17話 降臨する災悪
世界が緑の光に包まれて、ありとあらゆる文明が崩壊をした。
かつて星最強の帝国でさえ、跡形もない。
今、この世界は破滅した。
最愛の母を里においてきた。
恐らく魔女によって殺されてしまったであろう。
それでも私は歩き続けた。
緑の光を受けても不思議と生物は死んでいなかったが、それも時間の問題だろう。
私はかつて帝国があった地に向かっている。
途中で会った人達がこぞってうわさをする。
「帝国の魔王と魔獣が戦っている」と。
この世界に魔獣なんてものはいない。きっとおぞましいナニカなのだろうが、
今なんの目的もない私は興味を持った。
どうせ魔人族の計画もなくなったのだ。
その魔獣とやらを見てみようと思った。
魔女からの攻撃で焦ったのか目指すべき帝国からだいぶ離れた場所のようだ。
道すがら聞くとあと3日はかかるらしい。
焦る必要もない。
帝国に近づくにつれて噂がひどいものになっていた。
魔女がいるだとか、魔王が負けたとか、魔獣が人の姿をしているとか。
とりとめがない。
だが、まだ戦いは終わっていないはずだ。
なぜなら、帝国に近づくにつれて噂もひどいが音がずっとしている。
轟音だ。
いったい誰と誰が戦っているのだろうか。
―帝国―
「なんなんだ!あれは!」
俺は魔女の言う通り、帝国を破壊した。
人々も焼き尽くした、そんな中あたり一面が緑の光に包まれ、俺の倍以上の破壊がもたらされた。
と思っていると、おぞましいナニカがそこにいた。
左半分が人の姿をしているものの、右半分が言葉では表現できないでも確かに嫌悪感を発生させるものになった人ではない者があった。
そのナニカは自分の下を少しみて、激しい咆哮と共に、緑色の光を吐き出した。
さっきの光はこいつの放ったものと理解した。
しばらくすると帝国の地下から、魔王様が現れた。
その姿を見た瞬間、自分は魔王様と会った事があると思い出せたが今はいい。
魔王様はそのナニカを見て、「無様だな」と一言いい。
激戦が始まった。
その激戦は6日間たった今も続いている。
しかも一緒に帝国にきてた魔女も魔王と共に戦っている。
もう俺はどうしたらいいかわからない。
ただ、口を開けその行く末を見る事しかできなかった。
なんと俺は無力なのか。
いつまで続くのかといい加減慣れてきたころ、突如としてその音は止んだ。
どちらかが負けたのだ。
俺もうかつだった。
ただの興味で安易に近づいてしまった。
そこには、魔王様の無残な姿と、形容しがたいなにかがあった。
ソレは魔王様を食い散らかした。
近くの野次馬もそれを見て、もどしている者もいる。
どこかで安心していた、魔王様が勝つだろうと。
こんなどこから湧いて出てきた魔物に負けるはずがないと。
しかし、魔王様は負けた。
この国も終わりだ。
魔王様を手も使わず食い散らかした後、ソレは眩い光に包まれ、整った姿になった。
魔王様のような、でも明らかに違うと言い切れる姿。
それは尊敬も畏怖もない、純粋な暴力を感じた。
もうすでに近いものから食われ始めている。
俺は、この騒ぎに紛れて魔女からの監視を逃れ、それでもこの帝国に居続けた。
頭ではわかっていてもトラ様が迎えにきてくれるとそう願っていたからだ。
だが、もう終わりだ。
もはや誰もこれを止める事は出来ない。
騎士団の生き残りがもういないのではないかと思う頃、怪しげなローブを身にまとい、いくつかの光が空を舞った。
アイツのこの世最後の攻撃かと思われたがそうではないらしい。
たぶん、あれは魔女に違いない。
皮肉なものでこの世界の絶対悪である魔女が、この世を終わらせる存在に立ち向かうとは。
目視でも4人いる。
その中には、俺にこの眼を開眼させた魔女もいたが、俺は立ち尽くすことしかできなかった。
死を待つかのように。
―ユウ視点―
帝国に到着をした。
近づくにつれてなる轟音はなりやんだ瞬間だった。
誘われるように人の流れに身を任せ、誰と誰が戦っていたのか。
それは自分の知っている人間なのか。
それだけが知りたかった。
でもわかっていた、目的もない、力もない私は誰かに声をかけてもらいたかった。
助けて欲しかった。
大多数の興味がある事に乗っかっていれば、あるいはと思ったが、
ここまでの道のりで声をかけてきたのは下衆な男だけだった。
さみしさから誘いに乗る事もあったが、残ったのは汚い金だけで、さみしさは埋まらなかった。
それでもここまでくる路銀にはなったわけだが、それ以上の意味はなかった。
