないのが幸いしたな。


それにしてもお姉さん、か。若いな。

俺も自信を持って己を『お兄さん』と呼べた年はいつまでだったろうか。


大学卒業してブラック企業に勤めるようになってからは、自分を『お兄さん』と呼ぶには妙に恥ずかしくなったんだよなぁ……



「アイルくんが遠い目をしてる」

「お前は少し無自覚すぎるんだ。もっとよく考えろ」


べラルゴがモモの襟首をつかんで強制的に席に戻す。

目に毒な二つの山は去った。嬉しいような悲しいような、何はともあれ、べラルゴナイスゥ!


お説教されているモモはイマイチ分かってない様子。分かってたらやらないよなぁ、ビッチじゃない限り。

頭上にハテナマークを浮かべるモモにジンがエールを飲んで笑いながら大声で叫ぶ。


「アイルも男って事だろ!」

「どゆこと?」

「お前の胸をガン見してたって事だ!」


おい待てジン、このやろう。

見て動揺したのは確かだが、ガン見はしてないぞ。


俺がそんな変態みたいな言い方するな。



「まあ! まあまあまあ!」


自分の胸を抱き寄せながらスススと距離を取るモモ。ニヤニヤしてるのを見るに、あの人は絶対分かってやってる。

遠い目をしてたとしても別に胸を見てたわけじゃないからな、あの人はそれを気づいた上でやってるんだ。


「変態」

「スケベ」


ここで無表情なリノンとボソリと呟いたジャンヌによる追撃のダブルパンチ。年端のいかない少女二人による変態扱いにより、心に亀裂が入る。

リノンはともかくジャンヌ、なぜお前まで。



「「「へーんたい!! ヘーんたい!! へーんたい!!」」」


女衆の3人がトドメとばかりに変態コール。

これなんのストレステスト?


モモの手拍子、リノンの無表情な顔、ジャンヌの冷めた目線。

周りから突き刺さる変態を見る目……



泣くな。俺は男だぞ。四十路のおっさんだ。

心を落ち着かせて深呼吸ーー


スウゥゥゥ……



「帰る」

「おい3人とも、アイルをいじるのもそこまでにしとけよ……泣いちゃってるじゃねえか。焚きつけた俺も悪いけど、流石に見てられないぞ」

「泣いてない」

「目から滝のように涙を流してる奴が何言ってる」


泣いてないもん。

俺は大人だもん。


「あああ〜ゴメンねアイルくん! 泣いちゃうとは思わなかった」

「ほんの軽いジョークのつもりだった。ごめん」

「ざまあ」


泣き顔を見られたくなくて顔を伏せてる俺に、若干一名は除いて二人は謝ってくれた。

くっそ、よくも俺に醜態を……許さぬぞ、ジャンヌめ!(責任転嫁)



「え〜と、私たち何を話そうとしてたんだっけ?」

「依頼の話をするんだろう」

「おお! そうだったそうだった!」


『忘れてた〜』と言っているモモからも、ジャンヌと同じアホ臭がする。

リノンは……どうなんだろうな。もし彼女もだったらアホ3トリオが爆誕した事になるな。振り回される未来しか見えねぇ。


どうかリノンはまともでありますように。


「アイルくん聞いてる?」

「聞いてる聞いてる。すっごく聞いてる」

「本当かなぁ……」


本当は斜め前のリノンに祈りを捧げて全く聞いてなかったけど。

最悪べラルゴに聞けばいい。彼からは俺と同じ『苦労人』という名の人種の匂いがする。



「じゃあ今回私たちが討伐するものはなんでしょう!」

「俺たちを追いかけてきたデカグモ」

「正解!」


分からないからって適当に言ったら当たっちゃったよ。

え、マジで? あれ倒すの? 無理じゃね?


あれが想起させるのは俺に深く根付いたトラウマ……つまりはジャンヌの〇〇(ピーピー)が!!

うっ! 思い出したら吐き気が……


「本当に聞いてたんだね。お姉さんビックリ!」

「気持ち悪い……」

「なんで!?」


なんだかショックを受けた様子のモモ。

あれ? これさっきのお返しできるんじゃない?


