第5話 マナ
見るからにあやしい水晶がある。
占いとかで使うアレだ。
水晶の中は、曇っていて、よく見えない。
ずいぶんの使っていない様にも見えるが、これで俺を見るというのか。
残念ながら、俺にはきっと何もない。
彼らが期待している者ではないと知ったら、いったいどうなってしまうのだろう。
それは、自分たちが行った事でも同じ事がいえるだろうが、
ぞっとしないな。
ああ、きっと死んでしまうのだろう。
「では、利き手をこの水晶の上に」
まるで俺が望んでいるかの様に言うが、はっきり言ってやりたくはない。
自分の命運がかかっているのだから。
そうして無言の抵抗をしていると、しびれを切らしたのは、長老ではなく、アイだった。
「言っておくけど、逃げる事はできないから。あなたを気絶させてから無理やり手をかざす方法だってあるんだからね。やらせてあげるのは、こちらの善意と受け取ってほしいけど」
何が善意か。
ここまでしておいて。。。と瞬時に考えた所で、自分の行いを振り返った。
もうどうにでもなれ。
自暴自棄のように、そう見えるように左手をかざした。
そして、くすんでいた水晶が少しずつ光はじめ。
まさか俺が?と思った所で、あたり一面、何も見えなくなった。
「まさか。。。これほどとは、いや、なんだこれは」
ようやく目が見えるようになってから長老が慌てだした。目も完全に泳いでいる。
パニックを起こしているようだ。
「長老しっかりして、これはなんなの?成功なの?」
アイはむしろしっかりと、長老を抑え、肩を前後に振り出した。
それは、目が回るアレだろう。
たぶん
「やめ・・・目が・・・」
落ち着いてから話をするとの事で一度俺は、牢屋というには豪華な部屋に案内をされた。
部屋に入ると監禁というよりも、ゲストに近い扱いだ。
恐らく先ほどの光が原因なのだろう。
色々と思う事があるが、ひとまず自分の命が伸びた事に安堵した。
と、同時に、ちょっとした事でこの待遇も終わるのだろうと思った。
それは、この部屋に来るまでの間、俺が変な気をおこさないようにだろう。
汚く、目も死んでいる人間らしき生物が、冷たい、暗い鉄格子のなかにいた。
その前を堂々と通り、俺は、「助けてくれ」の言葉を何度となく、無視した。
俺は違うのだと、安い優越感と安心感から最低な顔をしていたのだろう。
しばらくすると、アイにそっくりな女性が部屋に来た。
たぶん目の色だけが違う様に思ったが、勘違いかもしれない。
だが、アイではない確信があった。目つきが明らかに違う。
「勇者様、お待ちしておりました。私、アイの姉、ユイと申します。」
「勇者。。。」
やはり、そうゆう事になるのか。
このプロジェクトに参加する前までは、それなりにゲームをやっていた。
この展開は、いわゆるテンプレか。
実際に目の当たりにしてみると、迷惑に感じるものだ。プレッシャーだろう。
「こちらの言葉がお分かりになるようで、さすがです。長老が勇者様をお待ちです。一緒に来ては頂けませんか?」
上目づかいで、媚びるように、両手を胸の前で固め、わかっているようにお願いをしてきた。
俺は、わかった、こいつはわかってやっている。
長老にでも言い含められているのだろう。丁重に扱えとでも。
わかってしまうと嫌悪感しかない。
それと同時に、必死な様を感じた。この機会を逃したくない。しかし、俺に気取られてしまっては、
立場が変わってしまう。
「いやだと言ったら」
「私にできる事、全てを勇者様へ捧げます!」
言い終わる前に両目を瞑り、大声で、緊張をした様に俺に放つ。
はっきりした。こいつは、俺の心を読む事が出来るのだと。
「こんなに早く私の力にお気づきになった方はいませんでした。さすがですね。私達エルフでも気づかない者がいるというのに」
「では、ユイよ。言わずも俺の事はわかるだろう、回りくどい事はやめてくれ」
「勇者様のご趣味があまりにも可愛いものでつい、お許し下さい。悪気があったわけではないのです。何としても勇者様に私達エルフを救って頂く為に、勇者様のお好みな女性になる必要がありました。必要なら、勇者様のご想像通りの行為もしました。」
先ほどの甘ったるい雰囲気から、無機質な表情のまま話を続ける。
「ですが、気づかれてしまった以上は、取り繕う事はありませんね。むしろ隠す方が失礼です。私の力は読心、条件はあるものの、一度対象になると永遠に心に耳を傾ける事が出来ます」
「条件とは、何かされた覚えはないのだが」
「ええ、意識があるうちには、ですが」
何を言っている、俺はずっと意識はあったし、おかしなものを口にいれた覚えはない。
それともミスリードか?