帝国に再び到着した事で、目的達成の高揚感があった。
私は浮かれていた。
ここまでくる道のりもだいぶ自堕落な生活をしていたが、ひとまずは帝国にいくまではと
最低限の生活を送っていた。
到着してしまったが故に警戒も予測もしなかった。
魔女とナニカと戦いが始まった。
目視で確認できたが、魔女はわかる。言い伝え通りだからだ。
もう一方はわからない。
噂の魔王?いや、もっとおぞましいナニカだ。
近くの野次馬が巻き込まれて、ナニカに食われている。
魔女からのダメージも回復をしているようだ。
魔女の攻撃もむなしく、3人の魔女が倒され、食われた。
魔女を食べる度に、ナニカはどんどん人の形を形成していき、最後はキレイな少年になった。
最後の黒の魔女は、きっと自爆系の魔法だろうが、脅威のスピードでナニカに近づいたが
ナニカは黒の魔女がどうにかなる前に、魔法を解除、怯んだ黒の魔女すらも食べてしまった。
次の瞬間、ナニカは七色に光り始め…
―ナニカー
私はなんだ。
ここはどこだ。
何が起きているのか。
何もわからない。
今、私の周りには何もない。
全てが消滅している。
体の中で力が暴れているのを感じる。
この力をそのまま吐き出したい。
今はそれしか考えられない。
破壊、破壊、破壊・・・。
それだけが今私が考える事が出来る全てだ。
この場所を破壊して、星を破壊して、何もかも破壊しなければならないとそう思った。
あたり一面を破壊している頃、目の前に人間がいた。
2人だ。
一人は灼熱の目をしていて、もう一人は異次元の魔力を持った女。
不思議とこの2人は破壊をしていけないと悟ったが、振り下ろされたこの力は止める事は出来ない。
きっと大切だったであろうその2人を殺し、気が狂うように食べた。
それが唯一の贖罪だと思ったからだ。
目の前が突然七色になって、自分の目から発光していると気づくまでに時間が掛かった。
それまでもあたり一面を破壊して、殺して食べた。
あの二人を食べてから不思議な事に食べると不快感を覚えるようになった。
それでも止める事は出来ない。
咀嚼と嘔吐を繰り返しながら、私は前に進み続けた。
「そこまでだ」
七色の光を放つ目から見てもそれはおかしかった。
そいつは色がない。
「原初の魔王め、ここまで全盛期の力を取り戻しておきながら、自我がないのか」
原初の魔王?それは私の事か。
なぜだろうか。それだけは違う気がする。
しかし反論する気にならない、むしろ言葉を話す事が出来ない。
「マナの動きがおかしいと思ったら、この世界に転生したのか、しかもあろう事か勇者をベースにしてまで…」
勇者。
ああ、私は勇者だった。
勇者と言われ、俺は思い出した。
この世界に逆転移され、エルフの里で暮らし、ミミを救う為に戦った。
魔女に捕まってからは覚えていないが、そうだ、俺は勇者だ。
「ふん、記憶が戻った所でお前が行った事はもう元にもどらない。ここで消えろ」
その娘は、俺に剣を向けた。
相変わらず七色に染まった世界だが、その剣の先からは七色を塗りつぶす漆黒が放たれた。
俺はその光に危機感を覚えてよけたが、体の半分は持っていかれた。
俺の体は半分がなくなり、砂になっている。
そうか、俺はまた死ぬのか。
「…!。因子を巻こうったって、そうはいかない!フレア!」
俺の体からこぼれる砂を娘は焼き払った。
俺の体は焼けなかったが、砂はなくなってしまった。
俺は何を巻こうとしたのか。
「この世界での時間も、そう長くいられない。さよなら、別世界のお父さん」
放たれた漆黒の光を半分の体でよける事が出来る訳もなく、七色の世界から解放された。
「この世界ではまだ目覚めていなくて助かった」
ある世界ではもう手の施し様もなく、次元そのものを焼き払わなければいけない時もあった。
今回は手遅れである事に代わりはないが、星を救えただけでもいい方だろう。
「ふう」
溜息が出る、私はいったいあと何回こんなことをすればいいのだろうか。
体が透けてきた。
この時空での限界である。
私は運命を定められたハーフエルフ。
伝説の勇者と大魔導士ユイの子供。
ある時代では、魔王となり、またある時代では魔女となる。
時代によっては存在もしない。
そんな私はある運命を定められている。
必ず、原初の魔王を殺すこと。
次元を乗り越えてまでも。
原初の魔王が現界するケースは無限にある為、私は常に遅れてしか現界出来ない。
犠牲の上でしか、私は救えない。
108人の勇者によって組み込まれた聖杯システムによって、私は何度でも戦う。