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えっちぃとグロさと怖さが程よく混ざり合った良物語、それが『ゴブリンスレイヤー』
ある日、『このまんまるボディで前転をすればどれくらいの速さが出るのか』というどうでも良いことが気になった俺がでんぐり返しをしていると、アニキが助言、というよりかは提案をしてきた。
「アイル、そろそろ小鬼でも狩ってみたらどうだ? お前の強さなら十分勝てるはずだ」
「小鬼……ですか」
小鬼という魔物は元から知っていた。
日本のファンタジー物語では絶対と言っていいほど出てくる代表的な雑魚敵。
「本当に今の俺なんかに倒せるんですかね?」
「流石に角兎くらいじゃもの足りんだろ。採取依頼も良いがお前も仮には冒険者なんだから、小鬼の一匹や二匹は楽に倒せるようにならんとな!!」
豪快に笑うアニキ。
まあアニキが大丈夫というなら安心しても良いかな……
「小鬼は人型だから俺が叩き込んだ対人格闘術が使えるぞ」
「おお! 実践練習ですか! 良いですね!」
ここまで積み上げてきた地獄の練習、その成果が試せるのか。
是非とも楽しみだ。小鬼の野郎どもをけちょんけちょんにしてやろう。
「最下級の小鬼であろうと魔石は高く売れる。質が悪くても最低銅貨10枚はくだらないだろう」
「マジすか!!」
魔石一個で500円、なんと素晴らしき事か!
俺は今までなんて効率の悪い稼ぎ方をしていたんだ!
「目が輝いてるな」
「銅貨10枚なんて言ったら3日生きられますよ! 大収入です!」
「お、おう。そうか」
アニキが哀れなものを見る目を向けてきたが、興奮していた俺は気づかなかった。
◇
小鬼が居るという場所にやってきました。
途中で街道から外れて歩くと見晴らしのいい草原にたどり着く。
「おー……こんなに街から離れたのは初めてだな」
いつもは王都の外壁のすぐ近くで薬草を摘んだり角兎を刺殺しているのだが、王都から遠く離れた近くに木や城壁がないここはどこか寂しく感じる。
今日は1人、ソロで来た。
いつもなら小煩いジャンヌが付いてくるのだが、今日は彼女に見つかる前にさっさと街を抜け出してきた。
なんか小鬼ってえっちぃ事をするイメージがあるしね。ジャンヌは絶対に連れてきたくなかった。見つからなくて幸運だ。
持ってきた得物は青銅で作られた剣だ。
鉄剣は勿論、銅剣も今の俺には出費が多かったので一番安い青銅剣にしといた。
まあ今回はお試しということでやってみて、駄目そうだったら多少無理して銅剣を買うしかないかな。
剣を腰に提げて適当に歩いたら小鬼を発見する。
こちらにはまだ気づいてないようだ。
「流石は小鬼と呼ばれるだけあるな。俺よりも小さいか」
身長は小学校低学年くらい、俺よりも小さいか。なんか嬉しい。
兵団の冒険者は俺よりも頭一回りは大きいからな、女の子のジャンヌでさえちょっぴりだけど俺より高いし。
大丈夫。俺は伸びるさ。まだまだこれからだ。
せめてジャンヌは追い抜かないと、あいつより低いのはヤダ。
「見つからないように……」
最初は小鬼の強さを確かめるために無手で勝負をする。
今はせっかくの奇襲なのだから出来れば一撃で仕留めたい。
「……今だ!」
小鬼の動きが止まったのを見計らって背後から一気に近づく。小鬼が気づいた時にはすでに真後ろに来ている。
「死ね」
「グギャオ!?」
こちらを向いた小鬼の首を左腕でガッチリ固定すると、右手を側頭部に当てて思い切り左側に押すと同時に左腕を思い切り右に動かす。
『ボギョン!』という変な音がなったのを聞いて、首の骨を折ることができたのだと確信する。念の為小鬼を離した後距離を取って観察していたが動く気配はない。
本当に倒すことができたようだ。
「はあ〜良かった……首の骨を折りかたは教わってたけど、実践したことがなかったから怖かったんだよねぇ……」
そこら辺の人間で実践するわけにもいかないし、もし成功しなかった時が怖かったが杞憂だったようである。
首が見事に折れてる小鬼をツンツンしてるとやがて黒い靄となって空気中に消えていった。その場には銅貨10枚の魔石。
「真正面からは分からないけど、不意打ちできれば簡単に殺せるな」
光に当てると綺麗に輝く魔石を袋の中に入れる。
幸先の良いスタートにやる気が入る。
「おっしゃ! どんどん殺ってくぞ!」
3時の方向に二匹の小鬼、今回は正面から戦ってみよう。
お世辞にも速いとはいえない突進を受けて小鬼Aは軽く吹っ飛ぶ。こういう時に俺の体格は非常に役立つ。
仲間が吹っ飛んだのをみて俺を危ないと思ったのか、それともただの餌ととって見たのか、もう片方の小鬼Bが飛びかかってくる。
スッと体を少し後ろに下げて飛びかかりを躱すと、カウンターで顎に掌底を叩き込んでやった。パァン!と良い音がする。
自分の体格も考えると日本では小さい相撲取りに見えるんじゃなかろうか。
カウンターでフラつく小鬼Bの頭を両手で囲うように持つと、俺の下半身の方に振り下ろす。良い位置に来た頭に強烈な膝蹴りを食らわしてやる。
ビキッと小さな音がした。鼻の骨でも折れたかな?
