17
吹雪が終わり。
一週間ほどは兵団に閉じこもっている状態になったが、べラルゴさんの機転で開発したこたつのおかげでそれほど厳しい暮らしにはならなかった。
お金が結局足りなくてラスト3日は何も食べないで過ごしたけど、『断食もまた修行だぞ』とアニキに言われたので必至に我慢した。
流石にジャンヌは耐えられなさそうだったのでアニキに頼んで後払いって事で食べ物を渡しておいた。
この一週間はも〜とにかく暇だった。
暇で死にそう。
外には出られない、娯楽もない、酒も飲めないし食べ物もない。
だったらやることといえば? 筋トレでしょ!
この一週間はとにかく筋トレ……別称地獄の訓練をしまくった。
雪が降り積もっていく中でただ1人、訓練場で鍛錬をした。
走って、転がって、腕立て伏せして、柔軟して、また走る。
その繰り返しをしていた。
途中で一回だけ無理をしてブッ倒れて兵団の冒険者達から説教を食らって、ジャンヌからは小馬鹿にされた。心配してくれているのは分かったので嬉しかった。
頭を撫でたら殴られてけどな。
俺はこの一週間で身も心もかなり成長した気がする。
たかが一週間で何が変わるんだって話だが、確かに何かが変わった感じがするのだ。
今はそれを小鬼に試したくてしょうがない。
「というわけで出『今日はやめておけ』ジンさんジンさん、セリフ被せないでくださいって」
せっかくカッコつけようと思ったのに。ぶーぶー。
まあ捻くれてもしょうがないから理由を聞くか。
「今日は何かあるんですか?」
「吹雪が終わって春が始まるこの季節にな……アイツらが来るんだよ」
ジンさんはどこか面倒臭そうな顔をしている。
‘アイツら’って何だろう? 『見てれば分かる』と言われてもな……
「街全体が静かね……いつもはこの時間から騒がしいのに」
日課の散歩を終えたジャンヌは気味が悪いと言っている。
兵団も今日は静寂に包まれており、どこか殺気立っている。
いつものおちゃらけた雰囲気とのギャップがやばい。
モン◯ンの狩人みたいになってるじゃないか。いつもと違う冒険者をなんかかっこいいと思う俺はすでに手遅れなんだろうか?
◇
仕方ないのでアニキと一緒にスクワットをして、時間を潰していた時、その集団が兵団へとやってきた。
白馬に乗る金髪の冷たい印象を受ける女性を先頭として、全身を白い甲冑で身を包んだ武装集団が街を見下しながらやってくる。
彼女らは『ロイヤルソルジャー』といって王族の保有する直属の騎士団らしい。名前が『王の兵士』って……まんまだな!
「御機嫌よう、粗暴な蛮人ども。相変わらず汚らしい格好をしていますね」
なんだあいつ? 初っ端から毒を吐いてきたぞ。
クリストフィアさんといい勝負できるんじゃないか?
俺はアニキとよくいることもあって、クリストフィアさんの毒マシンガンを常に受けているから大してイラついてはいないのだが、他の冒険者は違ったらしい。
あの女性の言葉に周りの冒険者は歯ぎしりをしながら鋭い視線を向けている。ここは王都でかなり実力のある冒険者が集っている。そんな彼らの殺気に当てられて向こうの騎士団も武器に手をかける。まさに一触即発の状態だ……いいね!
俺は心の中で親指を立ててグッドサインをする。
こんな空気の中で平然としている元凶の女性は凛と通る声で言った。
「オーウェンバルグを呼びなさい」
オーウェンバルグ? って誰?
そんな人居たっけか? あれ、でもどこかで聞いたような……誰だっけ?
「俺はここにいるぞ」
そう言って手をあげたのは隣にいるアニキ……アニキかぁ!
やべえ! アニキの本名忘れてたァァ!! あああああああ!!!
1人内心で悲鳴をあげるアイル。
そんな彼を正気に戻したのはジャンヌの言葉。
「私あの女嫌いだわ。だって偉そうなんだもの」
「ああ……同族嫌悪ってやつ?」
「ちょっと!! あんな高飛車な女と一緒にしないでよ!」
「凄えや。ここまで見事なブーメラン見たことねえ」
ジャンヌの言葉にツッコミを入れることで冷静になるアイル。
空気が空気なので小声で喧嘩しているのだが、あの女性には聞こえたらしい。
ギロッと感情のない目で見られる。
やめてくれよ。そんな目で見ないでくれ、Mに目覚めちゃうじゃないか……!
まあ冗談だけど。あっはっは。
絶対零度の視線など意にも介さず、心の中でおどけてみせる。
顔にニヤニヤが出ちゃったのか女性が一層厳しい視線を向けてくるがクリストフィアさんには遠く及ばない。もっと修行して出直して来いや。
女の人が俺から視線を外したときにはアニキがすぐそばまで行っていた。
これから一体何が始まるんだろう?
「お久しぶりですね。オーウェンバルグ。少し老けましたか?」
「師弟一年ぶりの会話だってのにそれはひどいんじゃないのかい、レビアちゃん」
「ちゃん付けしないでください。キモいです。不敬罪で投獄されたいんですか?」
ムムム! 師弟とな。
どうやらあのレビアちゃんとやらはアニキの弟子らしい。若いけど多分成人してるだろうし、俺より五年くらい前に師弟関係だったのかな?
