閑話 こたつ
訓練終わり、兵団で一服(塩水)飲んでいるといつもより冒険者の数が多いことに気づいた。
「なんか最近人が多くないすか?」
「本格的な冬が近づいてきてるからな、みんな寒がって外に出たくないんだろう」
隣で『平和主義者』で重装を受け持つべラルゴさんが手を擦り合わせながら教えてくれる。
う〜ん……その気持ちめちゃくちゃ分かるさね。
俺も冬の間に偶然頂いた貴重な休みの日は一日中こたつの中でスマホを弄ってて、翌日寝不足で仕事が終わらず徹夜で半泣きで残業したクソみたいな思い出が蘇る。
できれば思い出したくなかった。
こたつ……こたつかぁ……
この世界は魔法があるから科学は全く……というか科学っていう概念自体ないよね。
……日本のラノベでさ、『異世界に来ちゃったけど現代科学の知識で成り上がり〜フゥ〜!』みたいなのがあるけど、ただのブラックサラリーマンである俺が『こたつ』って言ってもつくり方なんか知らないし、『こたつは神』ってことくらいしかいえないんだよね。
もっと勉強しとけばよかったかな。
いや、こたつの作り方なんか知ってなんぞ?って話なんだろうけどさ。
本当に博識なラノベの主人公は羨ましい……
「あ〜でもこの世界にもこたつがあればな〜……」
「アイル君、さっきからぶつぶつ言ってるこたつってなんだ?」
俺の苦悩が独り言となって隣のべラルゴさんに聞こえていたみたい。
真面目で頭のいい彼になら教えてあげてもいいかもしれない。
「俺の故郷?にこたつっていう暖房器具があるんですよ。それを思い出して恋しくなってたんです」
「ふむ、その『こたつ』とやらは暖かいのか?」
「考案者は神だと思ってます」
べラルゴさんは興味深そうに『こたつ』について聞いてきた。
と言っても俺も構造なんかは詳しくは知らないので『熱を出す装置が入った厚い布に包まれた台』とだけ言っておいた。
一通り話を聞き終わったべラルゴさんはしばらく1人考え込んでいたが、やがて兵団を出て行った。
俺はその背中をぼんやり見ながらこれからについて考えていた。
◇
ここら辺の地域は冬になると猛吹雪がやってくるらしい。
その間は外に薬草摘みですら外に出ることは禁じられてる。吹雪が終わった後も雪の影響で狩りはやりづらいし、魔物が凶暴化する。
お金を稼ぐなら今のうちということだ。
「というわけで、今日もやってきました。ゴブリン平原」
先日も来たが、ここで今日は飽きるまで小鬼をぶっ飛ばす予定だ。
猛吹雪の間、生きていられる分のお金を貯金しなければいけない。
「燃えてきた!!」
ーーーーー
「小鬼発見! ア◯パンチ!」
自らの脳ミ……頭を周りの人に食べさせる、園児の大好きなヒーローの必殺技を繰り出す。要するにただの強いパンチなんだけどね。
俺の模倣アン◯ンチでも顔に当たった小鬼は飛ぶわ飛ぶわ……バイ◯イキンのようには飛ばないけど軽く五メートルは吹っ飛んだ。
「発勁!」
起き上がろうとする小鬼の顔面をダッシュで勢いをつけた手のひらで突き飛ばす。
するとなんということか! 小鬼の首はネジ切れて回転しながら飛んで行った。今度は君がアンパ◯マンになるのさ……
「脆い……」
小鬼が弱すぎる。
『ゴブリンは……なんて脆いんだろうね……アイル……』
ONE ◯IECEで俺の好きな言葉を真似てみた。アウトかな?
「んー……本当に弱すぎないか? これじゃあつまらないんだけど……」
あまりに呆気なく死んでいく小鬼に物足りなさを感じる。お金が稼ぎやすいって点ではいいんだけどね……
もっとこう……ハラハラドキドキするような戦いがしたい!
後ろから不意打ちとばかりにボロボロの刃物を持った小鬼が襲いかかってくるが、それをスッと躱して裏拳を繰り出す。
当然のように飛んでいく哀れな小鬼、倒れているところを肘落とし、エルボードロップを叩き込む。骨が折れる音がして、次に臓器が潰れる音がした。
「こういった刃物ってどこから持ってくるんだろうな……」
武装している小鬼は稀にいるが調達源が謎である。俺のようなデブにも倒されるくらいだし、冒険者から奪ったとは思えないんだけど。
まあ磨けばサビを落とせば意外と使えるし、売れば多少の金になる。
ナイフと魔石を回収して辺りを見回す。
この場所はゴブリン人口密度が低い。遠くに目を凝らしたらようやく一匹見えるってレベルだ。森とか行けばもっといっぱいいるのかな?