「そのミスリードが何かわかりませんが、嘘ではありませんよ。確かに勇者様の意識がないうちにおいたさせて頂きました。これは、私の命に係わる条件ですのでいくら勇者様でもお話は遠慮させて下さい。ですが、勇者様であれば、いずれわかる事かもしれませんね」
今度は先ほどの甘ったるい雰囲気で、一周回って、ウインクされた。
「では、いきましょう。勇者様も気になっているのでしょう。自分がなんなのか」
その通りなので、無言で後をついていった、長老の所までユイは、一度たりともこちらを振り向かなかったが、こちらの心が一方的に読まれていると思うとしゃくなので、
一般女性が思わず、恥ずかしくなような事を考え続けた。
時々、息使いがかわった所を見ると、こいつ好きだな。
「到着しました、それと勇者様、私はこういった力の関係でその手の事は効きません。今後は無駄としてお控え下さい」
絶対うそだ
「では、私はこれで一度失礼します。この扉の向こうに、長老とアイがいます。」
そのまま、ユイはそれこそが特殊な力ではないかと思う程のスピードで廊下の向こうへ消えていった。ごゆっくり。
扉に手を掛ける、思った程軽くて、こんな扉で何の意味があるのかと思ったが、
慎重に扉を押し開けた。
「勇者よ!遅いではないか!む?ユイはどうしたのだ。迎えで送ったのに、なぜ居らぬ」
この長老はたぶん、いいやつだ。少なくても悪ではない。
うかつかもしれないが、俺の顔を見た瞬間の笑顔で俺は騙されたのかもしれない。
「姉さんなら、そのうち来るでしょ。勇者へ話を早くしてあげて」
アイは、なぜが拗ねた顔をしている、バツが悪いのだろうか。俺は何もしていないのに。
「うむ、ではな勇者よ、ここに掛けてくれ」
座ったイスは今までの人生で一番柔らかく、それでいてしっかりした魔法の椅子だった。
「む?お気に召したようじゃな、その椅子は、ユイの手製でなワシも気に入っておる」
俺も一つ欲しいものだ。
「では勇者よ、これから話す事をよく聞いてほしい、そしてワシたちエルフを救ってほしいのじゃ」
「とにかく話を」
「うむ、まずはこの世界の事について、話をしよう。この世界は、星の世と言われておる、この星には、エルフと魔族がいるのじゃが、境界線があって、そう簡単にお互いに干渉する事はできないようになっておる。じゃが、一部の魔女が、こちらの世界にきて、エルフを殺し攫っておる。その事自体は珍しい事ではないのじゃが、魔女がこちらの世界にこれるのは、500年に1度のはずなのじゃ。それがここ最近、30年に1度のペースになっておる」
まさにゲームの世界ってわけだ。
「勇者殿には、この魔女を討伐、もしくは、捕獲してもらいたい」
「だが、俺にそんな力があるとは思えない、自慢ではないが、俺は元の世界では普通の人間だった。今でもそれが変わったようには感じない」
暗に先ほどの光の正体を聞きたいのだと伝えたつもりだったが。
長老はニヤッと笑い
「安心せい、おぬしの力は膨大じゃ、元の世界の事はよくわからないが、アイに聞く限りではマナがなかったのじゃろう?この世界はマナに満ち溢れておる。目を閉じて、体全体に光を纏うイメージをするといい」
出たマナだ。アイがこちらの世界に来た時に言っていた言葉。
マナがないから、魔法が使えないと言っていたが、長老のいう通り、やるだけやってみよう。
「もう十分じゃ!やめてくれ!」
「わかったから!もうすごいのはわかったから!」
二人が大声で騒ぎ始めた、俺はゆっくりと目を開けると何も見えなかった。
あの水晶の事を思い出す。これは俺がやった事なのか。
「わかったじゃろう。エルフでも、ここまでの光を出せなくもないが、まあ死ぬ。それをやすやすと」
