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殺人とかをするなら盗賊とかで最初は慣らすのが普通らしいけど、まさか人生初殺人が騎士団の人とは……不思議なことがあるものだ。


エレオノーラは余裕そうな笑みを浮かべている。ひょっとしたら騎士団の一員である自分は間違っても殺されはしない……なーんて思ってたりするのだろうか?


自分は殺される心配はない。そんなこと思ってたら大間違いだぞ。


少なくともそのイケメンヅラに一発拳を打ち込むって事は決めてるからな。端正な顔が歪んだところを首チョンパして、一生その表情から変えられなくしてやる。


ヒッヒッヒ……



「今度はこっちから行くぞ」


青銅の剣を斜め下に構えて突進する。

倒れないギリギリのラインを見極めながら、重心を体の前方に置いて地面スレスレに走る。ナイフを主に使う軽アタッカー・アサシンなどが使う走術だ。


スピード性が求められる彼らはこの走りを訓練場で見せてくれた。

俺はこの2ヶ月で色んな技術をみて、学んだ。


最初見たときは全く真似できなかったが、今ではほとんど再現できている。

……太っているので本家ほどの速さは出ないが。


それでも相手の度肝を抜くには十分なスピードらしい。


「くっ……!」


斜め下に構えていた青銅剣を居合い斬りの要領で素早く振るう。

横腹から入って肩に向けて振るわれた逆袈裟斬りはエレオノーラの剣によって逸らされる。キーン!といい音が鳴っている。


剣撃が外された。

だが本命は逆の手によって振るわれるナイフ、今しがた弾いた鈍く光る青銅剣に目を取られているエレオノーラに死角から刺突を繰り出す。


ガキイン!


金属同士がぶつかり合う鋭い音。

本命のナイフはエレオノーラの体を覆う銀の鎧に弾かれてしまう。


「バックスタブ」


腰を落として一瞬視界から外れた後、素早く後ろに回り込むと装甲が薄いであろう首筋めがけて青銅剣とナイフで首を挟み込むように斬りつける。


「……これでも無理か」


青銅や鉄じゃあ銀は貫けないようだ。。今の俺の攻撃じゃ決定打に欠けるな。

まずはこの鎧をどうにかするか。


「フッ!」


俺の動きについてこれてないエレオノーラ、適当に振るう剣が当たるはずもない。バックステップで距離を取る。

魔法さえ使われなければ、距離を取り続ければ、解決策を思いつくまで逃げればいい。


「……」


なんだか焦っているように見えるね。

豚と侮っていた相手に翻弄される……人は予想外のことに弱いからな。


それにしても『くっ……!』とか、反応が戦闘初心者丸出しだな。


教えをつけていると言っても甘い訓練で、実戦などは大してやったことないのだろう。冒険者の言う『立場にあぐらかいてる奴』って意味がよく分かる。


「ほれほれどうした。先程までの威勢はどこ行った?」

「あまり図にのるなよ豚が」


簡単に挑発に乗ってくれた。チョロすぎワロタ。

一直線に突っ込んできたエレオノーラにカウンターを叩き込む。銀の鎧が固すぎて一切ダメージは与えられてないけども……


装備が俺と同じ状態で鎧が己の腹筋(+駄肉)の紙防御だったなら、今ので通算3回死んだことになるな。死にすぎだろオイ。もうちょっと慎重になろうぜ。


「なあ、いい加減レイピア使えよ。つまらない」

「敵に助言とは、やはり豚はバカなのか?」

「いちいちディスらなくていいから。今のままじゃ戦いがつまらないだろう? せめてもっとウキウッキする戦いがしたい」


血で血を洗う戦い……とまでは行かないが、手に血汗を握る熱い戦いがしたいとは思う。


俺はこの貴族が存在し、戦いが日常にあるこの世界では、何事も楽しんだものがこの世の中の勝者であると……そう思っている。

と言うかそう思わないとやってらんない。


「アイルは人体を破壊するのが大好きだからなぁ」

「ああ。最弱の小鬼(ゴブリン)だと分かっていても、笑いながらバキバキ骨を折っていくのは見ていて寒気がするよな」

「この前言ってたけど『血が騒ぐ』とか……完全に戦闘狂の言葉(それ)だし、本人は否定してるけどアレを戦闘狂って言わずしてなんだって思うんだ」


「「「それな」」」


ちょっと外野がうるさい。

人を戦闘狂呼ばわりして……失礼な! 俺は魔物との戦いに勝利を収めたことを喜んでいるだけだぞ! 決して体が壊れていくのを『キモティー!』だなんて思ってないから!


