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「オラオラオラァ!」
俺はハルバードを振り回している。
超重量の攻撃にエレオノーラは逸らすので手一杯だ。一撃一撃が鎧も関係なしに致命傷になりうる攻撃なので、細いレイピアを使って一生懸命応戦している。
だが得意武器の相性が悪かったな。
細身のレイピアでは力の大きい攻撃を逸らし続けるには無理がある。このままではきっとレイピアにいつか限界が来るだろう。
「ひいいぃ……」
エレオノーラはすでに半泣き状態になっている。
涙を流すイケメン、か……
よし、殺そう。イケメンに慈悲は要らない。
いけめん、まぢゆるさない。
「ははは!! いいぞアイル! そのまま力で捻じ伏せろ!」
アニキが笑いながら応援してくれている。
これは勝つしかないな。
「鎖旋回」
斧技の一つ。
両手で上手く斧を回すだけ、攻撃にも防御にも使われている。
持ち手部分が狭いので、斧でやるにはかなり高い技術が要求される技だが、ハルバードではそんなの関係ない。持ち手が長いので回しやすい。
刃に重心があるので遠心力でハルバードがうっかり飛んでいきそうになるが、手でしっかりと握っているので問題ない。
攻撃と攻撃の隙が全くと言っていいほどない技なので、早くて軽い攻撃をカウンターで飛ばしたりするレイピア相手には丁度いい技だ。
このままレイピアが壊れるまで待つのはつまらない。
なのでこちらから仕掛けさせてもらおう。
「あっ!」
ハルバードをあえて手元から離す。
先程まで回転を続けていたハルバードは遠心力も付いて、ものすごい勢いで空高くへと飛んでいく。訓練場は天井が無く吹き抜け状態なので、進行を遮るものがないハルバードは吸い寄せられるように大空へ……
エレオノーラには俺がミスをして武器を手放したと思っているのだろう。
先程まで泣いていたとは思えないほど俊敏な動きで自分にレイピアを向けて突いてくる。嘘泣きしてたのか。悪いヤツめ。
レイピアの攻撃なんて軽い軽い。腕で軌道をそらすとガラ空きになった胴体に回し蹴りをしてやる。硬い銀の鎧に足に痛みを覚えながらも吹っ飛ばすことができた。
「うぐぅ……」
エレオノーラはうめき声をあげながら立ち上がる。
あの様子だと気付いてなさそうだ。自分が今いるところがハルバードの落下地点だなんて思ってもいないだろうな。
目標地点には飛ばせた。
後はハルバードを投げ飛ばした10秒前の自分を信じるだけだ。
露骨に空を見ると感づかれるかもしれないからな。
俺の攻撃を警戒しているお前は、空からの奇襲で死ぬがいい。
「……時間稼ぎする必要もなかったか」
エレオノーラがその場から動かないように何か仕掛けようかと思っていたが、予想より早く隕石は落ちてきた。鋭い槍の部分がエレオノーラの頭めがけて落下している。
俺の座標計算に間違いはなかった。
「無様に潰されて死ね」
エレオノーラは頭上にハルバードが迫っていることを未だ気づかず、レイピアを構えている。
そんな様子に俺が決闘の勝利を確信したその時、予想外の邪魔が入った。
騎士団の辺りから目で追えない速さで誰かが飛び出してきた。ありえない速さで飛んできたそれはハルバードに気づかないエレオノーラにタックルに近い形で押しのけたのだ。
影の救出で兜が外れるだけに留まったエレオノーラ。
彼を助けた影というのは……やはりと言うべきか、レビアという理不尽女だった。
地面に深々と突き刺さったハルバード、エレオノーラに直撃してればタダでは済まなかっただろう。死ぬかは分からないが、俺が勝つということに変わりはなかったはずだ。
これは立派な妨害行為に属する。
「おい、アンタ……!」
気を失っているエレオノーラを地面に下ろした彼女に妨害行為の真意を聞こうとした。
が、それは出来なかった。
「あ……」
レビアに向かって一歩踏み出した時、俺は自分の首を斬られた……ような錯覚を感じた。
突然感じた死の感覚に冷や汗も出なかった。
俺の目の前には冷たい視線でこちらを見下ろすレビア。エレオノーラのよりも金のかかっているであろう、高そうなレイピアは俺の首を断とうと振るわれていた。
