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ちょっと、それは予想外なんですけど。
え? 代表者ってアニキが戦うんじゃないの?
「オーウェンバルグではないの?」
ほら! そちらさんだってこう言ってますよ!
ここはアニキが戦うべきですよぅ!
「アイルは俺の弟子……俺が直接指導で鍛えている。お前と同じだ」
「……あのデブが?」
レビア、又の名をクソビッチが無遠慮にジロジロと見てくる。
そしてため息……なんかムカつく。
「あなたの目も腐ったものだ。何の才能もない豚を弟子にするなんて……あんな存在が私の弟弟子だと思うだけで嫌になる」
もう俺、名前を『豚』に改名したほうがいいのかなぁ……
それにしてもまあ酷い言われようだ。俺は気にしてないけどな!
それに俺の方だって、こんなクソビッチが姉弟子なんてすっごい嫌だ。吐き気がするね。死ねばいいのに。
そう! 死ねばいいのに!
「人を見た目で判断するのはやめた方がいいぞ。アイルはたった2ヶ月半とはいえ、俺がみっちりと鍛え上げているからな。レビア、お前の後ろにいる見掛け倒しの奴らよりは強いと思うぞ」
「……ほぉ」
いやアニキ、それは言い過ぎだと思いますぜ。
俺あんな完全武装集団に勝てる気なんてしないんだけど!
ほらぁ! 挑発するから向こうの騎士さん『チッ……』とか言ってますよ。舌打ちしちゃってますよ。めっちゃ殺気立ってますよ!
「そこまで言うならいいでしょう。あなたが教え子を出すと言うのなら、私も自らの手で育てている子を出しましょうか」
「エレオノーラ! 来なさい」
「ハッ!」
元気な返事とともに騎士たちの中から出てきた1人の兵士。
全身純白の鎧で覆っているのは同じだが、そいつは標準剣の他にレイピアを腰から吊り下げていた。いいなぁ。
鎧から覗く顔はなんとも凛々しい……クッソ! イケメン爆発しろ!
その憎たらしい顔が火傷で爛れればいいのに!
「そこの豚を消しなさい」
「承知!」
俺が今からやるのって殺し合いなの?
消すって何!?
「もし勝てば褒美をあげましょう」
「なんと……ありがたき幸せ!」
すっごいキラキラした目をしてるねえ、イケメンくん。
でも今喜ぶことじゃないよね。
「喜んでるけどさあ? まだあなたが勝つと決まったわけではないでしょう?」
そんな俺の言葉に騎士共が静かになる。
が、次の瞬間には兵団にすごく響く大爆笑が起きていた。
「ははははは!! お前勝てると思ってるのか!?」
「なんて夢見がちな豚なんだよコイツ!!」
「やべえ!! 笑いが止まらねぇ!!」
あ……やばい、切れそう。
頭の血管がプチっといっちゃいそう。
ノーノー……俺は大人だ。
こんなアホ共に笑われたくらいで怒っちゃいけない。
ふう……少しは落ち着いた……
「ぷっ! 豚が人間に勝てると思ってるのかい?」
………ん? ん? んんん?
怒りがボーダーラインを超えちゃった?
「ゴメン! 今なんて言った?」
「聞こえなかったかい? 『豚が人間に勝てると思ってるのかい?』と聞いたんだ」
……ふ、ふふふ、ふふふふふふふふふ!
デブだって事は自分でもちゃんと分かってるし、ちょっとやそっと言われたくらいじゃ別に怒りやしない。
と、思ってたんだけどなぁ!
集団から一気にバカにされるのがここまで腹立つとは思わなかった。
いやー参ったね!
ここまでバカにされちゃったら思わず殺りたくなっちゃうなぁ!!
まあとりあえず……
「その喧嘩買ってやるよ!! こらあ!!」
実力とかどうでも良い。
別にここで死んだって良い。
だけど、そのイケメン顔をブン殴らないと気が済まない!!
「アニキィ!! 俺があの澄ました顔してるイケメンヅラを殴り飛ばしてきます! 見ていてください!!」
「豚が私の顔に触れるだなんて、100年早い」
「一生無理ってか! コラ!」
こんのぅ……生まれながらの勝ち組が好き放題言いやがって……
敗者の気持ちも知らぬくせに!
「アイル」
「はい……」
「気合は十分か!」
「はい!!」
「怒りが湧いてるか!」
「はい!!」
「おっしゃぁ! 楽しんでこい!!」
「サー! イエッサー!!」
アニキの激励と周りの冒険者達の応援を受けて、俺は決闘に臨む。
◇
兵団の訓練場、俺とエレオノーラは向かい合っている。
「さっきの会話を聞いて分かってると思うが、俺の名前はアイル。お前は確かエレオノーラであってたよな?」
「豚は記憶力も悪いのだな。私の名前すら覚えていないとは」
「あーハイハイ。別にそーいうの良いから。一応は決闘なんだからエレオノーラも俺の名前は覚えとけ」
「豚の名など覚える価値もない。豚は豚だろう」
ピキリ……
額に青筋が浮かんだのがわかる。
この野郎……
どこまで俺のヘイトを上げれば気が済むんだよ。
「アイル〜!! 負けたら承知しないわよ!!」
素性を知られたくないジャンヌはどうしても騎士団には連行されたくないご様子。ジャンヌが俺を応援するなんて……うっ! 涙が……
他にも沢山の優しい冒険者のみんなが応援してくれてる。
これは負けるわけにはいきませんね。
「なんて貧相な……これではすでに勝負はついているようですね」
「うっせぇ。死ね。爆発しろ」
エレオノーラが俺の体をジロジロ見てそう言ってくる。
そういういちいち小馬鹿にした態度やめろや。
まあ確かに今持っている青銅の剣は貧相かもしれないな。小鬼も斬れないからな、流石にこれは駄目だろって思ってたけど。
一応は今日できる予定なんだけどなぁ……試合に間に合うかね?