俺のコンボはまだまだ続く。もう少しだけサンドバッグとして付き合ってくれ。
上段、中段、下段と三回の回し蹴りを肋骨に叩き込んだ後にキメとして胸骨に強烈な横蹴りを打ち込む。これがアニキに教えてもらった『蹴りの四段活用』だ。
小鬼は俺よりも身長が低いから蹴りが当てやすくて助かったわ。
それにしても回し蹴りを打ち込んでる時に肋骨がバキバキ逝ってる音がした。小鬼っていうのは案外脆いんだな。
トドメに横蹴りを喰らわしたから、胸の部分の骨はもうボロボロに折れて残ってないんじゃないかな?
折れた肋骨が心臓に刺さって死んでくれれば儲け物なんだけど。
「ぐ……ギャオ!」
「おっと! 最初のやつのこと忘れてた」
危うく一撃食らうところだったぜ。まあ、この二匹は武装してないし、攻撃が当たったとしても大したダメージはないと思うけどね。
今度は拳で倒してみよう。
「グギャー!」
「ハッハッハ! 俺と拳で語り合おうぜぇ!!」
俺は喜びを帯びた声を上げて小鬼Aに殴りかかる。
こう言うとサイコパスのように聞こえるかもしれないが……相手の人体を破壊するのは楽しい。骨が折れたりするのを聞いてるとスカッとするのだ。
……俺って案外戦闘狂の血とか混ざってるのかな?
ん〜格闘ゲームで相手を倒したりすると嬉しいって思う、ああいう感情だと思い込むことにしよう。
「ホウラァ!」
顔面がガラ空きの小鬼Aさんに本気の横フックをプレゼント。
喜んでくれたのか思い切り吹っ飛んでいった。
「70余キロのボディプレスを喰らえ!」
ダッシュで小鬼Aの元に向かっていき、そのままジャンプして自身の体重を利用したボディプレスをする。
ベキバキガキボキ!
俺の落下地点の骨は全て圧壊したようだ。
我ながら俺の体重は恐ろしい……
「ア……ギョ……」
死に切れてない小鬼Aが苦しそうに呻き声をあげる。
『早くお逝きなさい……』と頬をバチーンと叩いたら、がっくりと頭が垂れ下がる。無事に生き絶えたようだ。
「魔石ゲット〜」
霧となって消滅した彼の置き土産をルンルン気分で袋にしまう。
そういえばもう一匹が襲いかかってこないなと、蹴りコンボを入れた小鬼Bを探すと既に魔石を残して消滅してた。
運良く心臓に骨が刺さったのだろう。
「おっしゃ、もう1500円分稼げた」
大満足の結果である。
できればもう少し小鬼を狩っていたいが街までの距離は結構あるし、日も傾き始めてるので今日はここまでにしておこう。
「移動にすっごい時間かかったな……もっと速い移動手段があれば良いんだけど」
結局青銅の剣も使わなかったし、使う必要もなかった。
今度来るときは持ってこないでおこう。
「小鬼って弱かったな〜予想以上の収入だし、少しくらいはジャンヌにあげようかな」
テクテクと歩きで街に向かうアイル。
弱いとはいえ、小鬼の骨をパンチや蹴りで軽く破壊できるのは訓練による異常な力の強さが原因であることを彼はまだ知らない。
後日談 ※ガンガン飛ばしちゃって良いよ
ジャ「アイルがゴブリンを倒してたくさん稼いだみたいね! 私も行ってくる」
子豚「ダメだ! やめとけジャンヌ!」
ジャ「何よ、自分1人だけ稼ごうってつもり? そうはさせないわよ!」
子豚「違うんだジャンヌ! ゴブリンはあの……アレなんだよ!」
ジャ「アレってなによ? まあ安心なさい。私ががっぽり倒してきてあげるから」
子豚「やめろぉぉぉ!!」
後で調べてみると小鬼はそういうことはしないようだった。
日本のアニメに影響されすぎたアイルである。




