第2話 少女 アイ
「ここは・・・どこ?」
その少女は、明らかに混乱をしていた。
それもそのはずだ。
この状況下で、冷静を保てる者など、いるはずもない。
「あの・・・」
少女は助けを求めるかのように、周りに声をかける。
いや、声をかけるというよりも、つぶやきに近い。
私達は、計画が成功した喜びよりも驚きが勝り、誰一人、声を出せずにいる。
私ですら、今目の前の後継が、自身の妄想ではないかとさえ思っている。
「主任・・・これからどの様にすれば・・・」
そう、星再生化計画は。この後の段取りがない。
異世界の神を召喚し、魔法を使ってもらい、そして星を再生する。
こんな、夢みたいな、物語みたいな事は、実は、誰も成功を想定していなかった。
「そうだな、えっと、君」
「は、はっい」
私はその少女に声をかけた。
声を掛けたというよりも、時間を稼いだ。
「えー、名前は?」
よく考えれば、名前を聞いてどうする。
それよりもこの少女は、今、この状況がどういったものなのかを知りたがっている。
我ながら、突発的なパニックに弱い。
「えと・・・アイ・・・です。」
アイ。
その少女の名。
「ではアイ・・・さん。この場での説明はなんですので、きちんと話ができる場所へお連れします。」
それが私の精一杯だった。
時間を稼ぐ。
この異世界からの召喚という未曽有の事態に、落ち着きを取り戻すべく。
「主任、よろしいでしょうか。」
こいつ、さっきからやたらと声をかけてくるな。
ちなみにこのスタッフは、一番新しい人間だ。
歳も若そうだが。
「なんだ」
「あのアイという少女ですが、本当に神様的な存在なのでしょうか。それよりも魔法・・・は使えるのでしょうか」
そう。
その通りである。
こんなにも苦労をして、この計画に8年と月日を掛け。
多額の金を使い、召喚したものが肝心な魔法が使えないのであれば、
この計画はすべてが終わる。
「聞いてみる。それしかない」
少女のいる部屋へ。
なぜか足取りが重い。アイの返答次第で全てが決まってしまう。
他の人間に行かせたいが、それはそれでヤキモキするだろう。
そのスタッフの言葉が恐らくは信じる事が出来ない。
私が行くしかない。
「はいるぞ」
そこには、先ほどの驚きにあふれた表情から一変。
全てを悟ったかのような、諦めた顔でアイはいた。
「では、アイさん。突然で大変申し訳ないのだが、こちらの言葉はわかるかな?」
今更だが、確認は必要だった。
とっさに名前を問いかけた時、少女が言葉を放った時、すでにこちらの言葉が理解している事はわかったが、
それでも、話をするとっかかりになった。
「はい、わかります。」
不思議だ。
なぜこんなにも落ち着いていられるのだろうか。
「本題に入る前に、一つ質問させてほしい、なぜそこまで落ち着いていられるのか?」
少女はゆっくりと立ち上がり、そして、
「うわーーーーーーーーーーーーーーーー」
大声を上げた。
「この方がお好みですか?」
ひとしきり大声を上げたのちに、また冷静に、感情なく、アイはそう言った。
「意味がわからない。耳が痛い。どういう事なのだ?」
「それよりもまず、そちらの説明が先なのではないですか?」
もっともだ。
しかし、腑に落ちない。
もしかして、こちらに呼ばれた理由がわかるのか?
いや、以前にも呼ばれた事があるのか?別の世界で。
考えても仕方がない。
「そうだな。すまない。こちらの説明をきちんとさせてもらう。」
「君にこの星を救ってほしい」