ま! そこんところは運次第だ。
「アイル! 一つ言ってやれ!」
アニキの声が聞こえた。
う〜ん。そうだな、言いたい事は山ほどあるけど。
「ファ◯ク!」
今はとりあえず、中指を立てながらそう言ってやった。
「……なんと低脳な。お望みならその指、切り落として差し上げましょう」
「出来るもんならやってみろ」
険悪な雰囲気の中で互いに武器を構える。
1人の騎士が中間にたち、手を挙げている。その腕が振り下ろされた時、決闘は開始になる。エレオノーラを睨みつけながら、開始の合図を待つ。
「それでは……決闘、始め!」
始まりの瞬間にすごい速さでこちらに突っ込んでくるエレオノーラ。初幕から決めるつもりかよ。生意気な。
動きは直線的、速いといっても見切れない訳じゃない。これならアニキの『くねくね猪突猛進』って訓練の方が断然速かったし、名前の通り予測不能の動きをしてきて何度もタックルを食らって吹っ飛んでしまい、大変だった。
あんなに自信ありげな顔してたんだから、単にこの動きは俺を舐めてかかっているだけなのだろう。スッと半身で躱すと足を引っかける。見事に引っかかってイケメンはよろめいている。
ぷぷっ! ダサッ!
「舐めプはやめてほしいな」
近づいてきたエレオノーラの耳にそう呟いてから左足で蹴り飛ばしてやる。
軽めにやったつもりなんだけど、わりかし吹っ飛んだ。軽いなあいつ。
嫌がらせの一環として全男性の弱点である股間を狙ったんだけど、剣でギリギリガードされた。エレオノーラは反射神経がいいらしい。
5メートルほど宙を舞ったが、きっちりと受身を取っていたので怪我はないらしい。この程度で怪我をされても困るんだけどな!
エレオノーラは少し驚いた表情をしていたが、すぐに表情を戻して再び剣を構える。
「……少し本気を出そう」
本気を出すならレイピア抜けよ。
どうせレイピアの方がお前の使い慣れた得意武器なんだろう?
「そっちが本気を出さないなら、今度はもっと強く蹴り飛ばすぞこの野郎」
「豚に私が本気を出す必要はない!」
「……さっきは気まぐれでやらなかったけどさ、本当はお前が空振りした時点で俺が勝ってたんだからな? そこんとこ分かってる?」
足を引っ掛けた後、すれ違いざまに剣で首を切り落とせばそれで決闘終了。俺が勝ってた。さっきは蹴りで剣が近くにある股間を狙った為に防がれた。
だが首を狙った場合は推測でしかないけど、間に合わなかったと思う。
「仮の話は語るだけ無駄だ。今ある事実だけが重要だ。それに、他人の殺生を拒んだ自身のせいでもあるだろう」
エレオノーラを殺めなかった理由。
こんな簡単に終わらせたくなかったというのが一つ。
そしてもう一つは……彼の言う通りの理由。『人を殺したくない』という一瞬の気の迷いがあった。原因はただ一つ……前世の記憶だ。
魔が差したというのか。平和な日本で暮らした記憶が。意識が。
ウサギに似たホーンラビットは殺せても、やはり人を殺すというのは抵抗がある。心の中でどんなに憎い、殺したいと思っても殺人だけは躊躇われる。
矛盾してるな。どちらも自分なのに。
日本で殺人はダメだとしても、俺が今生きているのはこの世界で、仮にも冒険者なんだから命の価値だって軽い。
自分の命を取ろうとする人間はいなくする必要がある。殺られる前に殺る。この世界ではそれが必然的に求められる。
前世の意識に引っ張られて殺人を躊躇ってる場合じゃない。
目の前のエレオノーラは間違いなく『敵』なのだから。
覚悟を決めなくてはならない。
「まさかこんなデメリットがあるとはね……」
前世を思い出せたことはプラスにしかならないものだと思い込んでいたが……考えを改めなければならないな。
いきなり人を殺すのに慣れろ、というのは無理がある。
これから少しずつ、慣らしていけばいいのだから……
「エレオノーラはヘイトをたくさん上げてくれたからね……これなら初殺人にちょうどいいかもしれないな」
彼なら俺のいい踏み台になってくれそうだ。
さあ、決闘を続けよう。
(小説大賞の)感想が届かな〜い!
もう二週間経つんだが……時間がかかるのかなぁ?
早く評価もらって直せるところは直したい。直せるところは。