「死ぬってそんな事を俺にやらせたのか」
危なく殺される所だったのか、本当にうかつだった。気をしっかりと持たねば。
「命の危険があった事は認めよう、すまぬ。だが、本当に命の危険があれば、そんな涼しい顔をしておれまい。体全体に倦怠感が襲い、まず息が出来なくなる。そうはならなかったじゃろ?」
確かにそうだった。二人に言われるまで、何も起きてないとすら思ったほどだ。
「これでわかったでしょう?あなたは勇者、間違いない。早く魔女を倒して」
こいつ。。。
「これ!失礼であろう。勇者殿も混乱しておるはずじゃ、それに今の所魔女はこちらに出てきていない。まずは、マナにしっかり慣れてもらい、それからじゃ」
今のような、瞑想でマナの使い方を誰しもが学ぶのだという。
目を閉じなくても集中出来るようになれば、マナの調整が出来るようになり、そのマナを物理的エネルギーに変換する事で魔法となる仕組みらしい。
なるほど、わからない。
「まあゆっくりな」
長老は、ふらふらと部屋を後にした。
「待たせたわね!勇者様!さあその力の使い方については、エルフ1の私がレクチャー致します!」
もう終わったよ。
だいぶスッキリしているな。
「終わってしまったの?アイ?どうだったの?勇者様は!」
「たぶん、過去最強」
「すごい!やっぱり私の力を瞬時に見抜いた勇者だけあるわ!それとスッキリってなんですの?何もしれいませんけれど」
噛んでるぞ。
「もう!」
「姉さんの力の事がわかったのはさすがにすごいと思うけど、こっちからすると二人がどんな会話をしているか検討も付かないからちゃんと会話してね。どうでもいいけど」
拗ねてる拗ねてる。
「これから俺は、マナの使い方を学ぶとして、それからどうするんだ?」
ユイは満面の笑みで、アイは照れ臭そうに、
「「私達と旅立ちです!!」」
年甲斐もなく、胸が躍ってしまった。
つい何時間前までは絶望すらしていたというのに、なんと安易な。
しかしこれだけは胸に刻もう。うかつな事はしないと。
「そんな事考えずとも、私達がしっかりお守りしますので大丈夫ですよ」
「アイ」
「は…はい!」
「ユイの力の発動条件はなんだ」
「もう!それはダメだといっているのに!」
「体の関」「ダメええ!!!」
よし、聞かなかった事にしよう、俺に身に覚えはない。
「それの解除方法はあるのか?」
「そこからはさすがに私からお話をさせて下さい。妹だからと言って何でも話す訳にはまいりません。」
「姉さんが念じれば解除されます」
「どうして知っているのおお?」
この姉妹、大丈夫か?
姉がとにかくアホすぎる。こんなでこの世界を生きていけるのだろうか。
ユイ、今すぐ解除しろ、さもなければ
「わかってますよ!もともとバレてしまっては意味のない力ですし、そのつもりでした。もっとも、ずっと後の事だと思っていましたが」
ユイは、両手を組み、腹部のちょっとした当たりで手を止めた。そして光が。
「これで解除です!もうわかりませんから、ちゃんと言葉にして下さいね!信じてますよ勇者様」
本当に解除したのか、したフリではないか。
確かめる必要があったので、脳内で大変な事をした。ユイの表情に変化はない。
先ほどの2倍以上の事だ、さすがに表情一つ変わらない事は不自然だ。
逆に真に堪えているのだとすれば、それはそれでいい。俺は、うかつな事はしないと決めたのだ。
こうして、俺の勇者としての1日が終わった。
部屋に入る直前、ドアが光っていたので、アイに聞いた所、ユイの仕業らしい。
マナを感じる事が出来た事で、俺にも見えたとの事。
ユイめ。これの事か。
しかし、マナを鍛える事で、魔法関係を視認できるのは便利だ。
しっかり学ぶ事にしよう。