「いや、大丈夫です。別にモモさんの顔が吐き気を催すほど醜いからとか、そういうわけではありませんから」

「えええ!!」

「モモさんの体臭がすごく臭うとか、ちょっと生理的に無理だとか。そういうわけじゃありませんからぁー!!」

「キャアアアア!!」


顔面蒼白とはまさにこの事。


「モモさーん?」

「……」


返事がない。すでに屍のようだ。

生気が感じられない彼女の顔は死んでいる。合掌。



「アイルもひどいな……顔は女にとっての命だろう?」

「自業自得では?」


行き過ぎたからかいをした自分を怨んでくれ。

俺は知らん。


「それよりも、スパイダーフォレスト……だっけ? あんなデカグモ本当に倒せるんですか? 先刻までは逃げ回ってばかりだったけど」

「ああ、そこについては問題ない」

「というと何か対策でも?」

「いや、そういうわけじゃあないんだがな」


? 対策も立てずに勝てる相手じゃないと思うが……


「じゃあ一体どうやって……」

「スパイダーフォレストを倒すのはあれのおかしな伝承を利用するんですよ!!」


鼻息の荒いモモが再び迫ってくる。

復活早いなこの人。


「おかしな伝承?」

「そう! あのスパイダーフォレストにはある噂があってねーー」



なんでも、あのスパイダーフォレストと呼ばれる大蜘蛛は人間を捕まえても、すぐには殺さないらしい。生きたまま森の中心地下にあると言われているすにお持ち帰りされるとか。


巣の地面には剣や斧など沢山の武器が散らばっており、それを手に持つよう促される。

武装した人間が側にいるにも関わらず、目を閉じて?じっとしている大蜘蛛。その様子はまるで殺してくれと言わんばかりのように見える。


そんな話からあの大蜘蛛は太古に呪いをかけられて醜い魔物の姿になった人間なのでは……という噂が最近立っている。



「ね! いい話だと思わない!?」

「非現実的ですね」

「ありえない」

「冷めてる! 冷めてるよ二人とも!!」


いやあ……だってバカバカしいにも程がある。

呪い? 蜘蛛に変貌? 元人間?


百歩譲ってそんな呪いがあるとして、人間が悪い人に蜘蛛にさせられたとして、それで? なんで冒険者捕まえて殺させようとするの?


別にあんな大蜘蛛なら、自分で死ぬくらいわけないと思うのだが。

他にもおかしな点がテンコ盛り。穴だらけ、スッカスカだ。そう、まるで俺の貯金みたいに。


「二人とも現実主義者(リアリスト)すぎない!? 神様とか信じないの!?」

「もし神様がいたら、俺は野草なんか食ってませんよ」

「左に同じく」


昨日のお昼はシンス草、苦味が強いが毒性がないので生でも食べれるのがいい。昨日は時間があったのでジャンヌと協力して煮込み、なるべくアクを抜いて食べた。


塩水があると多すぎる水分を吸収してくれてなお良い。


「夢を追うのが冒険者って言いますけど、俺とジャンヌは金を稼ぐために冒険者になったわけでして」

「そんな悲しいこと言わないでよ……」


だがそれは紛れも無い事実だ。

デブでブサイクな存在の俺には冒険者しか残った道はなかったんだから。



「最近はマシになってきたけど、アイルとジャンヌは前カネキリとかも捕まえて食べてたからな……俺だったら絶対戻す」

「酷いですねぇ。カネキリ美味しいですよカネキリ。なあジャンヌ」

「ええ。あれは絶妙な辛味がいいのよね」


カネキリは日本でいうあのカマキリのような物だ。異世界版のカネキリはもっとデカくて最初見たときはびっくりしたが。


『お昼ご飯食いたい』と俺にくっついて来たジャンヌも最初はドン引きしてたが、逃げようとするジャンヌを取り押さえて無理やり食べさせたら彼女もカネキリの良さに気づいてくれた。


今は俺と同じカネキリの良き理解者である。


「アイルもジャンヌもすごい量食ってるな……そんなに美味しいか?」


べラルゴは俺とジャンヌの隣に山のように積み重なっている空き皿を戦慄の表情で見つめている。そんなに驚く事かな?


「他人の金で食う飯は美味いって言うじゃないですか〜」

「せっかく食べれるんだから好きなだけ食べるのは当たり前よ」

「そ、そうか……」

「一人で軽く俺たち四人の3倍は食ってないか……?」


猛烈なスピードで食べ進めていく俺とジャンヌをジンたち4人は呆れと驚きの表情をしながら見つめていた。




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