「う〜寒っ! そろそろ毛布とか防寒具買わないとダメだよな……この薄着じゃいつか風邪引いちゃうだろ」
俺の格好は何も変わっていない。持っていた服二枚を重ね着してるだけで防具も何もしていない。小鬼相手だからまだいいけど、本当の刃物相手だったら防御紙な俺なんてすぐやられちゃう気がする。
『貯金もいいが防具も買っとけ』とアニキから忠告も来ている。
頃合いなのかもしれない。
「帰るか……」
小鬼を10匹も狩ったし、いい方だろ。
防寒具と防具を買いに行かないといけない。
ああ、こたつがあればなぁ……
◇
兵団で魔石の換金を済ませた後、身にまとう防寒用の外套を探さなければならない。
「怠いな」
夕方になると一気に冷え込む。
さっさと買って兵団に帰ろう。
「サーセン。モコモコした暖かい外套とかないですかね?」
「んー……うちの店で一番優れたやつはこれだけど……絶対に買えないだろう?」
銀貨80枚、日本円にして400000円か。
やばい、ゼロが多くて目眩がしてくる……
俺の全財産銀貨2枚だぞ。10000円だぞ。買えるわけないやん。
「値引きとかしてくれませんか?」
「どんくらい?」
「97.5パーセント程割引してくれると助かります」
「バカにしてんのか?」
「ですよね」
「オヤジさん、忙しいところすまないが……って、アイル君じゃないか」
俺が銀貨80枚という大きさに遠い目をしてると、店の奥からなんとべラルゴさんが出てきた。なんでこんなとこにいるの?
頭の中に退職、追放、解雇、首切りなど不穏な言葉が出てくるが、別にそんなことはないらしい。
「今は奥の工房で他のみんなと試作品を作ってみたんだ」
是非ともみてもらいたいとの事。
時間に余裕はあるのでその試作品とやらを見てみることにした。
「何作ったんですか?」
「ああ、昼間に君に言われた通りに作ってみたんだけど、元を知っているアイル君に判断して欲しいんだ」
俺に言われた? 元を知っている?
……まさかとは思うけど、べラルゴさん達が作ろうとしてるものって……
「おう〜アイルじゃねえか。『こたつ』だっけか? なんでこんな素晴らしいものを俺たちに黙ってたんだよ〜」
「むふ〜……文字通りの肉布団襲来……これでもっとあったかくなる……」
「zzz……」
そこにあるのは紛れもなくこたつだった。ただ大きさが規格外すぎる。縦横それぞれ三メートルくらいあるぞ?
なんでこんなでかいの作ったんだよ。
「はぁ……こんなだらしない姿で3人がすまないね」
こたつの力に屈しているのか、だらしない格好で蕩けているジンさん達3人を見て、べラルゴさんは溜息を上げている。この人も苦労してんだな。
俺も前世は苦労人だったから何となくわかる。
胃が痛くて困ってるようだったら、胃に優しい薬草でも採ってきてあげるか。
「どうやってこんなの作ったんですか?」
「魔力を熱に変換する特殊な魔鉱石があってね、それを何個かテーブルの上に貼り付けてある。定期的に魔力を魔鉱石に補充すれば半永久的に使える」
魔法ってスゲー……
そんなリサイクルカイロ的なものがあったなんて知らなかったわ。
こたつの中に入ってみたけど、これ地球のこたつと何も変わらない。いやむしろこっちの方があったかくない?
「肉団子……」
リノンさん……年下だしリノンでいいかな?
リノンが俺の脂肪内にある熱エネルギーを求めて擦り寄ってくる。
「年頃の娘が不用意に男に近づいちゃダメだぞ〜」
「アイルは別に大丈夫」
信用されているのか、そうと思いたい。
俺も前世を合わせたら精神年齢は三十代だからなぁ……
日本で過労死しなければ、今頃リノンみたいな娘がいたのかもしれない。
……まあ、周りには子供っぽいとか童(貞)顔とか散々言われてたけどね。
ああ、結婚相手の顔が全く思い浮かびやしねえや。
こりゃあ子供ができる以前に結婚できたかも怪しいな……
穏やかに眠っているリノンの頭を優しく撫でる。
?顔の結婚相手を思い浮かべながら、俺はこたつの暖かさに包まれながら数時間だけ眠りについた。
3日後、こたつが兵団に運び込まれ、冒険者達がこたつの虜になって争奪戦が行われるまでに事が発展していた。