「いつも笑いながら魔物を軽々撲殺してくせに、今日はなんかぬるいんじゃないの!? もっと気合い入れなさいよ!!」

「うっせェェ!!」


ジャンヌにまで喝を入れられてしまった。

なんとなくムカついたから怒鳴り返しておく。



「うおおおおおお!!!」


自分でも半分戦闘狂の血を感じているが、心では認めたくないこのイライラを剣にのせて攻撃を仕掛ける。

雑に振っているので隙が目立つが、エレオノーラにそこを攻める余裕がない様子。俺の全力の攻撃をいなすので手いっぱいらしい。


このまま一気に攻める……!


と思ったら青銅の剣が折れてしまった。やはり銀との打ち合いはキツかったか。



無手になってしまった俺に、エレオノーラが顔に憤怒の表情を浮かべながらレイピアを向けてくる。いよいよ本気を出すか?


「もう怒ったぞ……切り刻んでやる!!」

「それはこっちのセリフだ。その顔、切り刻んで細切れにしてやんよ」


それにしてもまあ、男のくせに高い声でヒステリックに喚き散らすな。どこかの誰かさんを思い出すよ。なあジャンヌ?


チラッとジャンヌを見ると、なんかドヤ顔をしてきた。

アレは一体なんに対するドヤ顔なんだろうか? とりあえずムカついたから後で拳骨一発だな。


向こうは得意武器を出してきた。それに対してこちらはナイフ一本……さて、どうしようか。



「アイルゥゥ!! 持ってきてやったぞ!!」

「……ナイスタイミングです。アニキ!」


決闘が始まってから、アニキは訓練場から抜け出してある物を取りに行ってくれるよう、頼んでいた。アニキが入り口で手を振っているということは、間に合ったという訳か。


「そこからこっちに投げ飛ばせますか!?」

「簡単だ! ちょっと衝撃波がするけど我慢しろよ!!」


目には目を、得意武器には得意武器をぶつけるのが一番だ。


宣言通り、ものすごい勢いで回転しながら飛んできたのは、俺の得意武器と思われる(・・・・・)物、まだ決まったわけではない。

だが、俺はそれだと確信している。


もともと不思議に感じてはいた。

しかし街の蔵書室で調べていくうちに分かったのだ。



アイル・ウォン・ハルバード


家名と名前の間に付く中間名、それは貴族の中で、王族とある特定の関係を持つ家に与えられている。特定の関係というのは色々ある。


『ドル……各部門で大臣を務める者の家に与えられる中間名』


『ポンド……古くから王族に仕え、金銭的援助を施している貴族の中間名』


他にも沢山あるらしいが、俺が持っていた『ウォン』という中間名は、次のような意味合いを持っていた。


『ウォン……過去の戦いにおいて、国に多大な貢献をもたらし、戦争を勝利へ導いたとされる。平民から貴族へ成り上がった者に贈られた』


さらに次のような記述もある。


『貴族へ成った際に家名として与えられるのは、その人物が使っていたとされる武器から取られる。武器の名前が家名になる為、貴族からみっともない家名だと皮肉にされている』


『代表的な家名はソード、アックス、珍しいものでいうとーーー』



ハルバード。日本では斧槍と言われている武器だった。



大激音と共に地面に刺さったハルバード。

アニキが俺の為に作ってくれた、オーダーメイド。


スラッとした長い手持ち部分とは不釣り合いの大きすぎる刃。地面からひょっこりのぞく黒い刃はどこか恐ろしい雰囲気を感じる。


刃に使われているのは超重黒石、世界で最も重たいと言われている鉱石。それがたっぷり使われたこのハルバードは俺やアニキくらいでしか扱うことができない。


クリストフィアさんからの冷凍ビームと借金を背負うことで作ってもらった。出世払いって事で、少しづつ払っていけばいいさと、アニキは言ってくれた。

本当に感謝しきれない。


俺はハルバードに近づく。

地面に深々と突き刺さったハルバードを両手で引っこ抜くと、肩に担ぐ。流石に重いな。世界で一番重い鉱石が使われているだけある。



あまり見ない珍しい武器なので、ハルバード自体を持ったのは今が初めてだ。

それでも、なんだか懐かしい感じがする。遺伝子の記憶というやつか。これならいきなり実戦でも扱えるかもしれない。


肩慣らしで超重ハルバードを片手で振り回したり回転させたりすると、冒険者がみんな揃って『ありえへんわ〜』みたいな顔で見てくる。

そんな顔で見ないでよ。



エレオノーラはハルバードが地面に刺さった時の衝撃で呆然としていたが、やっと意識が戻ったのか、敵対の目線でレイピアを構える。


「……フヒッ!」


ヤバい、笑っちゃう。

なんだろう。この湧き上がる高揚感は。


ハルバードを持った事で更に血が滾ってきた。

これはもう戦闘狂と言う以外にないな。


とにかく今は、闘いたい!



戦闘意欲に身を委ねて、俺はエレオノーラに向かっていった。





『評価してくれないと死んでしまう症候群』になってしまった!


というわけで誰か評価してくれ。

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