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「喋りかけるな、豚が!!」
俺の初恋はその言葉で終わりを告げる。わずか10秒ほどの恋だった。
まあ、まあまあまあまあ……
「……帰るか」
目の前の少女に背中を向けて歩き出す。
俺は何も見ていない。そう、何もナカッタ。
「ま、待て!」
「嫌です」
「止まってくれ! いきなり悪かった! まずは話を……」
「嫌です」
「悪かった! 豚なんて言って悪かったから!」
「嫌です」
先程の少女が俺の足にしがみついてくる。なんと鬱陶しい。
「豚ですけどぉ〜? 豚にしがみついていいことなんてありませんよさっさと離れろやコラ」
早口でまくしたてると更に許しを乞うてくる。
本当は豚と言われた事はさほど気にしてないのだが、それはセルフサービスで。
無視して歩いているが、今もしつこくしがみついている。
小娘が、止められるもんなら止めてみな。俺は止まらないからよぉ。
と、いうのは嘘で、いい加減歩く足は止めてあげた。
聞きたいことがあるのだ。
「そもそもアンタは何なんだよ、何で貴族がここにいるんだ」
薄汚れてはいるが彼女の着ている服は貴族が来ていそうな派手な服。彼女が貴族である事は疑いようがないだろう。
「ふん! やっと止まったわね!! くたびれたわ」
調子に乗るのが早いな、この小娘。
まあ貴族なんてみんなこんなもんか、俺も前までは似たようなもんだったし。とてもじゃないが人のことは言えないか。
「で、結局アンタは何者なんだ?」
「それは言えないわ!!」
「………」
それならもう用はない。帰ろう。
この女の子にはなるべく関わってはいけないと本能が告げてる。
面倒臭い目にあうのは嫌だ。
「ちょっと待ってよ〜!!」
……もう手遅れかもしれないけど。
一瞬でも『あ、運命の人……!』なんて思った自分がいけなかった。
この女の子、どうしてくれようか。
◇
俺は今、王都の東側を流れる小川にいる。
この小川には小さい魚がたくさん住んでおり、それを捕まえて食べては食費の削減につなげている。ここで採った魚は焼くと美味いのだ。
今日も魚を捕まえて食事にしようと思っていた。
「あら、すぐ近くにこんな小川があったのね」
唯一の誤算があるとすればこの女の存在くらいだろう。この少女、凄く付いてくるのだ。何も知らない俺だったら『可愛らしい……』と思ってホンワカするかもしれないけど、俺はもうこの女の本性を知っているからな。喜べない。
アニキ直伝の気合いで魚を取った後、火を起こしてそこに口から尻尾まで魚を突き刺した棒を立てていく。塩をまんべんなく振ってしばらく待つ。
「ちょっと、この魚焦げてるんじゃないですの!?」
「少し焼きすぎなくらいが丁度いいんだ。塩が魚とマッチして美味しいぞ」
ここ最近の昼食はずっと焼き魚だ。
最初こそ塩の量や焼き加減を間違えたことはあったけど、今ではほとんど間違えない。料理は火加減、これ重要。
丁度いい感じに焼きあがった焼き魚を一本石垣から抜き取ると少女に差し出す。
「おら、食え」
「誰が平民の食べ物なんて口にしますか!」
「あっそ。なら俺が全て食べる」
「待ちなさい!! 私が食べてあげないこともなくてよ」
「食べたいのか食べなくないのか、どっちなんだよ」
せっかく人が厚意で魚を半分あげようと思ったのに。
別になんだ、少女がなんだか物欲しげな目で焼き魚を見ていたからであって、可哀想に思ったからとかそういうのじゃないからな?
少女は最初、焼いた魚をツンツンしたりじっと眺めたりして食べるのを渋っていたが、やがて踏ん切りがついたのかパクッとかぶりついた。
そこからの反応はだいたい俺の予想通り。
焼き魚の美味しさに目を丸くした後、一気に魚を丸々一本食べ尽くした。
「も、もう一本食べてあげてもいいけど?」
「別にいいよ。好きなだけ食べな」
チラッチラと焼き魚を見てるくせに。食べたいって感情が丸出しだぞ。
欲しいなら欲しいって言えばいいものを。全く素直じゃないな。
『アイルはそれがブーメランで自分に刺さっているのに気づいていない!』
さて、俺も食べるか。
豪速で魚を食べ続けている少女を横目に、石垣の隅で大事に育てておいた俺専用の焼き魚を手に取って食べる。
うむ、やはり美味いな。塩がいい感じに効いている。買っておいて正解だった。
今はダイエット中なのでお腹いっぱいに食べることはしない。それに今日は後ろの少女がいるからいつもより少ない3本だ。大事に食べよう。
一本目を食べ終わって二本目。
それにしても俺は後ろの少女をどうするか考えなければならない。
あいつはどう見ても貴族だ。それは間違いないはず。
ただなんでこんなところに令嬢が一人でいたのか、それが分からない。
お忍び?
ひょっとしてお遊びで脱走したのか? あの超高い城壁を超えて? いやいや、一体どんなパワフルお嬢様だよ。
それに服は汚れてる上に所々破けてたからな……たとえ城壁を超えたとしてもそれだけであんなになるとは到底思えない。
え? まじであいつ一体なんなの? 怖いんですけど。
まさか……幽霊? ……いや、流石にないか。
俺が焼き魚を食しながら思考を巡らせているとそれを遮るものが。
「何をコソコソやってるの? あら、ここにも焼き魚が」
後ろから急に現れた少女はそう言って俺の焼き魚を奪い取った。
「あ、こらお前! それは俺が大事に大事に育てたやつだぞ。返せよ!」
「うふふ……残念、世の中早い者勝ちなのよ!」
「こんの野郎、人がちょっと優しくしたらすぐ調子乗りやがって……! 返せ!」
「嫌よ!」
俺はなんでほんとこんな奴に一瞬でも恋をしたのか。
アイルはしばらく思考を放棄して、喧嘩に興じることになった。
悲報……体重が冬休み前に比べて7キロも増えていた件




