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兵団(レギオン)に拾われてから一週間が経った。

食費のために薬草の摘み取りやホーンラビットの退治をしながらも、オーウェンバルグ団長(アニキ)の直接指導のもと、目下ダイエットに奮闘中だ。


走り込みや筋トレはもちろん、少しでも戦闘技術を学ぶということで、自己防衛の練習もしている。

アニキ直伝の護衛術の訓練は控えめに言ってハード、厳しめにいうとゲロにまみれている。


攻撃を半身になってかわすとかはまだ分かる。

ただ仰向けに寝ている状態から足腰の力だけで起き上がれとか、海老反りが出来るようになれとか、空中前転ができるようになれだとか……


そんなの戦いに役に立つとは思えないし、この体にできるわけないだろうがぁ!!


普通の人ですらこんなの出来る人なんてほんの一握りでしか無いのに、低身長大体重の子豚ちゃんに出来ることを要求しないでほしい。



いや。分かってるんだ。

この厳しい訓練にはちゃんとした意味があることなんて。おそらく体を柔らかくしたり、身軽な動きができるようになるために必要なんだ。


でもさ、まず痩せてからにしようぜ?



「腕立て伏せ100かーい!!」

「アニキィ!! 腕が地面に届きませーん!!」

「気合いで頑張れ!」


そんな俺の心の声が届くはずもなく、今も無茶な訓練をしている。

気合いで頑張れだとさ、気合いで腕の長さって伸びるのか? 気合いってなんだ?


こんな哲学的な思考になるのもしばしば……ほんと気合いってなんだろう?


このあと聞いたんだけど、アニキの訓練はやはり相当ハードなものらしく、おまけに彼は教えるのが下手なので、教えを乞うものはいないという。


つまりだ、俺はうっかり貧乏くじを引いてしまったようだ。

だがどんな訓練だろうと痩せることは変わりない。この後数ヶ月で、俺の体重はみるみると減っていくことになる。





もちろんそんな未来のことは全く知らない俺は今日、駄賃稼ぎに薬草摘みにきている。

道中はホーンラビット(魔物)も出て危ないのだが、正直訓練するよりもマシだ。あの地獄の修練から逃れるために依頼(クエスト)を受けていると言っても過言じゃない。


だって手足が動かせなくなるまでやらされるんだぜ? そして休憩時間には体になんか重石(おもし)っぽいのを乗せられて休憩どころじゃない。正直今だって筋肉痛で全身が痛いんだけど。

多少手足の脂肪が落ちて動きやすくなったけど、代わりに常時筋肉痛が起きているので結局動きづらいことに変わりはない。


ただ歩いて、魔物を()って、薬草摘んで、戻ってくるだけの簡単な依頼(クエスト)の最中だけが俺の唯一の休憩時間なのだ。



「は〜……薬草摘みたのしぃ〜……」


最近は薬学の勉強も始めてる。勉強と言っても、依頼(クエスト)で摘む薬草がなんの効果があって、どういう薬になるのかを調べて暗記してるだけだけどね。


ちなみに今採取してるのは『ラミリ草』と言われるもので、直接食べたら強力な毒でコロっと逝ってしまう結構危ない代物、これをすりつぶして抽出した毒素を水で薄めて使うらしい。


できた薬は毒消しに使われる。ラミリ草に含まれる毒素は他の毒素を攻撃、分解してくれる。そして残ったラミリ草の毒素はというと、アルコールを服用しなければ体に影響は出ないらしい。


『毒を以て毒を制す』……まさに言葉通りだな。これを考えた人は天才なんじゃなかろうか? 普通だったらこんなの絶対思いつかない。


「ラ〜ミリ草が〜1本2本〜」


自作のオリジナルソングを歌いながら、ラミリ草をツムツムする。

プチプチと摘み取っていくうちに、やがて編み籠がいっぱいになってきた。かなり時間も経っただろうし、そろそろやめるとしよう。



ここは王城のすぐ近く、街に出口から王都の外壁に沿ってずーと進んだところだ。

後ろを振り向けば木々の合間に豪華な王城の影がチラチラと見える。


「ほんとおっきいよなー」


街にいる時も遠巻きに見ることはできるけど、すぐ間近で見ると迫力が違う。

ブヨブヨした首の脂肪が邪魔してよく上を見ることができないが、見える所だけでも立派に作られているのが分かる。この国の王様が住んでるんだから当たり前っちゃ当たり前だけど。


「時間も押してるし、そろそろ戻らないと」


あんまり長い時間俺が街に戻ってこないと兄貴が心配するからな。

それにこの後食材確保もしなければならない。


「超絶可愛い美少女に会いたいなぁ……(唐突)」


たった一週間とはいえ、女っ気のない汗とゲロにまみれた訓練をしてたら心の癒しが必要になるってものよ……!

あ! クリストフィアさんは確かに美人だけど、あの人は例外だよ! クリストフィアさんはちょっと色々な意味で特別枠だから。


見目麗しき麗人で……デブな自分にも優しく接してくれるような、優しい人がいい。



「まあそんな人いないだろうけどな」


流石に前世も含めて三十年生きていればわかる。そんな男の誰もが望むような、素晴らしき女性などこの世にはいないのだと。

顔は平々凡々で収入も決して多くなかった俺が死ぬまでの24年間、今まで童貞彼女なしを保っていたのがその何よりの証拠だ。


所詮『女は金と顔』だ。これは前世の俺の格言である。


「だいたい現実に出会いを求めるのが間違ってーー」


ーー!!



やれやれという感じで、女についての考察をしていた俺だったが、その考察は途中で中断される事になった。自分のずっと前方に人がいる。


しかもその人は森の草はらに倒れていた。

緊急事態かと思い、倒れている人の近くへと急ぐ。


「大丈夫ですか!!」


大声を張り上げながら自分の出せる全速力で走る。

俺の起こす地響きで倒れていた人物は目を覚ましたようだ。


俺が近くについた時にはすでに体を起こしていた。



近くに来て顔をしっかり見た俺は、言葉を失った。

そこには理想としていた美しさを持つ女の子がいた。


銀色にうすく輝くストレートな髪に、人形のような透き通った紺青色の大きな目、汚れた服の隙間から白い肌が見える。

まるでどこかのお姫様のような人だった。


「お、お、お……」


胸がドキドキして止まない。顔も赤くなってきた。

ヤバイヤバイ、体が熱い!


ま、まさかさっきまでの考察はフラグだったのか!?

俺が理想の女の子に出会えるというフラグだったというのかぁ!?


どうしよう! 一目惚れしたのなんて初めてだからどうすればいいか分からない!

と、とりあえず何か話しかけなきゃ……


「あ、あ、あの……貴方は……」




「喋りかけるな、豚が!!」



「………」


そこでアイルの初恋は終わった。

赤みがかった顔は真顔になり、体の熱はスゥゥーーと引いていくのが分かった。



ーーうん、知ってた。


『現実はそんなに甘くない』これが今世の俺の格言になりそうだ。




私の格言は


『確率は収束するとは限らない』


です。グラブルのガチャで嫌という程わかった事ですね。

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