でもレビアちゃんのアニキに対する態度はどう見ても師に対するものじゃない。2人の間に昔何かあったのかな。
「今の私はあなたより偉い。私が権限を行使して上にお願いすることであなたはいつでも殺せる。それを肝に銘じなさい」
いや、国家権力を振り回すなよ。それって犯罪じゃないの?
あいつ貴族か? 虎の威を借る狐感がハンパないぞ。
王家を守る騎士のリーダーがアレって……この国ヤバくない?
いや、まあ、貴族が腐ってるのは知ってたけどさあ。『清く正しく高潔に』だっけかな? そんな騎士道を貫く人たちのトップを貴族にやらせちゃダメでしょ。
国の未来を案じる俺の心の声は誰にも届かず、話は着々と進む。
「先程見た時、知らない顔が見えましたけど、この薄汚い兵団にもまだ入ろうとする人はいるのですね」
「薄汚くて失礼だったな。アイルとジャンヌのことか?」
おっと、俺の名前が出てきたぞ?
ジャンヌも自分の名前が呼ばれると思ってなかったのか、驚いている。
「男の方はあのデブでしょう? アレは論外です」
「おいおい、アイルが泣いちまうぞ」
ストレートにデブって来たな。
アニキ、安心してくれ。俺のメンタリティはこの程度で泣くほど脆くはないぜ。
「ふむ……ですが女の方はまだ素質がありそうです」
さっきから論外とか素質があるとか……一体何の話をしているんだろう。
俺が首を傾げていると、爆弾発言が飛び出してくる。
「ジャンヌとやらを貰いましょうか」
あーこれは面倒臭いパターンだな。
うん、もうね、30余年生きていれば大体分かる。
「彼女を寄越しなさい。私は立派な騎士に育て上げてみましょう」
「はぁ……毎年言っていることなんだがな、若い芽をそっちの都合で勝手に引き抜くのはいい加減やめてほしんだが」
「ここで冒険者などやって腐らせるよりはマシでしょう? 速くここに連れて来なさい」
……自分勝手。横暴極まりない。
あのクソビッチ、自分が何言ってるか分かってんのか?
周りの冒険者も俺と同じ気持ちなのかクソビッチに言い返す。
「騎士だからって調子こいてんじゃねえぞコラァ!」
「若い芽を腐らせてるのはお前らだろうが!」
「本物の戦いも知らない、高い地位にあぐらかいてる温室育ち共がよぉ!」
流石は死を間近に戦いをしている冒険者、威圧感が半端ない。
半分以上の騎士が恐縮する中、普段バカにされるのに慣れない貴族のいくつかがブチ切れて冒険者に言い返す。
「冒険者風情がデカイ顔をするな!」
「我々と貴様らでは人間としての出来が違うんだよ!!」
「金に卑しい亡者共が!」
そこからはもう罵倒の嵐。
冒険者も騎士も一歩も譲らぬ言い争い。
ジャンヌは怖いのか俺の背後に隠れてしまった。だいぶ怯えているようだ。
俺は決してイケメンではないので、あとでセクハラで訴えられる可能性を考慮して怯えるジャンヌを抱きしめたりはしない。
震える美少女を抱きしめるのはイケメンの仕事なのだよ。
とりあえずジャンヌが完全に隠れるように体を広げといた。
両者の言い争いはヒートアップ。
武器を抜く者が出始めた。いよいよ流血沙汰になるかと思ったその時、俺がジャンヌを兵団の奥に避難させようと思ったその時だった。
「鎮まれ!」
「武器を戻せぇ!」
クソビッチとアニキの大声が響き渡る。
2人の声に全員が動きを止める。
スゲェ。映画のワンシーンみたいだ。
「レビア……例年、俺たちはお前ら騎士団の権力に逆らえず、新人を抜き取られて来た。だがいい加減それも限界だ!」
アニキが今まで見たことない迫力で叫ぶ。
まさに野獣の雄叫びだ、流石アニキ、カッコいいです。
「話し合いによる解決はもう無理だ! だから今回は……代表者同士の戦いで決着をつけようじゃないか!!」
「……いいでしょう。私もいい加減この光景に飽きてきたところです」
戦い……決闘か?
確かに日本の江戸時代では争いの解決には武士同士の決闘が主だったが……やべえ。まじで映画を見てるみたい。興奮してきた。
「命は取らぬまでも……互いにボッコボコになるまで戦おうじゃないか!」
「見事に打ち勝って、ジャンヌとやらは私たち騎士団が頂きます」
おおお……アニキとクソビッチの戦いが始まるのか。
今までアニキが戦った所は見たことないんだよな。俺はいつも投げられるだけだし。ついにアニキのガチバトルシーンが観れるのか!?
「それじゃあ……」
「アイル! 出番だぁ!!」
……………
えっ? 俺?
修理費高すぎぃ!
給料日まで無理とか……
後二週間も『止まるんじゃねえぞぉ』で通学、危ない匂いしかしない。