寸止めなんかじゃない。本当に俺を殺そうとした一撃、目の前のレビアが出す殺気がそれを何より証明している。
じゃあ何故俺は死んでないのか。それは簡単だ。
「アニキ……」
真横で彼女の攻撃を止めてくれていたからだ。
アニキが素手でレイピアを止めている。レイピアは本来突きに使うものであって、斬ったりしようとするのは大して威力が出ない上、壊れやすくなる原因にもなる。
そんなレイピアによる斬撃を、アニキが手から血を垂らしながら止めている。今まで血を流すどころか、怪我すらしたのを見たことないアニキが。
「オイオイ、レビアよ。冗談キツすぎねえか? 反則した上に俺の愛弟子をいきなり殺そうとするとは……いくらお前でも許さねえぞ」
ものすごい怒気を発しながらアニキがレビアに問いかける。
レビアは何も気にした風もなく、無表情な顔で言った。
「その男は危険です。不安分子は消しておくに限る」
「アイルが将来国に仇なす存在になると思うか? そんなの分かんねえだろ」
ここまで言った時、今まで表情を変えなかったレビアが初めて顔に怒りを滲ませて、アニキを睨みながら怒鳴り始めた。
「アナタは……お前は!! 五年前もそう言って!! 悲劇を起こしたのを、忘れたのですかぁ!!」
静かでクールな雰囲気をしていたレビアが急に怒り始めたものだから、俺も含め周りのみんなもぽかーんとしている。
五年前……悲劇?
一体何のことだろう?
俺とジャンヌ含め、一部の若い人達も何のことだろうと首を捻っているが、ジンさんやべラルゴさんなどこの街で古参の冒険者は苦い顔をしていた。
……後で聞いてみるか?
いや、やっぱりやめておこう。無作為に過去を知ることは時に相手を傷つけるからな。アニキだって俺のことを詳しくは聞かなかったんだし、お互い様だ。
(まだかなぁ……)
いまだヒステリックに喚き散らすレビア、女というのは本当に面倒だな。
しばらく喚いていたが、やがて落ち着いたのかいつもの無表情に戻っている。
「くすん……子供というのは何者にもなれる。天使のような良い人にもなれば、悪魔のような人にもなる。周りの環境でそれらは変わってきます」
(『くすん』とか、普通に可愛いな……!)
先ほど殺されかけたことを忘れてクソみたいな事を考えているアイルだった。
「その少年は年不相応の力を持ってます。力に驕り高ぶる人になれば、アイツのような人にもなる。だからそんなことはないように、私たちがその少年は保護します」
「保護という名の監視だろうが」
「もし、保護を断るというのなら……」
「危険分子として殺させてもらいます」
ふむ、節々としか聞いてないが大体分かった。
俺は凄いんだな!
「出来るもんならやってみな」
「あなたでは今の私に叶いません。抵抗するだけ無駄ですよ」
「ああ、確かに俺はお前には勝てないだろうなぁ。でも、お前も俺と戦って勝つつもりなら手足の一本や二本は覚悟しとけよ?」
すごくピリピリした状況である。
忘れてるかもしれないけどさぁ? 俺って今2人の中間に立ってるんだよね。
なんかもうヤバくて……互いに衝突しあう覇気だけで吹っ飛びそう。
ここから逃げ出したいです。まる。
俺が心の中で半泣きしていたが、レビアが大きな溜息を吐く。
「……分かりました。今は一旦引きましょう」
おおお……レビアさんが女神に見えてきました!
マジありがとうございます!!
「おうおう。もう来るんじゃねえ」
「そういう訳にもいきません。今は引くだけです……私はまた来ますよ」
レイピアを納めてエレオノーラをおんぶして騎士団の方に戻るレビア。
話は纏まりそうだが、その前に一つ聞いておきたい。
「あの、ジャンヌはもう関係ないですよね?」
レビアはジャンヌをちらりと見ると、
「もう彼女に興味はありません。彼女よりも、自分の身を優先したらどうですか?」
そう言うと彼女は兵団から去っていった。
騎士団も彼女の後に続いていく。
これで一先ずは……終わったのだろうか?
「なんだか釈然としない結果になったが……とりあえず喜ぼうぜ?」
「……はい」
冒険者達もストレス状態から解放されて大きく騒ぎ始めた。
気になることが沢山あったが、飛びついてきたジャンヌの頭を撫でていると、そんな事を考える気も無くなってしまった。




